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幼女と魔力コンテスト


「うーん……今日もいい天気!」


 朝の日差しが眩しい。

 一日の始まりを告げる小鳥たちが、風に乗って心地良いさえずりを届けにやってきた。

 腕を太陽に向かってぎゅーっと伸ばす。

 全身からえもいわれぬ快感が込み上げてくる。

 暗殺業を中断し、ミユと生活をしてからというものの、毎日が新鮮だ。

 そういえば、あの頃は熟睡なんてした事もなかったかもしれない。

 死と隣り合わせの生活に浸っていると、三時間だけ目を瞑っただけの仮眠を取ることが多くなった。

 人と会う度に「え、貴方本当にラピさんですか?」と驚かれる。

 それくらい私は変わったのだろう。

 鏡を見ると、血色の良い若者が笑顔で立っていた。

 ミユが鏡を見ていたので真似して見るようにしていると、少しづつ自分が変化しているように思う。

 明日は一体どんな自分になっているのだろう。

 生きている事が楽しくて仕方ない。

 

 暗殺業から離れてみると、私は自分でいろいろな事ができるんだと気付かされる。

 例えば今まではターゲットに察知される事なく、首の皮を残したまま殺っていたが、料理を始めてみてからはこれがなかなかに有用な技術だとわかる。

 人の皮を剥くよりもじゃがいもの皮を剥くほうが楽しい。

 それと必要以外の買い出しは即座に済ませて、値段も何もろくに見ていなかったが、ミユと一緒に買い物に行き始めてから同じような物でも様々な違いがあることに気付く。

 たとえばロットキャー産のニンジンは380ルキンだが、ジベット産のニンジンは600ルキンもする。

 ニンジンなど、どれも同じだと思って、気にした事もなかったし、そもそも今まで料理せず生で素材を齧っていた。

 だが、気になって両方買って料理するとこれがまた全然違う事がわかる。

 ミユの反応一つとってもそうだ。

 年頃の子供というのは、舌が敏感なもので野菜のように癖のあるが栄養素の高いものには、大人が味わうよりも何倍も野菜独特の臭みや苦味といった癖を感じ取ってしまうものだ。

 ミユはそんな子供の中でも珍しいくらい好き嫌いは少なく、ロットキャー産のニンジンは美味しく頂いたが、ジベット産のニンジンには少々難色を示した。

 つまり値段が高ければ必ずしも良いものがあるわけではないということも分かった。

 今まで武器などは一番高い物を購入していた。

 それは値段に見合う仕事をしていると思っていたからだ。

 しかし、土地的な問題でこれ以上値下げすることのできない場合もあるのかもしれない。

 例えばロットキャーではニンジンが取れすぎて余るくらいあるから安くても元が取れる上、それくらい取れる土地状態も良く、なにより美味しいヤツがよくできるのでこの値段なのだろう。


 一方でジベット産のはそれほど土地状態も良好ではなく、質の良いものが少ないので、なるべく高く売って稼ぎたいのだろう。

 あるいは今年は不作だった為、値段が普段より軒並み跳ね上がっているとか。

 とまぁこんな具合でニンジン一つとっても私には知らない事が多い。

 その扉を開けてくるのはミユだ。

 今日はどんな扉を開けてくれるのか、

 

