東1局4本場:一色
「で、アンタは私たちに払うお金が無いってこと? 冗談でしょ? それとも、内臓で払ってもらってもいいんだけど。あ、あんたみたいな豚じゃ無理か。グラム1円にもならないもんね」
そういいながら、不健康に太った男を蹴り飛ばす漆黒の修道服を着た女性。
その名前は一色清美。
男は潰れたヒキガエルのような声をあげ、2メートルほどサッカーボールのように雑居ビルの室内で蹴り飛ばされる。
その足はあらぬ方向に曲がっており、一目で「折れている」というのが誰の目にも明らか。
床はペンキをぶちまけて、雑に拭ったかのように男の血で汚れている。
「それがっ! ここに持ってくる途中で変な女に絡まれてっ! そして、そいつの連れみたいな男にっ! 必死にかき集めたんですがっ!」
「うるさい、黙れ、豚。臭い口塞げや、限界」
感情のこもらない女の声。
それは冷徹な処刑人のようでもあり、単純にシステムを実行するだけの機械のようでもあった。
「アンタわかってんの? それって、わたしへの侮辱だってこと。茂索のところの変な女を殺して、麻雀をギャンブルとして合法にしたにもかかわらずほとんど利権を取れなかった私への最大級の侮辱だって」
その冷たい声色に確かに混ざる煉獄のような怒り。
ある意味で自分勝手唯我独尊であると言ってもよいだろう。
「何が『月収の5倍程度、または年収の2倍程度までの金額を賭けて良い。ただし、プロ雀士の資格を持つものは、前年の獲得賞金額を超えない金額より1割を減じた額』よ。ふざけないで欲しいわね。何のためにあなたのような雑魚プロ雀士を囲っていると思っているのかしら」
ヒキガエルが再び、三度蹴られ、転がされる。
そのたびに赤い液体がスプリンクラーのようにまき散らされる。
地獄絵図というのはこのことであろうか?
「清美さん、その辺にしておいてあげなさい。そんなゴミでも、うまく使えばまだ使えますよ」
「字美姉さん、ゴミはゴミ箱へ捨てるものですよ? 使えないものをいつまでも取っておいても片付かないじゃないですか」
煽情的な声色の女性が一色清美に声をかける。
その声は男であれば聞いているだけで達してしまいそうであり、女であれば自信を喪失する麻薬であり毒薬でもあるような声。その姿は妹と同じく修道服。ただし、色は妹とは異なり純白。
「とは言っても、この人の言い分くらい聞いてあげてもいいと思うの。情けない言い訳だったら、そこで断じればいいじゃないの」
「まぁ、字美姉さんがそういうのであれば……。 アンタが金持ってこられなかった理由は何? 字美姉さんに免じて理由だけは聞いてあげる」
ヒキガエルを見るその目はゴミを見る目。しかし、その男の話を聞くにつれ隠しきれない悪意に染まっていく。
「ふーん、『白夜』ね。聞いたことないんだけど。アンタが適当に言ってるだけじゃないの」
「清美さん、いくら小物でも。いえ、小物であればこそ、この状態で嘘をつけるのであればお金を持ってきたほうが楽だと思うの。という事は、本当だと思っていいかなって」
「いや、いくら何でもそんなことできるのは茂索と軍星くらいのモノでしょ。そして、軍星は二度と麻雀出来ないでしょ。目の前で、恋人を殺してあげたんだから」
無感情と思われた清美の表情は嗜虐心に歪んでいた。
そして、煽情的な字美の表情も恍惚に染まっている。
「あぁ、軍星様。あの方は私のおもちゃにして壊れるまで弄んで差し上げたい」
「あの男が生きているとは思えないけど、生きているなら……、唯一私に土をつけた男だから壊したい」
命の灯が一つ消え行くその時、地面には二筋の透明な筋が出来ていた。
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