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勇者の従者は優しいアサシン  作者: SHOーDA
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第三章 ルナテックナイト

第三章 ルナテックナイト

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 少しだけ回り道して眺めた窓は暗かった。いや、わかっちゃいるんだけどね。宿屋で情報収集くらいはしたし。あいつは、いつも不機嫌で生意気な俺の年下の親友は、俺たちが北方に出向いてる間に、主都に行っちまったって。主都には、あいつの結婚相手がいる。いや、花婿はまだ8歳だけど、リュイも10歳だし、式とかなんとかはもっと後らしいけど。

「未練だな、俺……だけど思春期アレルギー、マシになったって伝えたかったぜ」

 もっとも、俺のアレルギーを治した本人たちは、今俺の左右の腕にひっついてるけど。

「キミ?」

「パシリ、どうしたの?」

「なんでもありません……ほら、月がきれいですよ」

 普通に答えた俺は、歩きながら後ろに向けて小石を蹴った。小石は……構えてた腕に当たり、短剣を落とさせる。やれやれ、安心して祭りにも出歩けないなんて、なんて物騒なんでしょ。その暗殺者、いや、暗殺未遂者は人混みに紛れて逃げて行った。さっきからこんなのばっかし。仮にも美少女二人連れ歩いてるのに、全然色っぽくないね。

 なんだかお月さんまで、そんな俺を見て笑ってるみたいだ。

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 まだ夕日が残ってるバーミリオンの空に、ほんの少しだけ真円に届かない月が昇った。

「ぜいたくな眺めだ。日と月をともに拝めるなんて」

 ここ族長連合じゃ、日は生命の源泉で、月は冥界の門だと言われてる。この時期の、この時間帯にしか見られない眺めってことじゃ、祭りの夜にふさわしい。

 だけど西の大道につながる大通りには、すでに食いもんの屋台が並んでて、君主様はあっさりとそちらに宗旨替えしたようだ。

「キミ!あのいい匂いがする丸いのはなんだい?」

 いつになく着飾ったアルだ。青い上衣もスカートもなかなかいけてるけど、質問が食い気に偏ってるのは残念だ。まあ、気候風土が違うから珍しいんだろうけど。

 アルが治める北部と違い、この辺りじゃ気候が温暖で湿潤なんで、小麦よりタローってイモがよく獲れる。里芋みたいなもんだけど、加熱するとホクホクした食感になる。

「あれはタローイモのコロッケですね」

 本来揚げ物は油を使うから屋台じゃ危ないし貴重品なんだけど、食糧不足で夜間管制が続いた昨今、逆に油だけは余ってたってか?今日は大盤振る舞いらしい。一つ銅貨1枚……250円くらい……は高いけど高すぎるってほどじゃない。

「あっちのは!?」

「あれはユーユェン……イモを団子にしてシロップをかけたスイーツです」

「なんておしゃれなスイーツなんだ!」

「えっと、その……あのツブツブしたのが入ってるお茶はなに?」

「キャッサバのデンプンを使ったタピオカミルクティーです。甘いですよ」

「どれも、おいしそう……あの、えっと、食べていい?」

 銅貨を握って目を輝かせるミュシファさんだ。子どもじゃないんだから食べたきゃ食べればいいのに。でもこの子も、地味っぽくて不幸そうだから、こういう経験はあまりないのかも?そう思うと、健気だなって思っちまう。白いミニのワンピース、似合ってるし。

「もちろんですよ、ミュシファさん……俺の分はいらないけど、アルの分は一緒に買ってきてください」

 そういって大銅貨を握らせる俺に、ミュシファさんは感激してくれる。大銅貨は銅貨10枚分で……ざっと2500エンくらいって、また前世ワードだけど……大銅貨2枚或いは銅貨20枚で銀貨一枚。んで、銅貨一枚で安い食事ができて、銀貨一枚でいい宿屋に一泊できるってのがここいらの大まかな物価だ。ちなみに俺たちが泊ってる「黄金の大山塊亭」は、離れ一棟貸し切り状態の今だと、一晩で金貨10枚は軽く飛ぶ。ざっと100マンエン?元々そこの下働きもしてた俺が言うセリフじゃないけど、財布役の護姫様も、しっかりしてるようでお姫様だからなあ。

