3話10
「この空間も……乃済さんが具現化されたものですか?」
目前に広がっている暗闇のスペースを視界に入れたまま、コムさんが乃済さんに尋ねました。
「はい。これも、私の体験した密室脱出ゲームなんです。引き続き、皆さんにも体験してもらえればと思いまして……」
なるほど。これがトレーラーハウスの移動先だったんですね。さすがにこんな展開は予想外です。私は素直に感服しました。となると、この空間が真っ暗で何も見えないからと言って、勝手に私やコムさんが照明を具現化して追加してしまうのは無粋というものでしょう。その時……私の頭から、電球がピカピカと輝いているようなイメージが湧き出して来ました。言い換えれば……閃いたのです。
「収納の所に懐中電灯がありましたよね。私取ってきます」
私は、光が灯る懐中電灯があった事を思い出すと、それを取りに走り出しました。
それは、先程の収納の床に転がっていました。試しにスイッチをONにすると……光の筋が広がりながら周囲を照らします。私はそれを持つと、トレーラーハウスのドアへと駆け足で戻るのでした。
ドアのところへ戻ると、コムさんと乃済さんの頭部が私の頭と同じくらいの高さにありました。少し違和感がありましたが、すぐに理解します。二人共、もうトレーラーハウスの外へ出たみたいですね。まったく……ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃないですか。私はドアと地面への段差をぴょんと降りると……二人の所に合流します。
「私だと背が低いんで……これ、コムさんが持っててください」
そして、コムさんへ光の灯ったままの懐中電灯を渡しました。
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懐中電灯の灯りは周囲をぐるっと照らします。それで、この空間の造りがどのようになっているか判明しました。
この空間を説明しますと……凸の時のような構造だと言うのが適切でしょうね。凸の字の上の出っ張りがトレーラーハウスだと思ってください。そのドアから降りたところが、凸の字の下の空間になっています。広さは……そうですね。コンビニエンス・ストアぐらいを想像してもらうのがいいと思います。
「ちょっと見回ってみようか」
コムさんは、そう言うと凸の字の下の空間へと足を進めました。私と乃済さんも後に続きます。
懐中電灯の灯りは周囲の壁や床、天井をくまなく照らしていきます。それらは全てが打ちっぱなしのコンクリートで出来ていました。壁を触った感じ、かなりぶ厚いコンクリート壁だというのがわかります。床や天井は、流石にそれよりは薄いんでしょうが……それでも、人力でどうにかできる物ではなさそうですね。ただ、壁には一点だけ気になる所がありました。それは……トレーラーハウスで発見した臼と同じく、血を思わせるような赤色で数字が書かれていたのです。そこには【6・3・8・9・10・10・1・5】と記されていました。
トレーラーハウスとコンクリート壁の接点も観察してみます。トレーラーハウスの壁はコンクリート壁と隙間なく設置されていました。言葉で説明するなら……難しいですけど、凸の字の真ん中の横線がもう少し内側に長くなった……そんなイメージです。さらには、トレーラーハウスの天井とコンクリートの天井の高さもピッタリと合わせられていました。
おそらくですが……このコンクリートの建物には、トレーラーハウスがキッチリと収まる大きさの穴が天井に開けられていたんだと思います。そして牽引していたトラックから切り離されたトレーラーハウスは、クレーンで吊り上げられ……上からコンクリートの建物にスッポリと収められた。先程の揺れは多分……それの再現だったのではないでしょうか。
それにしてもトレーラーハウスの高さとコンクリートの建物が一致しているぐらいですから、この建物はこの為だけに設計されたんでしょう。大掛かりな仕掛けですね。これぞ……豪腕という感じです。