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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第17章 愛は流れない
123/186

17-6 仮初のハッピーエンド


 セトとアナーリ、そしてファーマーンと共和国の両軍は、『ガル=ディ』が繰り出す頭と、激しい攻防を繰り広げていた。

 

「しぶとい奴らだねえ、そう思わないかい?」


 ライトニングの魔法で頭を迎撃しつつ、その高い声でかっての同僚たち、神官団をまくし立てるセト。

 

「破戒僧が……ようし、奴に負けてられん、もう一息だッ!!」


 神官団も奮起しつつ、残った味方を守りながら戦う。

 

「う、うわあああっ!!」


 砲兵陣地にフラミンゴの頭が高速で迫るが、

 

「ハッ!!」


 アナーリの槍に串刺しにされ、その歩みを止める。

 

「た、助かりました権威者スルターナ


「御身は大切にして下さい。あなた達は普通の兵より補充にお金も時間もかかるのですよ、犠牲を出したらお嬢様に怒られます」


「それを元首の癖に最前線で槍を振るうあなたがいいますかッ」


「ふふっ」


 どこか、彼らの雰囲気にも余裕が出てきた。信じ切っているのだ。ルジェが全部何とかしてくれると。

 

 

 

 そうしてしばらく応戦していると……

 

 魔神の姿、魔神の頭部が突如灰色となり、そして灰になって消えていく。

 

「終わった、のか……?」


 アナーリがそう呟くと、

 

 ……灰と共に、ゆっくりと、二人の人影が降下してきた。

 

「ああ、どうやらそのようだ」



 実は、さっきはかなり危ない所だった。

 

 チェザレアが直ぐ正気に戻って、機転を利かせて『短剣ダガー』を基準点にフェザーの魔法を詠唱しなければ、そのまま地面に叩きつけられるところだったのだ。

 

「甘いわね、万骨共……今更、この程度の危機で私たちを陥れようったって無駄なのよ」


 フワリと着地するルジェとチェザレア。


 ……五体満足でチェザレアが戻ってきたことは、特にアナーリにとって衝撃であった。

 

「お、おお、おじょう、さま……」


 アナーリの顔が崩れる。

 

「お許し下さい、既に貴女が亡くなった前提で砲兵たちに全面攻撃をかけさせました。何なりと御沙汰下さいませ」


 そして、大きく首を垂れるが、


「何自国の兵士達が見てる前で情けない事やってるの。……砲兵たちに攻撃をかけさせたのはアナーリ?」


「指示したのは私ですが……作戦の原案を頂いたのは……」


 落着後、全てを使い切ったかの如く、ルジェは気を失いその場に倒れこんでいた。その彼をアナーリは指さす。

 

「……そう」


 チェザレアは、不安だった。ルジェが目覚めたとき、彼はきちんと彼であってくれるだろうか。

 

「か、……閣下!!大統領閣下!!」


 その時、チェザレア達の元にクニーヒ……共和国第一師団司令の有毛種が走って訪れる。

 

「2時の方向より敵飛空艇団11隻接近!」


 報告を聞いたチェザレアはアナーリの方に向きなおし、


「……聞いての通りよアナーリ、一難去ってまた一難だわ」


 と、余裕を持った表情で答える。

 

「余裕ぶっている場合じゃないですよ、例の水圧砲はここには届きませんし、魔神以上の高度にいる飛空艇に先ほどの戦術は使えません……何より、兵力の絶対数を魔神に相当削られました」


「……」


 そうアナーリに返されると、チェザレアとしても表情をこわばらせざるを得ない。

 

 やがて、目視可能な距離に飛空艇団がその姿を現した。

 

 ……空中に、巨大な有毛種の映像が投影される。

 

 

「……魔神『ガル=ディ』を討伐したファーマーン軍、並びにドゥネ=ケイス共和国軍に告ぐ。私は=ドゥネ=ケイス遠征軍総代クラウザー。両国政府との講和に関する交渉を、大ハトゥンより一任されている」