「キミは食べないのかい?そこは節約するべきじゃない、一緒に食べよう」

 屋台の買い食いが節約、ね。そこは、こっちの盟主様の方がよっぽどしっかりしてるぜ。

「いや、俺はちょっと用事があって5分だけ離れます。二人とも、ここでおとなしく食べて待ってて」

 そう言って俺は、毒検知スキルで周りをチエックする。今朝の夢のせいじゃないけど、無色無臭で無味の毒なんて、この世界にでもあるわけだし。

「ち、あの薄竹のストローに毒ぬってやがるし」

 竹が自生するここいらでは、蒸気で蒸らすと簡単に薄皮がはがれる薄竹が獲れる。それを加工して、竹紙とか竹皮とかにしてるわけで、王国や帝国よりも紙がかなり安い。そのくせ識字率は高くないから、昔は竹紙はもっぱら輸出用だった。今じゃ、亜人のせいで貿易も途絶えて、竹紙はコロッケの包装紙に、竹皮はドリンクのストローに使われてるわけだ。

「でもな、お前んとこで北の大道を復活させて王国との貿易が再開されりゃあ……」

「なるほど!商人の出入りが増えて、税収が見込めるね!その竹の栽培や加工もいい産業になるかも!」

喜ぶアルを横目に、小石を指で弾いて、ミュシファさんが受け取ろうとしたタピオカミルクティーのストローを吹っ飛ばす。ミュシファさんは首をかしげて、別のストローに交換してる。スカウトなのに、無防備すぎ……いや、これははっきり警告してない俺の甘さのせいかも。

「いいか、二人とも!……俺が戻ってくるまで、絶対にここを動くなよ!」

 広場の片隅のベンチを確保して、タローのコロッケをほおばる二人に、俺は断固として言いつけた。

「どうしたんだい、キミ?」

「こんなお祭りで、しかも知ってる街だから安全だよ?」

 さっきから俺が何人撃退したと思ってるの?……でも、こんなに楽しそうな二人に言えねえよな。月明りが目立たないくらい、今日だけは明るいホルゴスの夜なのに、ここには暗殺者が、俺の同業者がゴロゴロしてるなんて。

「5分だけだ。ミュシファ先輩、これも訓練だと思って集中して」

 スカウトほぼ初心者のミュシファさんに、あれこれ教えてるのは、専門職クラス的には親戚の、俺のボランティアみたいなもんで、こういう時はミュシファさんは素直にきいてくれる。

「うん……わかったよ、パシリ師匠」

 師匠はいらないけど。あと、肩の力が入りすぎです。でも、まあ、5分だけなら、相手が勝手に警戒してくれるかも?

「んじゃね先輩、オマケにアルもおとなしく待ってろよ」

「あ、うん。任せて!」

「オマケは余計だ!」

 そこで、パアっと夜空が明るくなって、アルもミュシファさんも、周りの人たちも一斉に夜空に目を奪われた。幻火絵だ。花火のないこっちじゃ、精霊の力を借りてこういう絵を夜空に浮かべるのが祭りの定番のファイアワークス。しかもノッケからなかなかの大技だ。これは有料だから、きっと領主のギルシウス様が街の人を楽しませようと高額で精霊使いをお雇いになったんだろう。


 火の色は一般的には赤だと思われてるけど、その温度で炎色が変わることは一部の学者や賢者、そして火の精霊使いなら常識だ。それでも、いっぺんにいろんな色の火を使って、空一面に色彩あふれる絵を描くのは、相当の技量と魔力と、何より火の精霊サラマンダーとの親和性が高くないとムリな仕事だ。

「あれ、エン姉様だ!」

「ほんとだ!ホルゴス戦役の勇者様です!」

 夜空を背景に、浮かび上がった姿は、七色の髪の凛々しい美女と、彼女が掲げる大きな旗だ。旗に描かれたのは、勇者エンノの紋章、虹の輪……。

 だから、一目でわかるそんな絵を浮かべるなんて、おそらくはこの族長連合でも相当高名な精霊使いだろう。ゴウンフォルド家のコネでも使って頼んだのか?

「でも、ほんとのほんとなら勇気の旗を持ってるのはパシリなのに」

「え?キミ、そうなのかい?」

 無垢な視線が痛い。なんだか夢を壊したみたいだ。あの時は夢中だったけど、勇者様をお守りしなくちゃってそれだけだったけど、俺ごときが、あんな大役やってたなんて知られたら、きっと勇者様の声望も下がるんじゃないか?

「あ、消えちゃった」

「幻火絵は、一瞬の技ですからね……はい、ミュシファさん、集中しなおし!こっから5分!」

「うん!」

 で、ミュシファさんの元気な返事を背に、俺はここからそそくさと去った。ここは俺には少しいづらい。俺の世界へめでたくご帰還さ。そんな気分だった。


 5分間の長いこと長いこと。俺は俺たちを隠れてつけまわしてた一団を蹴って殴って昏倒させて。だっていい加減隠し切れない二流の殺気がうっとおしくて、元を絶ってやろうって。ついでに情報収集も欠かせない性分だから、指揮してた一人は意識を残した。

「一瞬でこんな人数を殺すなんて、キサマ、魔術でも使うのか!?」

 人聞き悪いなあ。魔術師じゃねえし精霊には嫌われてるし、そもそもだれがこんな祭りの最中に大量殺人なんてするか!いくらアサシンでも任務でなきゃ、あと、勇者様を襲ったりしなきゃ殺しなんてするかい!

