3話06
いきなり登場した【九十九百恵】なる人物に戸惑う私。なんて読むんでしょうか……【つくもももえ】? 絶対、渾名は【ももちゃん】でしょうね。ワンチャン【もももちゃん】かもしれませんが……。
私は冷蔵庫から冷えたカードを取り出しました。これで二枚目です。まったくもって関連性の無い二枚のカードを見比べてみても、何もわからないですね。私は、さらなる手がかりを求め、キッチン周辺を隅から隅まで、しらみ潰しにしていきました。
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キッチンでの手がかり掃討作戦は徒労に終わりました。はい、私も探しながら気づいたのです。これまでに発見した2枚のカードは鍋・冷蔵庫の中にありましたよね。それは隠されていたというよりは……置かれていたという方が適切な表現でしょう。つまりですね、キッチンを洗いざらい調べた所で見つけられる訳がないんですよ。多分、カードはわかりやすい場所に配置されていますね……間違いないです。ところで、キッチンを洗いざらいって、ちょっと面白くないですか? ほら、キッチンだけに……ってね。
「次は……リビングを探してみますか」
誰も聞いていないにもかかわらず、自身の次の行動を独り言として漏らす私。よくある事ですよね。
リビングには小さな書棚とソファーが置かれていました。書棚には本も詰められていますね。そのタイトルを見ると……ミステリーや歴史本。そして恋愛小説が数多く並べられていました。
「この本って……乃済さんが知ってる本です?」
私は、私達が捜索している様を静かに見守っている乃済さんに尋ねました。
「ええ。その本は私と愛恵が一緒に語り合った事のある本です。私達にとっては思い出深い本なんですよ」
私は書棚から一冊抜くと、それを流し読みしてみました。恋愛小説みたいです。ざっと見、ダブルヒロインの恋愛物のようですね。
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沢山の本の間にカードが挟まれてはいないだろうか。私はソファーに腰掛けながら、一冊一冊を丁寧に調べていきます。ですが、希求のカードは出てきません。たまに挟まれている栞がある度に、私は一喜一憂したものです。
パタンと本を閉じました。最後の本まで調べ終わった結果、私の手元には各出版社の栞が集められたのです。こう見てみると……それぞれに違っているものですね。同じ出版社の物でもデザインが異なる物があったりして興味深いです。そして私の探しもの……プラスチック製のカードは出てきませんでした。
「ふぅ〰」
書棚の探索が徒労に終わった私は、ソファーに大の字で横たわります。フカフカなソファーは私を包み込むようで、蕩けるようになってしまいます。全身から力が抜け……だらけたまま放り出された足、弛緩しきった胴、怠慢な腕は動きを見せません。そして手だけは落ち着く場所を求めて……緩慢に動いていました。
手だけが動いていたのには理由があります。ほら、ソファーって座る部分と背もたれの間に隙間があるじゃないですか。よくほこりが溜まっていたり、虫の死骸が入ってたりする場所です。そこに手を入れると落ち着きますよね? え、落ち着きませんか? まあ……私には、それが落ち着くんです。そして私の手はソファーの狭間を求め旅立つと、遂にはそこに到着し……念願の手をそこに突っ込む事が出来ました。その時です。
「あ……」
なんと、そこにあったんです。プラスチック製のカードが……。
私はそのカードを掴むと、飛び跳ねるように起き上がりました。私の急激な動きに、フカフカのソファーからは静電気の音がパチパチ聞こえています。さあ、今度は何が書かれているんでしょう……心して、カードを裏返しにすると……そこに書かれていた文字を見ました。
【峰仙一】
「誰?」