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1話01




 みなさんは死後の世界というものを知っていますか?


 実は、そこには……【何もない】んです。でも……【何でもある】も存在している。そんな世界。


 えっと、言ってる意味がわからないですか? そうですね、伝わらなくてもしょうがないかなとは思います。そもそもアタシだって、原理だとかの詳しいことなんかは何にもわかってないんですから、納得の行く説明なんてできませんし……

 

 とにかく、難しい説明はできないんですけど……でもね、私はそれを知っているんですよ。間違いありません。死後の世界には何もなければ、何でもあるんです。それだけで十分じゃないですか? 納得してくださいますよね?


 ん? えっと……なんで、私にそんな事が断言して言えるのかですって?


 それは……私もそこの住人だからなんですよ。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 10畳ほどの広さの部屋には、職員室でよく見る薄灰色のデスクが2つ。人の動線を妨げない程度に無骨なキャビネットや白板等が置かれ、良く言えば機能的、悪く言えば乱雑と表現されるのが適当な空間が構成されていた。簡潔に言えば、小さなオフィスとでも言えば伝わりやすいであろうか。ただし、そのごくごく普通なオフィスの窓を覗いてみれば……そこから見える景色は、【何もない】が存在していた。そう、窓の外は全くの無であったのだ。


 ここは、俗に言う死後の世界。死後の魂が集う場所である。


「退屈で死にそうなんだけど……」


「言わなくても知ってます」


 部屋にはデスクが二つある。その各々に男女は頭を突っ伏したまま……やる気の欠片も感じさせない声色で、味気のないやり取りをしていた。


 奥側のデスクの男性の外見は二十代から三十代と言ったところであろうか。特に特徴のないのが特徴という形容が相応しい容貌をしている。そして、手前のデスク側の女性は、年齢にして十を越さない程度ぐらいの小さな体型であった。彼女のその体型からしてオフィスチェアーは大きすぎる。よって、そこに座る彼女の足は床に届かない。彼女は……ひたすらにその足をプラプラと遊ばせていた。


「暇潰しに模様替えでもする?」


「その必要は無いです」


 デスク上に頭を突っ伏したままの男性は、そう問いかけるが……幼女も頭を突っ伏したまま、返事を返す。


「まあまあ……やるだけやってみようよ。何か新しい発見があるかもしれないし……」


 男性は言葉を発し終えると……先程までのオフィスのような部屋は瞬時にしてヴェルサイユ宮殿の一室を思わせるかのような様相へと変化した。


 先程までの至って地味なオフィス風の部屋とはうって変わり……高い天井には見るも(まばゆ)いシャンデリアが吊るされ、壁には優雅で荘厳な彫刻が所狭しと配されている。オフィス風の無骨なキャビネットは王女の容姿を日々整えるドレッサーへ……消し後が汚く残された白板は、いかにも高価そうな写実主義絵画へと姿を変えていく。さらには彼らの頭が投げ出されたままの職員室デスクは、まるで大統領のデスクを思わせる威風堂々とした机へと変化しているのであった。


 しかし、部屋の様子は一変したにも関わらず、不変な存在もある。幼女は頭をデスクに突っ伏したまま……何も反応を見せなかった。


 すると、ヴェルサイユ宮殿は、一瞬にして高級和風旅館を思わせる部屋へと姿を変える。だが、幼女に動きは見られない。ならばと、高級旅館は紫禁城、紫禁城から石油王の宮殿へ、石油王の宮殿はドバイの最高級ホテルへと姿を変えるのだが……やはり幼女は動かない。


 幼女の反応がないのを見るや路線を転換したのであろう。最高級ホテルは遊牧民のパオへ、パオは東南アジアの水上家屋へと形を変えるも、幼女の動きは見られない。さらなる路線転換か……水上家屋はわらぶきの家へ、わらぶきの家は木の家へ、木の家からはレンガの家へと姿を変えるも……幼女は無反応を決めこんでいた。




 その後、しばらくの無言の時を経て……




「結局、最初のが一番落ち着くんですよ」


 頭を突っ伏せたまま……ようやく幼女は声を上げた。そして……幼女のその一言を受けてであろう。周囲のレンガの家を思わせる内装は、元のくたびれたオフィスへと変化する。


「こっちの世界に来た最初の頃は、思い浮かべた物が何でも出てくるから新鮮だったんだけどなぁ……」


「最初だけでしたね。今となっては何も感じません。はっきり言うと飽きました」


 周囲だけは激しい変化を経ているが、今となっては最初の光景と全く同じ。つまり、彼らはまだ……安っぽいオフィスデスクに頭を突っ伏せたままなのである。つまりは……振り出しに戻ったのだ。




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