 ……クラウザーと言う名に、チェザレアとアナーリは聞き覚えがあった。しかし、炎覇王はもう亡くなっているはずである。

 

権威者スルターナアナンタです。ファーマーンを代表して交渉に応じます。そして、隣にいる共和国大統領チェザレアもまた応じるでしょう、ですねお嬢様」


「……」

 

 チェザレアの想いは複雑だった。これだけ祖国を荒らした相手に、これで手打ちですからと休戦してよいのだろうか。

 

 しかし、共和国軍は現に魔神を倒すだけで半壊し、これ以上の戦闘は難しいと判断せざるを得ない。

 

「共和国大統領チェザレアです。ですが、本来私に外交交渉に応じる権限は有りません……」


「お嬢様?」


「確か、ファーマーンが外相を保護していたわね。せめて、そこの責任ぐらい新市民派ポプリスタに取らせないと」


 チェザレアは、例の羽型通信機で外相を呼び出した。

 

 

― ハールーン 甲板上



 共和国軍から逃げる為、大慌てで出航したハールーンの甲板上。通信機への着信を外相マクガイダが受けると、そこにチェザレアの姿が現れる。

 

「だ、だだだだ、大統領閣下!」


 かってに政権によって閑職と判断された外相の地位にあった小鬼オークは、心底驚いた。誰かが通信を掛けてくるにしてもガイアスだと思っていたのだ。

 

「外相、バイハラで首相の代行は選出されていますか?」


「わ、分かりません」


「では現時点を持ってあなたを首相代行に任じます……本来、私がそれを行うのは儀礼的なものですが、今は緊急時ゆえ実質的な権限が伴うものと思っていただいて結構です」


 棚から牡丹餅とはこのことか。


「は、はは、拝命心して承ります」


「では、まず首相代行に問います。魔神信仰派……=ドゥネ=ケイスから休戦の申し出があります。これを大統領として受けて構いませんね」


「は、はいッ!」


 小心者の小鬼オークは、必要以上に大きな声で答えた。

 

「ありがとうございます。それではまた、バイハラでお会いしましょう。通信をこれにて切ります」




 そうして、通信を切ると、チェザレアはクラウザーの投影に答える。

 

「共和国政府より、あなたとの休戦に応じると申し出がありました。我が国も武器を置き、貴国との交渉に応じます」



 ……こうして、互いに戦争状態にあったファーマーン、ドゥネ=ケイス共和国、=ドゥネ=ケイスの3国は休戦に同意した。

 

 

 クラウザーもここまで来た以上は敵も自分に手を出すまいと、その場に『ファンロン』を着陸させ、自信と共に少数の供回りと、移動の為の馬車数台を揚陸した。

 

「本物の炎覇王……」


 アナーリ、いやファーマーンにとって、因縁がないでもない相手であった。彼はかって、ファーマーン国内からドゥネ=ケイスが撤退する際に焦土戦術を行った責任者だったのだ。

 

 しかし、流石に40年以上前の話である。ましてアイラン育ちのアナーリが特別憎む理由はなかった。

 

「ウッディーン、あなたに残存兵力の指揮権を移譲します。私はこれより講和の交渉を行いますので、その間祖国を頼みますよ」


「承知いたしました」

 

 

 使節団と両国首脳はそのまま『ファンロン』から降りた馬車に搭乗し、講和会議の開催場所と三者が取り決めたバイハラへと移動する。

 

 彼らを護衛するは、共和国軍に僅かに存在していた騎馬部隊。

 

 残りの共和国軍もまた、クニーヒの指揮の元戦死者の埋葬、戦傷者への処置を済まし、翌15日にはファーマーン軍と申し合わせて撤兵を開始。

 

 こうして、ガランドゥール近郊の荒野は、再び平穏を取り戻した。

 


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