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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第17章 愛は流れない
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17-5 それは虚無か


「糞ッ!!こいつ、もっと高度を上げる積もりかっ」


 ルジェも負けじと、魔神の肉体を這い上がる。チェザレアのいる、ペリカン顔までは後2つの頭を越えなければならない。

 

「……無駄よ、ルジェ君……もう私、その……下半身は魔神と同化しているの」


 鴨の頭の上で短剣ダガーを抜きとり、新たにそれを上の隼の頭に打ち込む。

 

 完全に欠損しているのならば、多大なマナさえあれば逆にリザレクトの魔法で復元してしまえるが……既にチェザレアの魂の中の情報が、融合後のそれに置き換わっている状況でそれは不可能だった。

 

「だからって、生き残るのを諦める気か。君は俺にかけたんじゃなかったのか」


 鴨の頭が遅ればせながらルジェを振り払おうと震えるが、ルジェはそのまま短剣ダガーを足場にして隼の頭をよじ登る。

 

 その時、踏まれた短剣ダガーがルジェの脳内に転写するかのように、魔神の肉体の内部構造……チェザレアが言った下半身の同化も含めて映し出す。

 

「コイツ……どうやって、調べたんだ?」


 あるいは万骨達の中に、かって『ガル=ディ』が世界に降臨した際に戦い、解析した者がいるのかも知れない。

 

「……」


 ワイヤーを使って、短剣ダガーを回収する。

 

 ……ルジェは先ほどのビジョンから、魔神を世界に顕現させている術式の在処を発見した。

 

「コイツは、マナの発生源であると共に、その肉体を存在維持する為にすさまじい量のマナを消費している。つまり、術式によって呼び出された異世界からの流入マナの器こそが精霊や魔神の正体で、その生命体としての特徴や人格は表層的な現象に過ぎないのだろう」


 ルジェは、チェザレアの、ペリカンの頭の方に向いて話す。

 

「……だから、俺はそれを切り取る」


「そ、それは、どういう事?」


 チェザレアが問う。


「はあっ!!」


 ルジェは、短剣ダガーを隼の嘴の根本に突き立てる。

 

「……むんッ!!」


 そして嘴を切り取ると、そのまま切り口に手を入れ……

 

「あった……」


 それがマナの集中点、『ガル=ディ』の肉体をこの世に構成させている、人間だったころのガイアスの心臓だった。

 

 その周囲には、術式がぎっしりと書き込まれている。

 

 勿論、生きた人間の心臓に術式を書き込むことなど出来ない。

 

「…………」


 ルジェは、ダグにしろ彼にしろ、術式が埋め込まれた本物そっくりの『模造品』に置き換わったのだと推測した。

 

「恐らく生前は、彼なりに清廉潔白で、市民の事を思っている男だったのだろう」


 ……ルジェは、短剣ダガーの持つある情報を探していた。……それは、リザレクトの魔法の『本来の』使用方法。

 

「これで魔神を封じた直後に、器が完全に壊れる前にその溜まったマナを使い、チェザレアの肉体の魔神に侵された部分を再生できる。だから頼む、俺に教えてくれ、リザレクトの魔法の本来の術式を、俺の体を何にでも使っていいから!」


「無茶よ、リザレクトの魔法じゃもう……」


「……やっぱり、あの日愛し合ってよかった。おかげで俺の中の魂の情報に、その日刻まれた君を復元できる」


 さわやかな顔で言うルジェ。

 

「え……だけど、リザレクトの魔法じゃ一日しか遡れないし、それに他人の魂からの情報じゃ……」


「……その制限は、術式を簡略化した為に発生しているんだ」


 元々、現在の魔法の術式は口語の呪文で発動するため、実用性のない部分をそぎ落とす徹底的な簡略化が施されている。

 

 逆にそれゆえ、融通が利かない部分が産まれているのだ。


「行くよ、チェザレアあ……あれっ!?」


 ルジェは、突如ふらつく。目の前がくらくらする。足場が悪い中では致命的なものだ。

 

「る、ルジェ君ッ!!」


 ルジェは頼り過ぎたのだ、短剣ダガーの力に。足を踏み外す。

 

 ……まさに、彼が落下しようとしていたその時、

 

 

 

 短剣ダガーが、魔法陣を刻むために自らをペリカンの頭に打ち込ませ、ルジェをペリカンの頭へよじ登らせる。

 

 『ガル=ディ』からの抵抗は不思議とない。もう観念したのか、あるいは何をやっても無駄だと思っているのか。

 

「……ルジェ君?」

 

 チェザレアの背後にルジェが降り立つ、いや、チェザレアは、その雰囲気から彼がルジェで無いことを正確に把握していた。


 やはり『ガル=ディ』は『止めて』いるのだ、彼が。


「大人しく……していろ」


 ルジェが自分に向けるモノではあり得ない、冷徹な声。そして、死を覚悟したかの如く沈黙する『ガル=ディ』。欠片に記憶された『告死のニヒル』自身が、現れたのだ。

 

「い、いたッ!!」


 短剣ダガーはルジェの腕を動かし、チェザレアの肉体、背中に自身で魔法陣を刻み始める。

 

「耐えろ」


「……う、うん……い、いてて、ほ、本当に痛いっ!!」


「まだ生きている証拠だ。死ぬよりましだろう」


 …………チェザレアは、涙を流しつつ、その責め苦に耐えるしかなかった。

 

 

 

 ……数刻後、

 

 チェザレアの背中に、チェザレアが浸食された部分を模した、……いや、頭以外の肉体のすべてを取り替える為の、非常に複雑な術式が書き加えられた。

 

 すなわち、この傷も魔法発動と共に消えることになる。

 

「……では、発動するぞ」


「……いいの?あなたの役割は、英雄に復讐を果たすことなのでしょう?それが、どうして……」


「自分でその位考えろ」


 そう言うと、短剣ダガーは自身を振るわせ、ガイアスの心臓をルジェに貫かせる。

 

 その血が、チェザレアの背中の傷に流れ、それが魔法陣起動の合図となった。

 

 『ガル=ディ』の肉体が地上から消え去っていくと共に、ルジェの魂の記憶に刻まれたチェザレアの肉体が復元される。

 

 チェザレアの目の前に、光が広がっていく……

 

「え、ちょっと……まさか……」


 ルジェとチェザレアの肉体は、そのまま虚空に放り出された。

 


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