 ご機嫌でミユを迎えに行っていると、ミユは「おまたせー」と扉を開けてきた。


 今日のミユのファッションはコロボックル風だ。

 木をくり抜いて作られたというつやつやのとんがった帽子は、最近のミユのお気に入りだ。

 その様子は人間の子供というより、花の妖精か小人にしか見えなかった。

 実に愛くるしい生き物だ。


「ラピー、あそこー」

「え? どこどこ?」

 そう、最近の嬉しい事と言えばミユがようやく名前を覚えてくれたのだ。

 今でもたまに間違えるが、それでもミユが必死で覚えようとしてくれているという姿勢の結果なので良しとする。

 名前を初めて呼ばれた時、心の奥がときめくような感覚に襲われたのが記憶に新しい。

 あんな感覚初めてだった。

 名前など単なる記号でしかなかった私にとって、名前が初めて意味のあるものに変わった瞬間だったのかもしれない。

 思わず抱きしめたくなって、ミユに飛び込んだらミユはあちこちウロウロしており、壁に激突した。

 嬉しい痛みだった。


 人混みにミユが肩の上から指差すと、そこでは魔法使いと呼ぶに相応しい装いをしている者たちが集まっていた。


「なんだろう……祭りかなにかやってるのかな」

 気になってその方に向かって走っていった。


「さぁさぁ古今東西魔法使いの皆さーん! また魔法使いではない皆さーん! 魔力競いコンテスト、略してマリョコンがいよいよ開催ですよー!」

 騒ぎの中心では、自身のサイズには合っていない少し大きめなとんがり帽子をかぶっている女性がいた。

 先ほどの発言とこの群衆を見るに彼女も魔法使いであるのは明白だった。

「魔力コンテストか……」

 私は魔法や呪いといったものはてんで適性がなく、所謂魔法の名称と効果は知っているが、自分では扱うことのできないタイプだった。

 なにせ魔方攻撃ステータスがたったの70で、魔法防御に至っては僅か20しかないのだ。

 70といえば初級も初級、超初級ビギナー魔法使いでも100がその最低ラインだと言うと、その低さがよく分かるだろう。

 華々しく魔法を唱えて、敵を殲滅する。

 昔は確かに憧れていたが、私にはどうもその適性がなかったようだ。


 コンテストなんて言うくらいだからもうそれは適性ばっちりの中から、更にえりすぐりのエリートたちを集めたのだろう。

 彼らの顔を見るに我こそは! という血気盛んな魔道士たちがワンサカいる。

 それこそ本当に、老若男女問わずといった具合だ。

 この魔法使いという職業もかなり面白いと思う。

 なにせこの職において年齢はあまり関係ないというのだから。

 通例、あらゆる者は歳を取る。

 歳を取るということは肉体も衰え、記憶力も無くなっていき、徐々に衰弱し切っていく。

 故に剣士や暗殺者などは強かった時代で『引退』をし、その一線から身を引くのだ。

 

 ところがこの魔法使いというものは歳を取れば取るほど魔力が相対的に増していくようで、蓄えた知識がものをいうこの職と相性はかなり良いらしい。

 加えて魔法に携わっていると、百年やそれ以上に寿命が伸びたり、衰えるはずの脳が活発になって、老化の現象が抑えられるという。

 おそらく私の推察だが、魔法を扱う魔力が、その本人の生命エネルギーとなり、使えば使うほどそれが身体全体と脳にぐるぐる回っていき、結果心身は活発になって長寿に繋がっていくのだと思う。


 歳をとってもまだまだ現役で居たいものは多くいる。

 その者たちにとって魔法使いはこの上ない天職だろう。

 

「ルールは至って簡単! この魔法陣の上で魔法をお唱え頂きますと、こちらの魔法球(マジック・スフィア)が反応し、その者の魔力を示してくれます。その魔法の規模とスフィアの大きさが最も大きいものを優勝とします! ちなみに優勝賞品は300万ルキンと魔法使いなら誰もが憧れるこの素晴らしい秘宝、魔水晶(マジック・クリスタル)でーす!」


「これはやるしかありませんわね!」


「ワシの優勝間違いなしじゃ」


「魔力比べには自信があるぜ!」


 各々が闘志を胸に準備をしていた。

 300万ルキンかー。

 それだけあれば今晩のカレーの具材は何品買えるだろう。

 少なくともニンジン6000本は堅いな。

 だが、たとえ魔法使い以外参加可能だとしても魔力適性がまるでない私には優勝は無理だろう。


「さ、行こうかミユ………」

 呼びかけようと思い、肩に手を置くとミユがいない。

 いつも乗っているあの感覚が無いことに気づく。

 ど、どこにいったんだ!

