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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第17章 愛は流れない
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17-7 ほろ苦い講和



― 天精の年、6月15日 バイハラ・大統領府



 中央街区を制圧していた蜂起市民達は、大統領と外相兼首相代行マクガイダの両名によって取り決められた休戦を受け入れてくれた。

 

「正直、受け入れてくれるか少し不安だったわ……」


 チェザレアかマクガイダ、どちらか一方が取り決めた事だったら、市民たちは『騒乱の責任がある政権幹部の生き残りに市民を代表する資格はない』と拒否する可能性すらあったのだ。

 

 しかし、ともあれ彼らはチェザレアとマクガイダを肩書通りの存在として認め、交渉のテーブルに彼等がつく邪魔はしないでくれるようである。

 

 こうして、権威者スルターナアナンタ、総代クラウザー、共和国大統領チェザレア、外相兼首相代行マクガイダの4名の会談が執り行われ、講和内容がバイハラ条約として取りまとめられた。

 

 

 1・ファーマーン国、ドゥネ=ケイス共和国、=ドゥネ=ケイス3国政府は、互いを主権国家としてこれを認める。


 2・ドゥネ=ケイス共和国及び=ドゥネ=ケイス両国政府は国名からドゥネ=ケイスの名を半年以内に削除し、新たな国名を決定する。


 3・ドゥネ=ケイス共和国及び=ドゥネ=ケイス両国政府は互いに住民交換を行い、移住を望む人々を無条件で受け入れる。


 4・ドゥネ=ケイス共和国及び=ドゥネ=ケイス両国政府は今回の紛争に際し発生した、あらゆる賠償責任を放棄する。



 ……一方的な勝利だったアイランとの講和と異なり、今回の内容は痛み分けでの原状復帰という形をとった。

 

 第2条は両国ともにドゥネ=ケイスの看板を降ろし、別個の国家としての道を歩む事を定義した形である。

 

 そして、特に第4条を市民に飲ませる為、チェザレアは混乱の責任を取る形で自らの辞任を申し出る。

 

「大統領閣下が辞任されるそうだ」


「……しょうがないさ、今回は完全にしてやられたんだ。責任を取らなきゃならない連中が皆墓の中に行ってしまったから、ともあれ生き残った彼女が責任を取るしかない」


「市民の責任はどうなるんだ、この混乱をまねいた『新市民派ポプリスタ』を政権につけた市民の責任は」


「二等市民の連中に責任はある。一方で……チェザレア大統領を支えきれなかった、俺たちにも責任はあるだろう」


 ……一等市民はそれを概ね受け入れる態度をとった。同時に、市民の義務を一部しか果たしていないのに『新市民派ポプリスタ』の台頭に大きくかかわった二等市民に対し、彼等は敵意を募らせる。

 

 二等市民の権利拡大に対抗する議会内の新たな派閥『保守派コンサーバー』誕生の瞬間だった。

 

 

 二等市民の側ではこの条約を『事実上の敗北』として、一部に暴力的な手段での受け入れ拒否を試みる動きもあった。

 

 しかし、チェザレアはこれに対して、ガイアスの遺産というべき機動憲兵を鎮圧に投入。まとまった組織を持たない彼らはあえなく粉砕された。

 

「……共和国を守ったのは軍じゃない、大統領でもない、俺たち市民だ!それを弾圧するのは不当である。俺たちの『新市民派ポプリスタ』を、俺たちの手で再建しよう!」


 『新市民派ポプリスタ』は、チェザレア主義というべき、『強固な軍隊と法律による自由の国家の維持』という思想に対するカウンター、『先ず市民とその自由があって、法律や軍隊は道具に過ぎない』という考え方の受け皿として再建された。

 

 

 また、『国民同盟ナショナレ』の生存者もこの条約内容に大きな不満をもった。

 

「我が国はドゥネ=ケイスの継承国の筈だ。まさかチェザレア大統領自らがそれを捨てるなど……」


 結党からの党員である財務委員長スタッドは語った。彼は生き残った庶民院議員の一人である。

 

 彼のデスクの傍らには、騒乱で犠牲となった党指導者たち……ダグと、そしてアルフの遺影が飾られている。

 

「やれやれ、こりゃあ大変だな……」


 セトは、書類の決裁だけではなく、党幹部として彼らをまとめる重大な仕事に直面していた。


 

 そして、党首ルジェは、今だ目を覚ましていない。セトの診断では、使い慣れていない人間が大規模な魔法陣魔法を単独で使ったが故の、マナ中毒の症状の一つだと言う話である。


 

―――――――――――――――――――――


 

 俗に『流血の6月』と呼ばれる、バイハラにおける半月間の騒乱は終わった。

 

 議会内の犠牲者、市民公会議員 定員100名中90名 庶民院議員 定員100名中84名。

 

 市民の犠牲者、クナウハラの6月5日にて628名。12日から15日にかけてのバイハラ騒乱にて1427名(憲兵隊による粛清の犠牲者含む、議員除く)。

 

 憲兵隊員の犠牲者、クナウハラの6月5日にて195名。12日から15日にかけてのバイハラ騒乱にて788名、そして、14日のガランドゥール荒野の戦いにおいて520名。

 

 市民軍の死者、14日のガランドゥール荒野の戦いにおいて総員3万名中5260名。

 

 共和国は国家の中枢を乗っ取られるという最大の危機を乗り越えたが、その代償は以上のように多大なものだった。

 

 

 騒乱終結後、チェザレアは大統領としての最後の仕事を行った。

 

 まず大統領選挙を6月22日に議会選挙と同時に行う事を取り決めたのち、元々はババッダラスの為に用意した椅子であった、市民軍総帥の地位を廃止することを決定する。

 

 これらは議会……一旦庶民院と市民公会を合併した議会にて、全会一致で採択される。(なお、上記の講和条約の批准は一票差での可決だった)

 

 市民軍の総指揮官がこれによって大統領へと完全に一本化、それを総帥とそれを中心にした個人的な参謀部が輔弼する体制に代わり、正式な参謀本部を発足させその長である参謀総長が総帥に変わる軍人の最高位となった。

 

 また憲兵に関しては、総帥位の廃止により総帥の私兵としてのこれまでの地位は失われ、憲兵総監(初代総監には象徴的な意味合いとして、騒乱で殉職したゴドフリーが当てられた)の地位を新設し純粋な捜査、治安維持の為の機関となる。



― 天精の年、6月17日



 ファーマーン軍と飛空艇団の退去を持って、チェザレアは戒厳令を解除。共和国の騒乱状態は完全に終結した。

 

 議会の欠員を埋めるためにも、大急ぎで選挙の準備が整えられる。

 

 

 大統領候補には、騒乱の収束に関与し指導力を評価されたマクガイダが講和条約の履行を掲げて先ず真っ先に立候補した。

 

 

 ……立候補すれば間違いなく当選するだろう男、2体の魔神を倒し今や国民的英雄となった青髪の青年は、いまだ眠り続けている。

 

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