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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第1章 小鬼の姫君
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1-2 わがままチェザレア


 果樹園へ向かう途上、一行は依頼状にあった条件を確認していた。

 

「依頼料は成功報酬で400ディルハム、山分けするから100ディルハムずつだよ。……あんたもこれで、おやっさんへのツケをきちんと返しなさい」


「すまねえ姉御、ツケを返すにゃ全然足りんわ」


 依頼状を見ながら突っ込むリコレッタに、情けない返事を返すダグ。


「どんだけタダ酒飲んでんのよ」


「うーんと、全部で大体1ディナールくらいか?」


 1ディナールは1000ディルハムに当たる。彼ら貧乏な冒険者たちにとっては大金だった。


「アホか!」


 一方、ルジェはバークスと話しながら歩いている。バークスは鎖帷子の上に胸あてを着こんでいるが、

 

「相手が生滴スライムなら、鎖帷子はあんまり意味がないんじゃないか?」

 

 とルジェに突っ込まれていた。

 

「ばーか、これが依頼受けるときの俺の正装なの。ところでルジェ、お前さんって多分お上りさんだろ、どこの出身だ?」


「あ、ああ。西のガランドゥール郡のマィオーニって村だけど」


「むー、あいにくと知らないな。ガランドゥールって言ったら麦酒で有名だけど、そのマィオーニでも造ってんのか?」


「俺の実家でも、醸造所に麦を卸してるぜ。何か機会があったら寄ってみてもいいだろうな、エールの味だけは保証する」


「そいつぁ楽しみだ」


 和気あいあいと能天気に街道を行く4人。太陽が真南へと至る前に、依頼場所である果樹園の門へとたどり着いた。

 

 

 果樹園の門では、依頼人の執事と思しき、タキシードに身を包んだ初老の男性が直立不動で一行の到着を待っていた。

 

「おお、お待ちしておりましたぞ、リコレッタ殿。……応援の方も連れてこられたのですか」


「ああ、昨日の様子を見るに、あたし一人じゃちょいと荷が重いと判断してね」


「左様でございますか」


 執事はリコレッタ以外の3人に目を配る。

 

「ふむ……それでは状況を説明しましょう」


 執事の説明では、主にリンゴを栽培しているこの果樹園に生滴スライムが現れ始めたのは、収穫が終わったなりの先月末。

 

「はじめは一匹だけだったので、家の者の手で処分したのですが……」


 一週間ほど前から再び出没し始め、見る見る間に数が増えて手に負えなくなり、果樹園のあちこちに出没するようになったところで依頼を出したというのだ。

 

「我々の手では、何匹かを処理しても、数時間後には別の場所にまた何匹も現れるといった具合でして……」


「ふーむ」


 リコレッタは腕を組んだ。

 

「姉御って、生滴スライムとやりあった事あります?」


「ん、ないよ。あたしは本来、野良の小鬼オーク共をぶった切る方が好みでね、親父さんの勧めじゃなきゃこの仕事は受けてないよ」


「あいつらは『核』があるから、核を切らなきゃ何度も再生するんすよ」


 とダグが言ったところで、彼の目線はリコレッタが背負う、女性としては大柄な彼女の背丈の3分の2以上を占める大剣に目をやり、

 

「まあ姉御の剣なら、核ごと両断しちまいそうですが」


「ただあいつら体の中に酸を持ってますからね、そのままにしとくと刃こぼれしちまいますよ」


 バークスも答える。戦闘力はともかく冒険者としての場数は、どうもこの二人の方が上かもしれないとルジェは思った。

 

「えーと、ところで生滴スライムって確か、ゴミ捨て場とか汚い場所に湧くって学校で習ったけど……」


 ルジェは疑問を呈する。見たところ、果樹園は手入れされ、下草もきちんと刈りそろえてある。あまり、生滴スライムが湧きそうな雰囲気ではない。


「そりゃあ……」


 バークスが言いかけたところで、

 