 ま、まさかあの人混みの中に入ったのではあるまいな。

 い、いけないぞそれは!

 魔法使いの中に一人だけ人間が、しかも子供が入るなんて!

 絶対集団で魔法にかけられてボコボコにされる!

 いや、それか杖の先っちょでポカポカ殴られる!

 それだけは避けなくてはならない。

 私はミユを探しに列に入っていった。

 幸いミユだけが恐ろしく能力が高い為、感知で見つかるのは早かった。

 案の定ミユは最前列で魔法使いのお姉さんと話していた。

「お嬢ちゃんどうしたの? もしかして参加希望?」

「い、いやぁまさかまさか! ちょ、ちょっとあのキラキラが気になっただけだよね? ミユちゃん」

 でしゃばって止めに入ったが、目の前の魔法使いのお姉さんに「え、誰ですか」みたいな眼差しを向けられた。

 知らん知らん。

 ミユをたこなぐりスティッキーズになどされてたまるか。

「ねぇねぇーこれってなーにー?」

「あぁそれは……この大会をやる人が触っていいものだから、ミユちゃんは後ろで見てようね〜」

 早速スフィアに目をつけたらしい。

 まぁ子供ってなんでも触りたがるし。

 しかし、ミユがそこまで興味を示すとは思わなかった。

 行こうか、の後もしばらくそこでじっとスフィアと睨めっこしていた。

 

「……え、やる?」


 仕方なく私はミユの代理として参加希望の申し出を出した。

 ミユは39番だった。



 ◇◇◇



「おっと出ましたー! 上級火炎魔法サラマンダー! 27番のエジェウス・エルトリウスさん、暫定魔力690で1位のセシル・ジュラウドさんの叩き出した525を見事に更新したー‼︎」

「当然よ」

 おおー、という大歓声が広がっていた。

 さっきから上には上がいるのだと、1位の更新倍々レースが始まっている。

 その様を自分には、ただただすごいとしか言いようがなかった。

 ちなみに1位更新者はステータスがその都度表示されるので、鑑定スキルの乏しい私には非常にありがたかった。





 ◇◇◇ 〜魔法使いエジェウス・エルトリウスのステータス〜 ◇◇◇


レベル60

HP570

MP870

攻撃力350

守備力240

魔法攻撃695

魔法防御610

素早さ420


スキル

消費魔力減 レベル6 必要消費魔力が半分になる。

魔法耐性アップ レベル4 魔法攻撃に対する耐久力アップ。

詠唱時間短縮 レベル6 必要詠唱時間が半分になる。

魔導書庫(ライブラリ) レベル6 一度見た魔法陣をいつでも記憶から引き出すことができる。



総合判定

A+



 ◇◇◇〜 ◇◇◇




 すごいすごいとは思っていたが、レベル、ステータスにおいてこの私を完全に上回っていた。

 レベル差があると言われればそれまでなのだが、こんな使い手がまだゴロゴロしていたのか。

 差をつけられて1位から転落した魔道士も、ほぼこれに近いほどの実力を持っていた。

 そう考えると魔法使いとはいかに猛者共が多いのかよく分かる。

 それかこの大会の為だけにひょっこり現れてきただけなのだろうか。

 いずれにしても世界はまだまだ広いものだ。


 と、感心しているとアナウンスがミユの番号39番を告げた。

「それではミユさん、どうぞ!」


 嗚呼、心配だ……

 まるで学芸会で我が子を見守る親の心境のようだ。

 大丈夫かな……滑って転んだり、何かやらかすんじゃないだろうか……。

 いや、それならまだしもなんか魔法使いたちに「引っ込めー!」とかいって物投げられてやじ飛ばされるのではないだろうか……嗚呼!


