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東1局7本場:親友

「どうした、みなみ。キミがそんなに元気ないなんて異常じゃないか? 元気だけで生きているような女の子だろキミは?」

「……純ちゃん、ほっといてよ。とってもショックなことがあっただけだから。明日には元気になれるように頑張るから」


 あの後、私は逃げるように家に帰り、ベットにもぐりこんで震えていた。

 そして翌日、あまり父親に頼りたくないから頑張って特待生を維持している私。

 本当ならば学園に行くなんて言う精神状態ではないが、特待生を維持するためだ。頑張って(むりをして)学園へと向かい、授業を受け(ききながし)、放課後になる。私は、自分の席で潰れていた。


(……白夜さん、いや、軍星さんは5年前に私が会った時は、自信に満ち溢れていた。それが、その1年後に、白崎舞さんを失って、それで今のあの状態になった。そんなの、ひどすぎる)


 軍星さんが味わった絶望はどれだけのものであろうか。

 確実に勝利していたはずなのに、その手から命が零れ落ちていく感覚。


「……ねぇ、純ちゃん。変なこと聞いていい? もし、私が死んだらどうする?」

「……大丈夫か? キミがそんなこと言うなんておかしいじゃないか。 ……助けにはならないかもしれないが、話だけなら聞いてやれるぞ。そういうのは、話すだけでも大分気が楽になるモノだ」


 その純ちゃんの言葉で私は……。

 話していいものだろうかとものすごく悩んでしまう。

 私にとっては価値を感じない家族よりも圧倒的に大切な人。命の恩人。でも、純ちゃんからしたら、全然知らない赤の他人。

 何より、軍星さんに失礼な気がする……。


「キミがそんなに悩むという事は、よほどのことだな。親友を舐めるな。それとも、親友と思っているのはこっちだけなのかな?」


 純ちゃんが机に突っ伏したままの私の顔を無理やり持ち上げ、私の瞳を真っ直ぐに汚れ一つない目でのぞき込む。


「……ずるいよ純ちゃん。そんな風に言われたら、話さないわけにいかないじゃん。 ……でも、いくら純ちゃんにでも離せないことくらいあるよ」


 私がそう言う。

 すると、純ちゃんは私の頭から手を放し、そのまま窓へ向かって走り出す。

 ここは3階。

 換気のために開け放たれていた窓へ向かい、勢いそのままに飛び降りた。


「!? 純ちゃんっ!!」


 周囲からガヤガヤと「誰か落ちたぞ」とか、「佐藤が飛び降りた」とか聞こえてくる。

 教室を飛び出し、階段を何段も飛ばしながら駆け下り、窓の下あたりへ駆けつける。

 幸いにも植え込みがクッションになったらしく、命に別状はなさそうだ。


「純っ!! アンタバカじゃないの!! いきなり何してんのっ!!」

「……キミは言ったじゃないか『私が死んだらどうする』って。これがその答えさ。ボクにとっては、キミのいない世界に意味なんてない。あの世へ(あと)くらい、いつでも追いかけるよ。 ……でも、キミが死ぬことになった理由を解決してからね」


 純ちゃんは、純は、馬鹿だ。

 私よりも背が高いくせに胸は小さい。

 髪の毛だってショートヘアにしているうえに、よく男の人に間違えられる。

 そのたびに、親友である私が苦労させられる。

 でも、こんなのは聞いてない。

 私がつらいとき、純がつらいとき、お互いがいつもそばにいた。


「あぁ、そうだ。ちょっと無理しちゃったから、ボクは行けそうにないな。これをキミにあげるよ。要らなかったら破り捨ててくれて構わない」


 そういうと胸ポケットから純ちゃんは展示会のチケットを取り出す。


「……キミのことだ。おおかた、例の人に会えたけどなんかいざこざがあったんだろ?」

「……どうしてわかるの?」

「わかるさ。親友舐めないでよ」


 そして駆けつけてきた救急車に運び込まれて、この町にある一番おおきな病院である中央病院へと運ばれていった。


「……純ちゃん。ありがとう」


 純ちゃんがくれた「麻雀の歴史展」という展示会のチケットを胸ポケットにしまい、学校内がざわついている。

 親友という事で事情を聞かれるであろう。その手間と時間が今は惜しい。

 私は教師に呼び止められる前に、学校を抜け出した。

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