4話02
そこに現れたのは……上半身は人間で、下半身が蛇の生命体。いやいや、生命体とは言っても……こっちの世界に来ているのですから、現世では死んでいるはずですね。こういう場合は何と言えばいいのでしょう。死亡生命体? なんだかゾンビみたいですね。
えっと、説明を続けますと……先程言った通り上半身が人で下半身が蛇です。ラミアとでも言えばわかりやすいでしょうか。髪型は光沢のある白なのか、銀髪なのかと表現されるような色のロングヘアーです。癖のないストレートヘアーは羨ましいですね。そして、上半身は露出の多い衣装をしています。これは……俗に言われるビキニアーマーとか言うヤツですかね。一応、解説しますと……水着のビキニを想像してください、それの胸の部分が鎧になっているんです。ちなみにお胸のボリュームはてんこ盛りでした。
さて、問題の下半身ですけど……蛇です。はい、紛うことなき蛇です。鱗の色は白を基調とした……何と言おうが、蛇です。その長さは、とてもとても長いものでした。
最後なんですが、この生命体の最大の特徴なんですけど……彼女の容姿は、まるでアニメキャラが飛び出してきたかのようだったんです。
「失礼ですが……お名前、もう一度よろしいでしょうか」
コムさんは名前を聞き取れなかったようで、もう一度伺おうと試みました。その気持ち痛いほどわかります。だって……謎の生物が入ってきて、さらに謎の口上ですよ。情報量が溢れています。正直に申せば……私もまったく名前を覚えていません。
「あ、はい……わかりました。ゴホンゴホン。アーアー」
自分の声量、滑舌が不安になったんでしょうか。謎の生物は声色を整えています。
私、ずっと【面白い】話を持ったお客様を待っていましたけど……お前の存在が【面白い】のは反則だろ。そう口に出したかったのですが、必死に堪えました。
そして、発声練習が終わったようですね。彼女は口を開きます。
「おはようごじゃいます。もしくはこんにちじゃ。夜の方にはこんばんじゃ。呼ばれて飛び出てやってきました、アタイの名前は Delphyne 蛇理亞。今日もよろしくなのじゃ~」
えっと……彼女は【デルピュネー・ダリア】と言うみたいですね。はい……こちらこそ、よろしくお願いします。
その時でした。私の表情は、何かを物語ってしまったみたいです。何かとは言っても……それは困惑なんですけどね。
「あ、すいません。私……生前は Vtuber をしていまして、こちらでも当時の Vtuber の設定でやらせてもらっているんですよ。私、緊張しやすいタイプでして……何らかの役を演じていた方が気が楽なんです」
デルピュネーさんは急に声のトーンが下がると、そう発言しました。多分、これが素の声なんでしょうね。先程までの声もハスキーでしたが、低温になるとより魅力的に聞こえます。女性に惚れられる系の女性の声……タチっぽいとでも言うと伝わりますかね。
「あの……皆さんは Vtuber というのは、知っていらっしゃいますか?」
デルピュネーさんは、すっかり自分の素の声に戻ると……低姿勢のまま、私達に問いかけます。
「私は……多少、知っています。コムさんはどうです?」
「うん。僕も知ってるよ。でも……僕が知ってたのは獣幼女なんだけど声はおじさんって Vtuber だったかな」
私達は各自、ある程度は知っている旨を返答しました。
「ああ、バ美肉おじさんですね! ああいうギャップが面白いんですよ。しかもですね……バ美肉おじさんって、下手な女性よりも女性を演じるのが上手かったりして勉強になると言うか、可愛らしいというか、羨ましいです。それに、私もバ美肉おじさんとコラボをした事があるんですが、コメントもバ美肉おじさんばかりを褒めちぎっていて、挙句の果て……私の方がおじさん扱いされたりしたものです」
おぉ……。見事に意味がわからない。デルピュネーさんから早口に発せられた言葉には、理解できない単語が含まれていました。バ美肉って何?
「あ、すいません! ええと、バ美肉おじさんと言うのはですね。【バーチャル美少女受肉おじさん】、の略なんです。つまりバーチャルの世界で美少女やそれに類する姿を手に入れたおじさんなんですよ。言葉だけ聞くとヤバく感じるかもしれないですが、一度見てみてください。多分、ハマりますよ。オススメは【怖気・SAN】さんです。一部で有名なホラーゲーム実況系 Vtuber でして、可愛らしい容姿なのにゲームで驚いた時の悲鳴はおじさんそのものなんですよ。そのギャップが面白くて、私もよく配信を見に行きました。気づきました? 彼女の名前……略して【おじさん】なんですよ……私も生前にコラボしてみたかったなあ」
なんとなく……分かったような分からなかったような。とりあえず、理解するためにも、コムさん……【バ美肉】をやってみてくれないですかね。
私はちらりとコムさんを見てみました。いや、ちらりどころか……ガン見していたかもしれません。
そんなコムさんは……決して目を合わせようとはしませんでした。