4話01
みなさんは Vtuber を知っていますか?
それは最近の、現世で人気のアイドルです。それも普通のアイドルではありません。バーチャルなアイドルなのです。え? 意味がわからないですって……うーん、何と言えば伝わりますかね。例えば、現世には【着ぐるみ】というものがあるじゃないですか。当然ですが、その中に入っている人は【着ぐるみ】のキャラクターを演じていますよね。見る側も中の人を詮索するなどというのは無粋です。その仕組みをインターネット上に持ち込んだとでもいいますか……要は、可愛く描かれた美少女や非の打ち所のないイケメン、ファンタジーなキャラクターから犬だったりと多様なキャラクターが実際に生きているかのように動き、視聴者さん達と同じゲームをしているのが配信されているんです。
多分、それが今までのアイドルよりも身近に感じるのでしょう。色々な方々の支持を集めることで、Vtuber の人気は急上昇していきました。広告効果も凄まじいらしいですよ。SNS等のコミュニケーションツールでは、Vtuber の話題が世界一位になっている事もしばしばなんです。そんな人気のある世界だけに、毎日のように新人がデビューしているそうで……今では総数がいったいどれくらいなのかは不明みたいですね。
話は変わりますが、世間では多様性が話題になっています。そして、今の Vtuber こそ……多様性の象徴なのかもしれません。視聴者は数多の Vtuber から自分が応援したいアイドルを確実に探すことが出来ます。それが出来るほど Vtuber は数多に存在しているんです。きっとこれが……今の世界に求められるアイドル像なんでしょうね。
本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【面白い】物語なのでしょうか。
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「退屈で死にそう……」
抑揚のない声が反響して聞こえてくる。いつもの部屋で、いつものように頭を突っ伏した男女がいた。
いや、男女がいると言うのは不適当かもしれない。片側の男は特に問題がないのだ。特徴もない。だがもう一人の女。こちらは幼女と呼ぶのが適当に見える。ただし、幼女と言うのであれば……もう少し活気溢れるように見えても良さそうなものだが、机に頭を突っ伏したまま何ら動きを見せていない。
机に頭を突っ伏している男性、彼は小紫祥伍と言い、幼女からはコムさんと呼ばれている。
机に頭を突っ伏している幼女、彼女は堀尾祐姫と言い、小紫からはおゆきさんと呼ばれている。
「今、予約してる方は……最近こちらに来た人だから、まだまだ来ないよ」
小紫は、先程のおゆきさんの独り言に追い打ちをかけた。おゆきさんは足をパタパタと振ることで、それへの抗議を表明している。
「そういえば……僕、思うんだけどさ」
小紫は話題の転換を試みているようだ。幼女の姿をした者に延々と駄々をこねられては分が悪いのだろう。
「……何をですか」
おゆきさんは小紫の話の続きを求める。興味を持ったようだ。小紫からしたら、釣れた! という気持ちであろう。
「ゾンビの死亡推定時刻って……生命活動を終えた時なのか、ゾンビ活動を終えた時のどっちなんだろうね」
「……」
おゆきさんの返答はない。小紫も特にそれを求めてはいないようだ。そして沈黙の時が流れる。
そこから悠久と時は流れ……ようやく彼らの待ち人が現れた。
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コムさんは事務所のような部屋のドアを開けると、お客様を招き入れていますね。
さあ、本日はどのような【面白い】話を持ったお客様がいらしたのでしょうか。楽しみです。
あれ、えっと……心なしかコムさんの顔色が、普段と違って見えますね。なんと言いましょうか……あの鉄面皮のようなコムさんが目に見えて狼狽しているんです。これは……期待できそうですね。いったいお客様はどんな方なんでしょう。それは鬼か悪魔か乃済水都か……私はドアから何者が現れるのかに注目しました。
するとドアのスペースから何かが侵入してきました。それは……ヌルッと入ってくると口を開きます。
そして……その見た目に反したハスキーな声が室内に響き渡りました。
「おはようごじゃいます。もしくはこんにちじゃ。夜の方にはこんばんじゃ。呼ばれて飛び出てやってきました、アタイの名前は Delphyne 蛇理亞。今日もよろしくなのじゃ~」