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3話09



「あ、すいません。私、皆さんが暗証番号を解くのを見ていたんですけど……すぐに小紫さんが解けてしまったようでしたので、これ以上見ていても暇だったから料理していました」


 乃済さんがそう発言したので、(アタシ)は集中を解くと目を開きました。そして、隣のコムさんを見やります。(アタシ)の視線に気づいたコムさんはニヤリと笑いました。え? もう解けちゃったんですか? ズルいズルい。(アタシ)達、一蓮托生じゃないですか。置いてかないでくださいよ。


 それにアレだ、乃済さんの発言。コムさんが解けて暇だったからって……それは(アタシ)には見る価値がないということでしょうか。何か嫌な気持ちになります。


「小紫さん。お暇でしたら……たいした物じゃないんですけど、私の料理を召し上がってもらえませんか?」


 コムさんは誘われるがままに、キッチンの方へと向かうと料理を摘まみ始めました。


「うん、美味しいですね」


 コムさんは乃済さんの料理を称讃していますが、(アタシ)知ってますからね。こっちの世界の住民は味覚とかじゃなくて雰囲気しか味わえないんです。だから、美味しいかどうかなんてわからないんですよ。そもそも料理をする必要なんてなくて、具現化で出しちゃえばいいだけです!


 と、怒りに身を任せていても謎は解けません。(アタシ)は再び……沼へと頭から飛び込んでいきました。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 少し時間が経ちました。声だけは聞こえきます。あちらでは食事を終えたようですね。コムさんが一口ごとに絶賛しているのが聞こえました。


 その時……トレーラーハウスが揺れ始めたのです。例えるなら地震と同じ程の揺れに、(アタシ)は驚いて目を開きました。何事だろうかとコムさん達を見るのですが、コムさんは狼狽して見えるのに対して……乃済さんは落ち着いて見えます。


「すいません。演出なんです」


 乃済さんは、そう言いました。そして現世にして十分ほどでしょうか。その揺れは続くと、最後に強めの揺れを残し……ようやく収まったのです。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




「もう、考えてもわからないから……(アタシ)は 142560 で行きます!」


 さっきからのコムさんと乃済さんだったり、強い揺れが長く続いたりで集中しきれなかった(アタシ)は諦めました。142560 と言うのは【九・三・二・六・一・八・十一・五】の全ての数を積算したものです。はい、他の情報は全て無視しました。


 コムさんと乃済さんは料理の片付けを終えると、こちらに歩み寄ってきます。


「じゃあ僕の考えを言わせてもらうと…… 8999 かな」


 8999 ですか、9の三連打ですね。【九十九百恵】さんの【ももも】連打を思い出します。それにしても何故 8999 なんでしょう。理由はあるんでしょうか。(アタシ)は、それを表情で伝えました。


「えっとね……壬申とか戊辰、それと乙巳かな。これは歴史的事件ではなくて干支(えと)を思わせるヒントなんだよ。知ってる? 【ね・うし・とら・う・たつ・み・ うま・ひつじ・さる・ とり・いぬ・い】って」


 (アタシ)も流石にそれくらいは知ってますので、表情で伝えましょう。おそらく……コムさんの意見が正解なんでしょうね。


「それの頭文字を【九・三・二・六・一・八・十一・五】の順で拾ってみるんだよ、すると……」


 コムさんは最後まで言い終わらず、言葉を切りました。(アタシ)に答えさせようということですね。ええと……九番目の干支の頭文字は【さ】。二番目は……【と】……【う】。次は【み】……【ね】。そして【ひ】……【い】……【た】。

 


「【さとう みね ひいた】ですね」


 (アタシ)はコムさんが発言しないままで止めた部分を継ぎました。あぁ、なるほど……わかりました。


「佐藤さんから峰さんを引くんですね?」


「うん」


 コムさんは、(アタシ)が暗証番号の答えに辿り着いたのを認めてくれたみたいです。


「【佐藤万由】の 10000 から【峰仙一】の 1001 を引けば…… 8999 だね」


 (アタシ)の 142560 は二度目の空振りとなってしまいましたが、これには納得です。言われてみれば……簡単な暗号トリックなんですけど、多数のお客さんを集めるであろうミステリーツアーの難易度としては、これぐらいが適切なんでしょうね。難しい問題を出しすぎて、誰も解けないようなツアーになってしまったら顧客満足度にも響きそうですから。


 ちなみに難しすぎて解けないような問題は、こちらの世界でも人気がありません。だって、それは出題者の自己満足ですからね。人を楽しませるようなものこそが喜ばれるんですよ。


「8999 でよろしいですか?」


 微笑を浮かべ、乃済さんはそう確認してきました。そして、コムさんがそれに答えます。


「8999 でお願いします」


 それを聞くと、乃済さんはトレーラーハウス中央のドアへと向かいました。(アタシ)達も、それに続きます。そして乃済さんはドアの暗証番号入力装置に 8999 と打つとENTERを力強く……ターンと叩きました。


 ガチャリ。


 重厚なドアから、そんな音が聞こえてきました。ロックが開いたのでしょう。やりましたね、トレーラーハウスの密室からの脱出成功です! 


 嬉しさもあってか、(アタシ)はコムさんにしがみついたのですが……コムさんは(アタシ)を引きずるようにしてドアへ向かう、と重そうなドアを押し開きました。


 (アタシ)は、開かれた先は何処なんだろう……そんな期待と不安を抱えながら、外を見やりました。


 しかし、外には何も見えません。そこは……真っ暗でした。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 少しだけ先の事を話しますね。(アタシ)達が開かれたドアから見た、その先についてです。


 【トレーラーハウスの密室を抜けると密室であった】



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