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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第9章 バイハラ炎上
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9-2 仲違いと別れ


 その時だった。

 

 処刑人が、突如その動きを止める。

 

「お待ちなさい」


 警視の隣に、黒服に身を包んだ男がスタッと出現した。気配も、何もなく。

 

「……チッ、何の用だ、パルパライソ」


 警視は、チェザレアがこれまで聞いたことのない名前をいう。

 

「チェザレア、ヴァシリー親子は我々に引き渡すという話では?」


「……死体になってから引き渡さないとは言っていないぞ」


「それでは協定違反です。あなた方が総督府を制圧下に置くまで、官憲を陽動していたのは誰かということをお勘定いただきたい」


「……断ると言ったら」


「あなた方3人を排除し、チェザレア殿だけでも預かります。第一何ですかこの茶番は。共犯を聞き出すならチェザレア殿に嫌疑をかけた時のように、適当に捕らえてある議員を締め上げればどうです?それともチェザレア殿を無理やり立件したから、人間の官吏が言うこと聞かないんですか?」


「ぐぬぬ……」


 チェザレアは、その人物がすさまじい使い手であること、そして、恐らくはバイハラ再独立派の人間だという事を見て取った。

 

「……時間操作の、術式……」


 そう理解するしかないが、そんなものは見たことも聞いたこともない。

 

「……分かった、引き渡そう」

 

「ありがとうございます」


 そう男が言うと、処刑台の上のヴァシリーは忽然と姿を消した。

 

「もう一人……!!」

 

 警視が驚く。

 

「我々はあなた方と違って少数精鋭でして」


 すると、聴衆の方からブーイングが響いてきた。3人の方に石が投げられてくる。


「げげっ」


「それでは失礼」


 次の瞬間、チェザレアと男はその場から姿を消していた。

 

 

 ……チェザレアが気が付いた時、彼女は馬車に揺られていた。

 

 傍らに、父が寝ているのを見て、ひとまず安心する。

 

「……父様以外の議員が処刑されるまで、待ってたわねあんた達……」


 疲労と苦痛の極にありながら、チェザレアはそのことを彼らに詰問せざるを得ない。

 

「もちろんです」


 黒服の男……顔は覆面をかぶっている……はにべもなく答えた。その声に、チェザレアは聞き覚えがある。

 

「……たいそうなご身分ね……ジェラルド」


「今はパルパライソです。顔も変えてありますよ」


 憎しみがあふれてくるが、今は我慢の時。何より、体が全くいう事を聞かない。

 

「チッ……それで、あなた達の私達への要求は?」


「彼らと同じですよ。大ハーンを暗殺したことを認めてください。そうすれば、我々はあなた方を旗印に、自治領西部に『バイハラ亡命政権』を樹立できます」


 むかつく、ハイエナのような奴らだ……第一、亡命政権といってもバイハラから離れることのできない人間達もいる、コイツらに彼らを救うことは出来ない。……そして、何より孤児たち。

 

「議長は、あなた達が身柄を確保しているの?」


「それは守秘義務があるので……」


 どうやら確保していないようだ。チェザレアにとって、それはただ一筋の希望だった。

 

「バイハラに……馬車を戻して」


「駄目です。退去するまでは我々を攻撃しないという、彼らとの取り決めがあります」


「じゃあ、あなた達と違って逃げる足の無い者はどうなるの!?このままでは」


「優れたバイハラ人だけが生き残ればいいのです。あなたは一等市民の癖に彼らに甘すぎます」


 ……驕りだ、この驕り、一級の存在だという驕りがかってバイハラ共和国を滅ぼしたのだ、チェザレアはそう思わざるを得ない。

 

「私の祖国、アイランはその点徹底しておりますよ。我々優秀な貴族階級と、愚鈍な大衆とは種が違うのです。バイハラの一等市民と二等市民も同じようなものでしょう」


「……違う……」


 あの青年は命を賭けて自分に教えてくれた。自分はお前の思い通りになどならないと。

 

「違いませんよ。だから、ともあれ亡命政権を打ち立て、現在行軍中のファーマーン軍とアイラン軍を迎え入れれば、自治領は東西で勢力均衡がなされます。これで、バイハラは戦火には巻き込まれません」

 

 ……そう上手くいくものか。戦は戦力のみで決まるものではない。

 

「降ろしなさい」

 

「バイハラに戻っても、先ほどよりひどい目に会うだけですよ」


「……私の戦場は、守るべき人がいるのはバイハラよ、あなた達の目論見など関係ない」


「貴女に拒否権などありません」



 口論をしていると、突如馬車が止まる。

 

「旦那、お客さんですぜ、どうしやす!」


 御者は軽口で言った積もりのようだが、その口調は真剣そのものだ。

 

「……チッ、山狩りですか……。隠れていてくださいよ」


 ほぼ単独での行動が仇になったのか、既に馬車は小鬼オークの一団に囲まれているようだ。

 

 幹部級の裏取引が伝わっていないのか、あるいは、クーデター派に反する者たちなのか。

 

 

 激しい剣戟の音が馬車の外から聞こえる中。

 

「……チェザレア」

 

 チェザレアは、自分を呼ぶ声を聴く。

 

「父様、起きておいでですか」


 ヴァシリーが、チェザレアの方へ向く。


「……これを使いなさい」


 そう言って、手渡してきたのは魔石付きの腕輪。

 

「これは緊急避難用の……!どうして、捕まりそうになった時に使わなかったのです!」


「お前が捕まっている以上、俺一人で逃げても意味がないと思ったからだ。……よく聞け。議長はクーデター派に与しなかった軍部の者たちに匿われている。彼女らと共に総督を奪還し、バイハラを救え」


「で、ですが大ハーンが亡くなった以上……」


「そこから先は、お前の好きにしろ。お前の思っている通りにやるんだ。それが、お前が大切に思っている人々の為にもなる」


「…………」


 チェザレアは、俯く。

 

「早くしろ、そうしなければ機会は失われる」


「……分かり、ました」


 チェザレアは左手でそれを受け取り、傷つき震える右手を腕輪に通す。

 

「……また会おう、チェザレア」


 恐らく今生の別れであろうことをお互い理解しつつも、ヴァシリーはあえてそう言った。

 

「はい。……『ウン=シュバイ(飛び立て)!』」


 魔石が起動し、腕輪に封じられた術式……風魔法A・フェザーの魔法と風魔法B・クイックの魔法を組み合わせた高速飛翔の魔法が発動する。

 

 チェザレアが超高速で空を飛んでいく姿を、ヴァシリーは疲れ果てたその目で見送った。

 

「俺は、かって憎んでいた。人間を、小鬼オークを、そして自分という存在を生み出したエスティールそのものを」


 ……誰が聞いていなくとも構わない。思いを唯、ヴァシリーは口に出した。

 

 傭兵時代、戦場で平然と陣営を違え、より敵を殺せるほうを選んだことを思い返す。

 

「……お前の存在が、それを、忘れさせてくれたのだ……。きっと、お前にはこれからも苦しいことがあるだろうが……どうか、おれと同じ畜生道に墜ちないでくれ……」

 

 

パルパライソの使ってる魔法の伏線、ちゃんと書けるんだろうか……

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