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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第11章 ファーマーンの熱波
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11ー4 罠の臭い


 ー 天精の年 3月4日


 ルジェ一行が今日宿泊予定であった神殿都市アスウァンへ到着したのは、太陽が西の地平線へ完全にその身を隠し、肌寒くなるほど気温が落ちた後のことだった。


「さ、寒い……」


 砂漠の寒暖差が一行を消耗させる。滞在先の旅籠屋「イスカンダリーヤ」に着いたころには、既に立っているのがやっとの者がチェザレアを含め何人も存在した。


 そんな一行の注意を引き、彼らを更に疲弊させるのが市内各地を押さえるアイラン王国軍である。


「まるで占領下だな……」


 ルジェは舌打ちを禁じ得ない。主賓であろう女王エリアは既にファーマーンへ到着しているだろうから、彼らの任務が自分達の監視であることは明白だった。こちらに少しでも妙な動きがあれば、それを口実に捕らえて人質にしてやろうと言う気配が満々である。


 物々しい監視の中、旅籠屋へと入る。ルジェは思った。おそらくチェザレアの焦燥は見た目以上に深刻であろうと。既にこれだけ多数の王国軍がファーマーンに駐留しているのならば、先制攻撃の前提自体が狂ってしまっているだろう。


 しかし一方でこういう考えも生じる。ファーマーンの人々、特にアル=サイードの支配の恩恵を受けた下層の人々は、事実上の占領下であるこの現状を甘受しているのか?


 アル=サイードの思惑がどこにあったにせよ、彼らは神官や貴族連中の封建的支配から抜け出せていたのだ。未だ大半が農奴として搾取されているアイランの大衆と対比し、現在彼らの中からは確実に中産階級が育ちつつあった。


 ……旅籠の窓から、アスウァン大神殿の威容がこちらを見下ろしてくる。あの中にいる特権階級たちは今頃勝利を得たとほくそ笑んでいるだろう。


「女王エリアの威を借る豚共め……アル=サイードの胤がいずれ……」


 ルジェは、大神殿を見上げていた旅籠の客の一人がちらとそう呟くのを聞き逃さなかった。



「はぁ……」


 寝室に着くと、まずチェザレアがだらしなくベッドにうつ伏せになる。


「大統領閣下とあろう人が、ベッドにうつ伏せですか」


 そういうルジェも、彼女のベッドの傍らに腰かける。


「人数分用意してあるようですね。それにしてもお嬢様、直ぐうつ伏せになるのは迂闊ですよ。罠が仕掛けてあったらどうするつもりでしたか」

 

 アナーリは直立したまま周囲を見回す。


人魚マーメイドだって乾燥した場所は苦手じゃないのか?」


「鍛えてありますので……ともあれ、外に見張りが一人は必要でしょう。……どうやら、罠は仕掛けられていなそうですね。私が担当しますので、皆さんはどうぞ部屋でお寛ぎください」


 一行の中でも恐らく一戦士としては最強の半人魚ハーフマーメイドからの、ありがたいお達しであった。



 アナーリが部屋の外に出て行ったところで、チェザレアが起き上がって話し始める。


「……ルジェ君、どう?アレは成功すると思う?」


「例の作戦の件ですか?……とてもではないですが、アイラン軍が女王と共に主力を駐留させているとなると、難しいでしょうね」


 月並みな意見をルジェは言う。


「でしょうねえ……正直、お手上げだわ」


 チェザレアがベッドの上で両手を上げる。


「戦時体制が長引けば国は疲弊する。国債を発行しすぎて暴落させれば国家が市民に信用されなくなる……いずれ、その事態を導いた私の政治生命は終わるわね。それでいいの。私が犠牲になって議長や市民公会の与党派の皆が守られれば」


 その発言に対し、ルジェは少し怒気を含んで、


「何を弱気な事を言われているのですか。俺は、俺と少なくともあのカハンに同行した4人はあなたに賭けているんです。俺は閣下が議長さえ上回る真の意味での国家元首になれる、そう……」


 と(カーラの事は棚に上げて)ルジェがまくし立てた、その時だった。

 

 チェザレアとルジェが座っていたベッドの下の床が、突然消える。


「!!」


「大統領閣下!!」


 落ちていく2人とベッド。ディアナとゴドフリーが駆け寄るが……


 ルジェ、チェザレアとベッドは、そこに何もなかったかのように姿を消し、床が元通りとなる。


「な、そんな……閣下、主任……」


 残ったのは、ディアナ、ゴドフリー、あと2人の護衛。


「してやられた、ラ=ティダニア=ダダロ、我に本質を見抜く力を、ディスイリュージョン」


 護衛の一人、太っちょの方がディスイリュージョンの魔法をかけると、床だと思っていた部分が穴となり、地下階に繋がっていることが見て取れた。


「閣下、ルジェ主任ッ!!ご無事ですかッ!!」


 ディアナの声は、しかし2人には届かない。


「……アナーリ!今のが聞こえなかったのか、アナーリ!?」


 ゴドフリーは、ドアの向こうにいるはずのアナーリに語り掛ける。……反応がない。そのまま彼が、ドアを開けると……


「いない……!?」


 一行の脳裏に、最悪の考えが浮かぶ。あの時毒を盛ったのは、副料理長ではなかったのかもしれないと。わざわざ罠が無いと言った上で部屋の中から出たのも、彼らを罠にかける為だったのかと。


「今ならまだ間に合います、追いましょう!」


 ディアナが提案し、他2人が続いて穴から地下階に飛び降りる。ゴドフリーは一旦部屋に残った。


「いてて……」


 2メーほどの高度から落ち、ディアナは派手に尻餅をついた……降りたはいいが、すでに周囲にルジェとチェザレアの姿はない。


「クッ、……アナーリが裏切ったのだとすれば、我々を煙に巻くことなど造作もないという事か……」


「諦めちゃだめです、二人を」


 その時、


「うわっ!!」


 ゴドフリーが、3人の上に落される。そして彼らの頭上、つまり幻術で作られた床だった部分が閉じていく……


「な、何をするっ、アナーリ!!」


 今回は物理的にそこを閉められた、一瞬見えたその犯人の顔は明らかにアナーリだった。そして……


「ラ=クラウレア=フィン、安らかな眠りを。スリープクラウド」


 一行はスリープクラウドの呪文によって、意識を失った……


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