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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
プロローグ 世界を変え損ねた青年の話
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プロローグ1 青髪のルジェ

新作です。


今回は純粋なファンタジー世界観になります。とある過去作の世界観を引き継いだ作品ですが、この作品単体でも楽しめるように努力したいです。



 水精の年 11月 ―



― 父さん、母さん、この度は突然失踪したりして申し訳ありません。

 

  今俺はバイハラにいます。しばらくはマィオーニに戻るつもりはないです。

 

  前からそうしようと思っていましたが、この際なので一時的に冒険者ギルドに登録して、それで生計を立ててみます。

 

  途中まではカーラと一緒でしたが、バイハラ市内ではぐれたので、冒険者を続けつつ探そうと思っています。

 

  カーラの事について、村長には俺が探していると伝えて下さい。

 

  それでは、父さんも母さんも体に気を付けて。大精霊の加護やあらんことを。

  

  ルジェより、愛をこめて ―

  

  

「……手紙なんか書いたの初めてだよ」


 郵便局の簡素な木目のテーブルで、封筒に宛名を書きつつ青年は独り言ちた。

 

 癖のある青い短髪と、赤い瞳がまるで燃え上る青い焔のように見える。草色の簡素なマントの下には土色のチュニックと長ズボン。

 

 典型的な旅人の扮装をした彼、ルジェーロ=ドミットル・デ=マィオーニは、寒村マィオーニを抜け出して自治領首府バイハラにたどり着いたお上りさんであった。

 

 彼には、村を失踪してまでここに来た目的がある。……いや、あった。

 

「……とても、村の皆に顔向けできない」



―――――――――――――――――――――


 ルジェーロ……ルジェが両親に手紙を書くことになった、その数日前……。


 バイハラ自治領……かってはバイハラ共和国と呼ばれていたそれは、ルジェが物心ついた10数年前にはすでに小鬼オーク……豚面の小汚い亜人族だとルジェ含む人間は認識している、その奴らの支配下にあった。


 足掛け70年続いた、大精霊の加護ある人間およびエルフと、世界を滅ぼすために魔神王が生んだ小鬼オーク含めた亜人との戦争……ドゥネ=ケイス戦役末期の出来事である。30年以上前、ドゥネ=ケイスの侵攻によって市域の北半分を焼かれたバイハラは、再び現れた小鬼オーク人魚マーメイド爬虫人リザードマンの連合軍を前に恐怖し、今度はろくな抵抗もせずにあっさりと降伏してしまったのだ。


 戦争は、10年前に小鬼共が精霊の秩序を受け入れることで終結したが、その講和のためにバイハラは差し出された形となった……すなわち、ドゥネ=ケイスから派遣された小鬼オークの総督が、共和国の意思決定機関であった市民公会の上に立つ体制は何も変わらなかったのである。


 これを開放するのは俺しかいない。ルジェがそう考えても不思議ではない。


 両親の農作業を手伝いつつ、村の自警団の仕事をこなしていたルジェは、仕事帰りに腐れ縁の幼馴染である同僚のアルフ、同じく幼馴染であるハーフエルフのカーラ、村長の義理の娘を連れて酒場へと直行していた。


「アルフ、考えてもみろ、父さんたちが汗水たらして作った麦も、問屋に買いたたかれる上にその値段の半分は小鬼オークどもが税金として持ってくんだぜ」


 エールの泡を口に付けつつ(ルジェは19歳だが、バイハラ自治領の成人年齢は15歳なので問題ない)、ほろ酔い状態でルジェは口走る。はたから見れば絡み酒だ。


「ご高説は結構だがよ、ルジェセンセにそれを何とかする名案はあるのかい?あ、因みに税金の割合自体は共和国時代より下がってるぜ、な、カーラ」


 アルフはカーラに振る。


「う、うん」


 2人より2周りも小柄なカーラがうなづくと、唯でさえも低い身長が余計に低く見える。心なしか、ハーフエルフ特有のとがった耳が震えているように見えた。


「それは共和国が奴らからみんなを護る為に税金が必要だったからだろ。……市民軍の連中も情けない、あっさりと奴らに降伏しやがって」


 同じ人間に税を取られるのは仕方ないとルジェは思っている。彼らはそれで国を回していると学校で習っているからだ。学校……平和になった後、自治領では12歳までの無償の義務教育が始まった、彼らはその恩恵を受けた最初の世代に当たる。


 だけど、税金の少なくない部分は小鬼オークに、ドゥネ=ケイス本国に行っているのは間違いない。ルジェにはそれが許せないのだ。


「うちの二件隣のアラヤちゃんの事、忘れたとは言わせないぞ」


 小柄なカーラが、その春に生え盛る草を思わせる緑色の瞳を震わせる。短く切られた金色の短髪がふるふるとたなびいた。

 

「アラヤ、ちゃん……」


 数年前、小鬼オークによる誘拐事件が立て続けに発生してからというもの、村には小鬼オークに対する恐怖と怒りが充満していた。

 

 犯人である野生化した小鬼オークは冒険者に討伐されたものの、彼らがバイハラ駐留軍の脱走兵であることは今や公然の秘密だったのだ。


「まあなぁ……だけど、俺たちに何ができるってんだ、まさか冒険者にでもなって『赤毛のジャック』ごっこでもするのか?」


 アルフは二人に聞き返す。『赤毛のジャック』は各地で小鬼オーク討伐の逸話を残す伝説的な冒険者で、魔神王の地上降臨を阻止したとして『ドゥネ=ケイス戦役5英雄』の一人に数えられている人物だ。


「それは俺もちょっと考えた、だけど冗長に過ぎる」


 そういうと、ルジェは飲み代の50ディルハム(貨幣価値は大体1ディルハム=100円程度)札をテーブルに置いて、席を立つ。


「ちょっとヤボ用があってな、俺はそろそろ上がるぜ、お代はそっちから出してくれ」


 そのまま踵を返し、ルジェは酒場から立ち去っていった。


「わ、私も……」


 少ししてカーラも席を立ち、ルジェを追う。


「おいおい、逢引きかあ?……はぁ」


 一人残されたアルフは、苦いエールを口に含みながら、その姿を見送った。


「抜け駆け禁止だって、言ってただろ……」

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