 

「ラ=クラウレア=フィン、風で切り裂け!ストームッ!!」



 少女の凛とした大声が、一行の耳に届く。

 

「お、お嬢様ッ!!」


 慌てて果樹園の門を開けて中に入る執事。

 

「全く、あの方は……!」


 一行も執事の後を追う。

 

 

 

「ストームッ……はぁ、はぁ……」


 声のした方にいたのは、ルジェと同年代だと思われる緑色の髪の少女だった。

 

 その傍らには、彼女から見て少し下の年齢だと思われる、小柄な少年がしりもちをついて立ちすくんでおり、すぐそばにある、魔法によって吹き飛ばされた生滴スライムの死骸を怯えた目で凝視している。

 

「……!?」


 ルジェは、しりもちをついている少年の奇妙な点に気づく。少年の肌は、緑色だったのだ。

 

「ジェラルド!どうして今日も彼らに仕事をさせているんですか!危険だと伝えたはずです」


 執事、ジェラルドに詰問する少女。作業用だと思われる、素朴な革製のツナギを白いシャツの上に着込んでいるが、その顔からは品の良さが伝わる。

 

「下草刈りがまだ不十分でしたので……生滴スライムならば危険性も低いかと。それよりお嬢様の身が……」


「何より、彼らを孤児院に預かっているのは私です!どうしてあなたが私の裁可なく彼らを働かせているのですか!」


 少女は執事に一通り詰問すると、ルジェ達の方を向いてにらみつけた。碧い瞳から伸びる視線がルジェ達を貫く。

 

「失礼しました……お父様が依頼した冒険者の方々ですね。即刻お引き取りください、これは当家の問題です」


「おいおいお嬢さん、そりゃないんじゃないかい」


 リコレッタは即座に言い返す。


「こちとら昨日下見もして、半日時間をかけてここまで来たんだよ。もしそれでもっていうんなら、依頼料400ディルハムのうち最低半分は頂かないと腑に落ちないね」


 バークスとダグも、彼女に睨み返す。

 

「そうだそうだ、現場まで来させといてそっちの都合でってのは話にならないぜ」


「もしこのままビタ一文よこさないつもりなら、親父さんに報告させてもらうからない」


 ……おそらく、冒険者をやっていてこういう現場でのトラブルは日常茶飯事なのだろう。依頼をキャンセルするならするでそのお代が出るよう外堀を埋めていく。

 

 ……しばしの沈黙。少女の額に、汗がにじむ。相応のプレッシャーがかかっているのだろう。

 

 執事のジェラルドが、まずは沈黙を破った。

 

「まあまあ皆さん、ここは私めが旦那様に掛け合い、後日200ディルハムを『子羊の戯れ』へ……」


「ジェラルドは黙って。こんな風来坊共に支払うお金は当家にはありません」


「風来坊?そうでしょうよ、だけどこっちは『子羊の戯れ』から正規の手続きを経て依頼に来たんだ。それ相応の扱いをしてくれなきゃ契約不履行ってやつじゃない。紹介してくれた親父さんの顔にも泥を塗るつもりかい」


 少女とリコレッタの視線が交差する。

 

 そこに……

 

 

「チェザレアねぇちゃん、助けてぇえっ!!」


「!!」


 果樹園の奥から、子供の助けを呼ぶ声。少女は声のする方へ駆け出した。

 

「俺たちも行こうよ、いずれこのまま手ぶらじゃ帰れない」


 ルジェが提案する。

 

「そうだね。執事さん、そこの子を頼む」


「で、ですが……」


 リコレッタに言い返そうとする執事だが、

 

「嬢ちゃんの言い分が正しけりゃ、その子達がこんな中に突っ込まれたのはあんたの落ち度だ。その位の責任は取りなさい」


 しりもちをついていた少年を執事に預け、一行は少女、チェザレアを追った。


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