東1局0本場:開幕
完全新作。
連載開始します。
「女ぁっ! ここまでの負け金、締めて500万円。きっちり払ってもらうからなっ!」
一体どうしてこうなった?
私はただ、あの人の事について聞きたかっただけなのに……。
「お前も馬鹿な女だよなぁっ! オレサマたちのシマを散々荒らしてくれてるんだから、そのイタズラに対して報いは受けてもらわないとなぁ」
ゲスが服を着ていれば、こう言う姿なんだろうという男が私のことをあざ笑う。
でっぷりとした腹はまるでヒキガエル。脂が皮膚に浮いていて、見るからに不健康そう。
数年前に、少額であればお互いの同意の下で賭けを行ってもいいと賭博罪が改正された。
その甲斐あって、いわゆる「ネット雀士」と言われる人たちが腕試しで雀荘に行くことが増えた。
だから、私は「あの人」の事を知りたくていろいろな雀荘で麻雀を打ってきた。私が勝ったら、軍星と言う人について知っていることをすべて教えて欲しいという賭けの条件で。
「まぁ、半年から1年ってとこか。後はお前の頑張り次第で短くなったり、長くなったりするってだけだな」
だけど、私はこの勝負に負けたら--売られる。
それが賭けの条件だったから。
「……まだ負けてません。諦めない限り、勝てます」
声が震える。涙が落ちる。
「はんっ! まぁ、オレサマはどっちでも良いんだけどな? 500万が1000万になろうが1億になろうが、お前から搾り取るだけだからなっ!」
自分で言うのも何だが、私自身は決して麻雀は弱くないと思っている。
何が捨てられていて何が何枚残っているかと、捨て方の傾向から手役を読んで振り込まないっていうのがスタイル。
でも、私の読みと相手の手牌が合っていない事が対局中に何度もあった。
最初は緊張して読み間違えたのかと思った。でも、偶然が何度も起こることはあり得ない。それは必ず必然かカラクリがある。
つまり、イカサマをされている。
「さて、ミチルに電話しておくか。上玉が入りそう。『教育』をお願いってなっ!!」
賭博罪が一部合法化されたときに、麻雀のルールも競技麻雀ルールとして再整備された。
その中のEルールでは、イカサマは「してもよい」とされている。ただし、バレてした瞬間を押さえられた場合には48000点払いとされている。
だけど……その瞬間が分からない。
「そのデカい胸なら一日で10万はカタいな。良かったなぁ、今辞めれば2ヶ月くらいだったのに、自分で地獄に進むって言うんだからさぁ。オレサマの組の金が潤うなぁ」
手が震える。喉が渇く。視界が涙でぼやける。体から寒気がとまらない。
10年前に一度だけ会った事のある「軍星さん」について、知りたかっただけなのに。
そのために、何件も、何十件も雀荘に出入りして、賭けで情報を聞き出そうとしただけなのに。
ほとんどの人に「知らない」と誤魔化された。
そんな中で、たった一人だけこの雀荘にいる太った人が知っていると教えてくれた。今思えばそれが罠だったのだろう。
溺れていた私がつかんだワラは腐っていた。
「まだやるってんなら、サイコロを回しな。辞めるって言うんなら、明日のこの時間までは待ってやる。それを過ぎたら……分かってんだろな?」
ただの女子高校生である私に500万円なんていう金額は用意できない。ジ・エンド。ゲームオーバー。詰み。
よほどの奇跡が起きて、大逆転勝利みたいな事が起きなければどんどん負けが込んでいく。
そして、負け金が積もっていく。1000万が1億に、1億が10億になるなんて容易い。
少額の賭けは合法だが、「結果として」大金になってしまった。減額をするようにします。と言われてしまえば、警察も当てにならない。本当にしたかどうかなんて警察は調べないだろうし、警察に泣きつきに行こうとする事は出来なくなるだろう。
人生終了かな?
逃げるのも現実的じゃないし、終わっちゃったみたい……。
白馬に乗った王子様でも現れない限り……。
「……ふーん、この子500万円負けてんだ? じゃあさ、俺がこの子のこと1000万で買うからさ、席代わってくんない?」
突如、背後から声をかけられる。
そこに居たのは、くたびれた黒のスーツに黒のネクタイを締めた白髪の男性。
だけど、その割には若そう。多分、30代くらいだろうか?
「あん? 何テメー勝手なこと言ってんだ?」
「……すり替えに拾い。後はぶっこ抜きだな。もしこのまま続けるってんなら、この女の子にお前らのイカサマを教えて指摘させるぞ? 代わるのを許してくれるんなら、俺はヒラで打ってやる。そうすれば、テメーだって0.00000000001%位はこの俺に勝てるだろうよ」
「そこまで言うテメーは、一体何もんだよ? そこまで言って『雑魚』だったらあの世におくるぞ!?」
ゲスでデブな男の威勢だけは良い声。しかし、その声は震えていた。
対して白髪の男性は堂々としている。
その目はまるで獰猛な鷹。
ヒキガエルでさえ、容赦なく狩る。そんな意思が伝わる鷹のように鋭い目。
「……今更他人に名乗る名前は持ち合わせてねーが、『白夜』と呼ばれてるな」
お手数をおかけいたしますが、作品の評価をよろしくお願いいたします。