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12話20




 えっと、(アタシ)なりに答えは用意できました。まさか、ここに来て……この言葉が出てくるとは思いませんでしたね。それでは順に説明しますと……考えうる候補は【そほにこのて】か【このとおとそ】の二つ。そして今回用いるのは……後者です。


 まず【このとおとそ】を並べ替えますよね。すると【そとのおとこ】となります。何となくわかってきたんじゃありませんか? それでは英訳してみましょう。出てくるのは……【the outside man】。この意味は【詐欺の手伝いを行う者】だと……そう言っていましたよね。


 つまり、沙華彼方は……自身が the outside man だったというのを名前で示していたんだと思われます。いや……名前と言っても本名とは違うのかもしれませんね。そもそも、沙華彼方や中畑紗奈すらも the outside man から言葉遊びで作った名前なんじゃないかなって思います。ですから、どちらも偽名なんですよ、きっと。


 うーん、結局【謎】は解けたはずなんですが……依然として正体は【謎】のまま残っちゃいましたね。なんだかモヤモヤとした気分です。


「どうやらお二方とも解に辿り着いたようですな。いや、今となっては……これが真実なのかどうかはわかりませんが、私もそれに気づいた時にはお二方と同じような気分になったものです」


 野本さんは(アタシ)達の顔色だけで正解を告げました。何だかんだ言っても、やっぱり刑事さん。表情を読み取るのはお手の物でしたね。


(アタシ)、なんだか思うんですけど……田原真有弥という架空の住民票を持った存在より、沙華彼方さんの方が遥かに【青薔薇】っぽいですよね。だって……沙華さんこそが本当に正体不明の、まるで【存在しない】存在みたいじゃないですか」


「確かに言われてみれば……そんな感じもするね」


 コムさんも同意してくれました。やっぱり同じことを思いますよね。流石、コムさんです。


「ちなみにですね、沙華という言葉は【曼珠沙華(マンジュシャゲ)】という花の一部になります。【曼珠沙華】……ご存知ですか? 俗に言われる彼岸花なのですが……別名は【幽霊花】とも言うんです。今回の事件には【存在しない】物が【存在する】事が多くありましたよね、まるで幽霊のようです。そう考えると……【青薔薇】も【幽霊花】だったのかもしれませんな」


 なんだか上手くまとめられた感じですが……そこまで考えて沙華彼方という名前を使ったのでしょうか、疑問に思います。しかし、その疑問には答えが出ません。いや、むしろ答えすら【存在しない】んでしょう。それこそが【青薔薇】に相応しいんだと……そう思います。




「そう言えば、現世では青い薔薇を作れるようになったらしいですな」


 少し放心していた(アタシ)達に野本さんが言葉を発しました。そう言えば聞いたことありますね。青い薔薇の開発に成功したって……確か日本の企業が関わっていた気がします。


「そして花言葉にも【存在しない】以外に、【夢が叶う】や【奇跡】といった言葉も追加されたそうです」


 へー。なんだか意味が正反対とは言わないまでも、良い意味の花言葉が追加されたんですか。こういうのって珍しいですよね。そうなると、この……なんだか大きな【謎】が残されたまま終わってしまった事件にも、希望が持てるのかもしれませんね。いつしか、こちらの世界に来た方から……【青薔薇】事件の顛末を聞くことが出来ればいいなって思います。それこそ、(アタシ)にとって……【夢が叶う】【奇跡】の瞬間になるんでしょうね。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 最初は誘拐の文書切り抜きから始まった物語でしたが、まさかの結末を迎えてしまうと……遂に野本さんとお別れの時間となりました。(アタシ)とコムさんは外まで野本さんを送りに出ています。


「この度は本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げるコムさん、(アタシ)も同じようにお礼を述べると頭を下げました。


「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


 野本さんも同じようにして頭を下げてくれました。いかにも日本人なお別れシーンですね。そして野本さんは(アタシ)達に背中を向けると歩き出しました。しかし、ふと忘れ物に気づいたかのように……急に振り返りるのです。そして口を開きました。




「そう言えばですね実は、私……【お】の音の男なんですよ」


 そして、こんな事を言うんです。えっと、確か野本さんの名前は野本路斗(のもとろと)でしたっけ、確かに全部が【お】の音ですけど……。




 え? これってどういう意味なんですか?  




「それでは……またお会いできたら幸いです」




 (アタシ)が困惑している間に……野本さんは行ってしまったようです。もはや彼の背中は遥か遠く、小さく見えているだけでした。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━(ここまで)




 しかしですね……(アタシ)、思うんですよ。ほら……死ぬ前は、自分が死んだ後の事を凄く怖く感じちゃうじゃないですか。でも、いざ……こちらの世界の住人になってしまうとですね、生前の世界の方が遥かに怖かったんだなって……そう実感しました。


 ですが、怖いこともあれば嬉しいこともある。そして、悪いこともあれば良いこともある。それを強く感じながら過ごす事こそが……生きているって事なんでしょうね。ならば(アタシ)は、現世の方々がこちらの世界に来られるまでに……沢山の【夢が叶う】ことや【奇跡】が起きる事を祈っておきましょう。




 そう願いながら、(アタシ)は……手元に青い薔薇を具現化するのでした。




 第11話 『存在する存在しない存在』 了




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