4話06
扇情的な余韻を残しながらも……デルピュネーさんの配信リプレイは終了しました。これは登録と高評価ボタンを押さざるを得ないですね。しかしボタンはありませんので……拍手で私の意を伝えようと思います。
パチパチパチパチ。
途中からコムさんも拍手に合流してくれました。私達の拍手にデルピュネーさんも嬉しそうです。
「この日の配信は地震もあったが好評じゃったの。スーパーチャットも沢山貰えたのじゃ~。これで好物の冷凍マウスが沢山買えて嬉しいのじゃ~……と、そんな事を思っいながら就寝したのじゃ。そして次の日……アタイに連絡があったのじゃ。アタイの彼ピが、近所の路地裏で遺体として発見されたのじゃと……」
さっきまで、妖艶な配信を見せられていたかと思えば……ついに死にまつわる話が開始されてしまいました。話題が吹っ飛ぶどころではありませんね。今回の物語は展開の陰陽が激しすぎます。
「彼ピは早朝に発見されたらしいんじゃが……殺害手段は扼殺。前頭部に殴打された痕跡もあったそうじゃ」
扼殺って……あまり聞かない言葉ですね。どんな死に方なんでしょう。
「扼殺は絞殺と似ていて、どちらも首や喉を押さえつけられた時に用いられるんだ。死因は窒息になるのかな。もしくは頸動脈を押さえつけられ……俗に言われる【落ちた】状態になったまま、脳への血流が止められたとかで死んだ時もそう言うのかな。で、その二つの大きな違いなんだけど、絞殺は紐状の物で締め付けた場合に用いられて、扼殺は手や腕で締め付けられた時に使われるんだよ」
もはや阿吽の呼吸ですね。私の表情を察して、コムさんが解説を入れてくれました。
しかし、締めたのが紐か手で用語の違いがあるんですね。つまりは……必殺仕事人の三味線の糸で悪人を倒す手法は絞殺みたいです。扼殺は、なかなかイメージが湧かないのですが……メロドラマなんかの【つい、かっとなってやった】的なのは扼殺なんでしょうね。
「そして、数日後……アタイの自宅。いや、アタイ達の自宅に警察が訪れたのじゃ。アタイは用件を言われるまでもなく……わかっておった。その用件とは……アタイの逮捕なのじゃと」
「逮捕って……デルピュネーさんが殺したんですか?」
私は聞いてから、聞かなければよかったと後悔しました。だって……おそらくは、それがこの物語の【謎】なんでしょう。今、聞くべきことではありません。
ですが、私の言葉を聞いたデルピュネーさんは気を悪くしたようには見えません。それどころか、彼女は微笑みを浮かべていました。それは……なんとも悲しげな微笑みに見えました。
「そうなのじゃ……【つい、かっとなってやった】のじゃ」
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まさかの自白に場が凍りました。まるで蛇に睨まれた蛙のように……。私、上手いこと言いましたね。なんて、ふざけている場合ではありません。沈黙が場を支配しています。
「いやいや、そんな深刻な顔をしないでほしいのじゃ~。これは痴話喧嘩がエスカレートして起こった事故なのじゃ。事故と言っても、完全にアタイが悪い事故だったのじゃ~」
沈黙を破ったのはデルピュネーさんでした。無理に明るく振る舞っているようにも見えますね。ホント、私が迂闊な事を口に出さなければ良かったのに……反省しましょう。
「ところでじゃな……このままでは、この話には【謎】がなくなってしまうのじゃ。そこでアタイは、最後に一つ情報を出させてもらおうと思うのじゃ……いかがじゃろう?」
彼女の明るく振る舞っていた雰囲気は一変しました。それは太古より神と賛えられる蛇こそが持つ威厳。それを後光として彼女は語り続けます。
「実はな……彼ピの死亡推定時刻は23時から翌日0時であったのじゃ。ご存知じゃろう。アタイはその時間に何をしておった? そう、配信なのじゃ。アタイにはアリバイとやらがあるぞ。これを……今回の【謎】として提示させてもらおうと思うのじゃ~」
唐突に【謎】が出題されました。まだまだ、デルピュネーさんは話を続けます。
「……そして、もう一つ。アタイはいったい何者なのじゃ? これが二つ目の【謎】なのじゃ」
予想外の【謎】も提示されました。何者と言われても…… Vtuber としか思い浮かびません。更に続けて、彼女は発します。
「それでは……アタイの次回配信まで、ゆっくり考えてくれると嬉しいのじゃ」
その言葉は……私達の長い長い推理の時間の始まりを告げるものとなりました。