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12話16




 なかなか良い考えが浮かんできませんね。どうしても千二百万円あったら何を買うかに意思が流されてしまいます。何を買うのがいいんでしょうね。まあ……そんな事を考えたところで、(アタシ)達のような死後の世界の住人には生前の世界の金銭なんて無価値でからねす。無いも同然、まるで【青薔薇】のようなものです。さて……そんな【存在しない】物に思いを巡らせている場合ではありません。通帳の【謎】を考えないとですね。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 えっと……なんとなくですが解答は用意できました。答えは【虚数】だと思います。どういう事かと言えばですね、利息計算で【虚数】をかけるんじゃないでしょうか。【虚数】は二乗するとマイナス1になる性質があってですね、一回だけの乗算では【存在しない】数になっちゃうんです。だから、この通帳のように 0 扱いになってしまうと、次の乗算ではマイナスとして現れちゃうんでしょうね。そして再度の乗算で 0 を経由すると、もう一度繰り返せば……元に戻るといった具合なんだと思います。


「お二人共、今回の【謎】は簡単に解けてしまったようですな」


 野本さんは(アタシ)達の様子を見るや、そう仰いました。どうやらコムさんも答えを用意出来ていたようですね。今回の解答権はコムさんに譲ってあげましょうか。(アタシ)はコムさんの方に視線をやると、コムさんは頷きで返答としてくれました。そして、コムさんは口を開きます。


「答えは……【虚数】の利息計算なのではないかと思います。ただし利息とは言っても増えはしません。しかし虚数を任意のタイミングでかける事で資金を一時的に隠すことが出来るのではないでしょうか。通帳の数値はそれを示しているんだと思います」


 コムさんの答えは(アタシ)の考えと同じだったようですね。いやー、やっぱり知恵者は同じ道を行くものなんですね。ほっとしました。一安心です。あー、良かった。


「正解です。私も同様に考えました」


 やりましたね。大正解です。野本さんは拍手で(アタシ)達を賛えてくれました。しかし……一体そのマネーロンダリングがどんな運用をされていたんでしょう。ちょっと気になるので聞いてみますか。


「あのですね……その【虚数】の手法についてちょっと伺いたいんですが、いいですか?」


 (アタシ)の問いに野本さんは了承の意を示してくれました。(アタシ)は言葉を継ぎます。


「そのマネーロンダリングの方法だと、一応は資金を隠すことが出来ると思うんですが……ちょっと無理がある気もするんですよね。なんと言いますか……通帳の記入が思った以上に派手なんでバレちゃいそうかなって思うんですよね」


 と、問いかけました。そんな(アタシ)の問いかけを真剣に聞いてくれた野本さん、彼は口を開きます。


「確かにその通りですな。ですが、この通帳はいわゆる闇口座と言われる物なのですよ。闇口座とは名義借りなどで作った他人名義の口座の事を言いまして……おわかりかと思いますが、名義は田原真有弥なのです。つまりですね……このような口座は無数に存在しているのでしょうな。そして、万が一にも捜査されるような事態になった時には……元の莫大な金額を田原真有弥達の口座に細かく分けて送金したり、その送金に虚数化や実数化を混ぜてしまうのですよ。そうなれば追う側も、かなりの時間を要してしまいます。そして、その間に……上部からの圧力が加わえられてしまうのでしょうな。そして、この画像は……その一端を示していたのです」


 何と言いますか……その手法はエグいですね。多少の犯行がバレたとしても、無数の通帳と圧力で大丈夫って訳ですか。両手法、まさに捜査を押し潰すと例えるのがピッタリです。なんだか知能犯罪としては物足りなくも思えますが、実際にやられてみたら……威力抜群なんでしょうね。うーん……やっぱり金と権力には逆らえないんでしょうか。


「さあ、そういったわけで沙華さんからは【青薔薇】や【the outside man】。そしてマネーロンダリングについての情報提供を頂きましたが、良い知らせの後には悪い知らせがあるものなのです」


 ん? 悪い知らせですか? こういうのは悪い知らせがあった後に、実はもっと悪い知らせがあるってのが定番ですよね。ほら、あるじゃないですか……『悪い知らせと、もっと悪い知らせがあるんだが……どっちから聞く?』みたいなシチュエーション。そして、もっと悪い知らせってのが絶望的だったりするんですよね。そう考えると……嫌な予感がしてきません? 


「沙華さんはチャットの最後、私の命が狙われていると書き込みました。どうやら私はやり過ぎてしまったようですな。隠れて捜査していたつもりだったのですが、組織にとっては目障りに感じたのでしょう。組織は私を殺すよう号令をかけました。それを知らされたのです」


 はい……もっと悪い知らせが必要ないくらいには強烈な悪い知らせでしたね。これ、いったいどうなっちゃうんでしょう。


「私は絶句しました。いや……チャットルームなので相手には伝わりませんが、きっと私の反応が遅いので心配してくれたのでしょう。沙華さんは私が組織から逃亡する為の助力を申し出てくれました。その申し出を受けるかどうかは……非常に迷いました。実は、まだ私は捜査を続けようと思っていたのです。そして沙華さんは私の迷いを察したのでしょう。いざと言う時の為、逃走用の車は用意しておくと提案してくれました。私の車ではナンバー、車種などが割れているからでしょうね。私は逃亡用の車が置かれている場所と、そのナンバーを教えてもらい……チャットルームを出たのです」


 おお、なんだか盛り上がってきたと言うべきなんでしょうか。人の生き死にが賭かっているような場面に相応しい表現なのかはわかりませんが、事態が緊迫してきたのは間違いなさそうですね。


「そして翌日になりました。まだ家族も眠っている時間です。ほとんど寝ることの出来なかった私は、仕事へ向かおうと玄関の扉を開け……そして閉めました。そこで気が付いたのです。玄関扉の横の壁には……弾痕が残されていました。弾丸は回収されたようで残されてはいません。そして郵便受けには……私の名前のみが記された封筒が入っていました。そこには住所が書かれていません。つまりは組織の者の手によって投函されたのです。透かして見ると……封筒下部に、何か粉のような物が入っているようでした。そして私は認識したのです。私もフリーライターと同じなのだと……。私もフリーライター同様、家族を危険な目に遭わす事は許容出来ません。私は封筒を片手に……沙華さんが提示した逃亡用車両のある場所へと向かいました」




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