 なんて本音は黙っとこ。闇の中でも青ざめた顔に、俺は冷たく告げるだけ。

「誰に頼まれた?狙いはなんだ?」

 組織時代にもらった薬を使ってもいいんだけど、あれ、副作用がなあ……だからまあ、こっちのほうが健全だろ?肩をつかんで力をいれると、メリメリっていい感触。肩甲骨だって砕く自信はあります。それでも戦姫様にはかなり及ばないけど。

「……そうか」

 聞いてみて、やっぱり情報不足。こいつ、下請けっぽいし、黒幕は別みたい。

「こんな仕事、さっさとやめろ。お前の組織がつぶれる前にな」

 俺って親切でしょ?後日つぶすのは俺だけどって文字通りの後始末だね。


 で、ベンチに戻って愕然とした。二人がいない!?たった5分で?いや、そりゃ5分もあればいろいろできるのは俺自身実証済みだけど、そんなヤツ、いなかったぞ?もしも俺に感づかれないでいられる暗殺者がいたら……俺だってとっくに殺されてるし。

 ……やばい、大失態なんてもんじゃない。もしも二人になにかあったら?考えただけで背中に氷柱つららを突っ込まれた気分で、逆に額からは熱い脂汗がダラダラ……。

 自分なんかどうなっても平気なのに、自分でもどうしようもなくて、頭が全く動かない。おそらくこの時近くに同業者がいたら俺は死んでた。

 ……そんな悪夢のような数秒間を破ったのは。

「なあ、にいやん。そこにいたお嬢二人ならうちんとこの小屋におるで」

 その甲高い声にふりかえれば、そこには月に照らされた、小柄で直線的なシルエットがあった。いや、落ち着け、俺。少し肌が浅黒くて異国風の黒服を着た子どもだろ。短い金髪も少しくすんだ感じで、この辺りの人に多いキラキラした金髪とは違うし、その言葉にも西域独特のナマリがある。つまり、いろいろな人種民族の特徴がこの子には残ってる。なのに……俺はその背格好に、かつての親友を想起してギクリとしていた。全然違うっての。

「……あれ、ジード族の芝居小屋かい?」

「そうやで、にいやん……だから安心やろ」

 安心はしなくもなかったが、たった5分くらい辛抱しろよ……胸中そんな思いでいっぱいだ。一応スカウトのミュシファさんは無論、新興国家の盟主のアルなんかも、何考えてんの?俺の言いつけってそんなに軽いの?自分の安全を軽く見てんの?

「にいやん、怒ったらあかんで。祭りの夜に年頃のお嬢をほっとく方が、ムリや」

 娘二人が放置されてると知るや、若い男たちが次々群がってきたんだって。ちっ、男の本能は、勇気のルーンでもどうにもならないものらしい。で、それを見かねたこの子が自分の部族の芝居小屋に案内したそうだ。怒るべきか、自重するべきか、難しいな。

「だけど、ありがとう」

「ええねん、お代は払ろうてもろたし」

 手の中の銅貨8枚を大事そうに見せられる。定価の倍じゃね?ち、しっかりしてやがる。

「にいやん、念のため名前聞かせてえな」

「俺はパルシウス。そのお嬢とやらは、アルとミュシファ」

「合格や……あ、うちはネフィ言います。よろしゅう」

 一人称が「うち」ってことは、そうなんだろうな。名前もそうだし。いかん……意識しだすと動作がおかしいぞ、俺。せっかく思春期少年少女アレルギーが改善したのに、まさか親友のせいで思春期前女児アレルギーが発症してたなんて、悪夢にも思わなかった。

「どうしたん、にいやん?手足が一緒やで?」

「なんでもね……あち」

 俺、かみやがった!?そんな俺を見て、ネフィは笑った。

俺がこんなに調子狂わしてるのも、きっと月のせいだ。満月近辺になると、月は特殊な波長の光を発するとか地震が多くなるとか、そんな話は前世でも絶えない。気まずくなった俺は忌々しく夜空を見上げ……ドテって、俺、石につまずいた?ありえねえって?前世でもここでも俺が転ぶ?

 しばし茫然する俺を見て、ネフィは笑い転げた。

「にいやんには、笑いの精霊様がついてるかもしれへんなあ」

 それはない。だって俺、精霊に嫌われてるし、何より転んでも倒れても、俺アサシンだし。言えないけど、この醜態じゃ信じてもらえそうにもないけど。

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