東1局6本場:軍星
「ねぇ、軍星知ってる? 北斗七星って別の名前を『軍星』って言うんだって。武将たちが必勝の願いを込めて祈ったんだって。いつか一緒に見に行こうよ」
そのいつかは二度と来ることが無かった。
「はぁ、こちらの負けですか。ですが、満貫振込分のロシアンルーレットをしていただけますか?」
「一色清美さん、流石に今のは無いでしょ。わざと負けるために和了るのは無しでしょ」
「この状況から勝つにわぁ、ダブル役満しかないじゃない~。なら、さっさと勝負を終わらせるためにやってなにが悪いのかしら?」
確かにそれは正論ではあるが、こういう場面でそれをやるのはあり得ない。
日本内での麻雀統一ルールを決める戦い。
麻雀のルールが関西と関東、ほかに主催団体でわずかに異なっている。それを統一することで麻雀人口を増やそうという計画。
その中で関東ルールで選ばれたのが舞。そして、シゲさんだった。
だが、シゲさんはその日体調を崩したので俺が代わりに出た。
そして、悲劇は起こった。
「たった六分の一の確率じゃないですか。それであなたがた関東ルールになるんですよ。安いものじゃないですか」
「もう、勝負は決まっただろ。やる必要なないぞ舞」
「軍星、ごめん。ルールはルールだからやらないと。それですべてが終わる。そしたら、北斗七星見に行こうね」
そして弾丸は発射され、舞は死んだ。
「……はっ? なんで、いや、ありえないだろ、たった16~17%くらいだろ? そんなことおこるはずないだろ」
思考が止まる。
思考がまとまらない。
思考がかき乱される。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ………………っ!!!!!!!」
そして俺の心は壊れた。
□■□■
「……俺は目の前で大切な人を失った。だからもう二度と大切な人をつくる気が無い。それがお前の告白を受けない理由だ」
「……酷い」
「嬢ちゃん、その程度で酷いって言っているようなら、軍星と付き合おうとするのはやめろ」
茂索さんが私の目を真っ直ぐに見て、諭すように言う。
「……もしも、最後のロシアンルーレットがヤラセだったとしたらどうする? 弾倉をみて『ハズレ』って分からないようにするために、火薬が詰められておらず、発火させるための部品も取り外された弾薬をセットされていた。そして、最後のロシアンルーレットの時だけ、すべてが本物に」
「一色清美、一色字美。この二人は危険じゃ。要するに、自分たちが負けることが確定した段階で、こちらの人間を殺す方にシフトしたわけじゃ」
そんなクズみたいな人間がいるなんて信じられない。
いや確かに私だって、クズみたいな人間に何度かあったことはある。自分の父親がそうだったわけだし。
「……世の中には、勝負の過程や結果よりも自分の気持ちが抑えられるかどうかという自分勝手傍若無人な人間がいる。俺は、舞を。白崎舞を殺したあの二人に復讐するために生きている。わざわざ名前まで、舞が褒めてくれた名前まで、絶対に北斗七星が見られない『白夜』と名を変えてでも、奴らを、奴らに復讐するために。復讐は何も産まないなんて言うくだらないこと言うなよ。産むためじゃなく、終わらせるためにやってるんだ。そのためにだったら俺は、俺のこの命を使うことは全く惜しくない。俺は死ぬために生きてるんだ。そういう状況で、お前みたいなモブキャラは不要だ。わかったら俺の目の前から消えてくれないか? そして、二度と顔を見せるな」
明確な拒絶と侮蔑。
ふつうの人生では味わうことが無いだろう絶望。
それを抱えて、壊れないのは不可能だろう。
軍星さんは、私が命を助けてもらって、憧れて、彼女になりたいと思った男性。
その人はたった1年でここまで壊れてしまい、今もなお壊れ続けている……。
気が付くと私は逃げ出していた。
ねばりつくような恐怖と絶望から逃げるために……。
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