 しかしミユは壇上に上がったまま動かない。

 動かないというよりは何をしたらいいかわからない、といった様子だった。

 そういえば参加するかしないかもはっきり「うん」といったわけではなかったのに、勝手に老婆心を遺憾なく発揮して申し込んじゃったな。

 まさか何するのかあの子知らないんじゃ?


「あ、あのー……ミユさん。魔法を唱えてみてください」

「まほーってなに?」


 ズコッ


 会場中がずっこける音がしたと思う。


 予想通り、何するかわかってなかった。

 お、おいおい……ミユちゃんったら……

「がーっはっはっは、お嬢ちゃんさては緊張してど忘れしちゃったな!」

「ねーちゃんやい、その子になにか簡単な魔法教えてやれよ!」

 会場は別に怒るわけでも貶すわけでもなかった。

 割と暖かく見守っていてくれた。


「え、えーとそうね……じゃ、じゃあ一番簡単な炎魔法、フレアからいきましょう! ミユちゃん、魔法陣の上に立ってこれを……」


「ふれあ」


 ミユちゃんはいきなり詠唱もなしに呪文を唱えた。

 流石に何も起きないだろうと思っていた矢先、とてつもないほどの熱気が会場を包んだ。


 見ると、会場の上空には、空一面覆い尽くすほどの巨大な火球があった。

「な、な、な、なんだよアレ!」

「お、おいおい、アレが本当に下級炎魔法フレア……いや、魔法なのかよ!」

 会場中がどよめき、喚いた。

 流石の私も目の前であんな魔法見たことない。


 いや!

 それなんかの悪の帝王が惑星破壊する時に投げるような奴だから!

 もはや小炎(フレア)などと呼ぶには生温い、超新星爆発(スーパーノヴァメテオ)と改名する方がいいくらいの業火球がミユちゃんの上にあった。

 魔法は使うものによって威力が変わる、というのは半ば常識的な話になってはいるが、それにしたって上限ってのはないのか。

 触れたもの全てを焼き尽くさんとばかりに、燃えたぎる殺意に満ちた灼熱の球体を抱えてミユは言った。

「これ……投げる?」


 ぎ、疑問形?

 投げたら星飛ぶんだけど⁉︎

「ど、どっかこことは別のとこに投げてみて!」

 とっさにお姉さんが叫んだ。

 こんな状況でも逃げずにコンテストを行おうとしている姿は流石だと言える。

「ほーい」

 そういうとミユちゃんはそれをどこか遠くの遠くの山付近に向かって投げた。


 遠すぎて音は聞こえなかったが、山は赤い光に包まれて消えた。

「な、……なんて奴だぁ……」

 魔道士たちの絶望と悲哀に混じった声が聞こえる。

 表示されたミユの魔力ステータスに叫び声を上げるまで、そう長くはなかっただろう。



 ◇◇◇


 遡ること数分前の魔王城。

 かの地、デッカイ山に城を建て、伝承に伝わる剣、ゴスイの(つるぎ)を手に取り、魔の者を打ち倒し、世界に光をもたらす人間界の救世主、伝説の勇者を待ち構える魔王が居た。


 その名はジャーク。

 ジャークは自身の魂を分けた腹心、四天王を統べる魔族のエリート中のエリートだった。

 四天王が一人、ライラスがその漆黒の鎧を鳴らし、魔王の元へやってきた。

「魔王様、時の勇者は間もなくこちらに到達するでしょう」

 魔王と呼ばれた者は毒々しい色のワイングラスを片手に、玉座ではなく、その窓際で佇んでいた。

「……もう直ぐか……」

 魔王の一際低く、死者の悲鳴のような唸り声が魔のフロアに響き渡る。


「もう直ぐ来るのだ……長きに渡る勇者と魔族の因縁の決戦が。光と闇を分かつ聖戦がな……」


 ライラスは震えた。

 恐怖にではない。

 魔王ジャークのその威厳ある言葉、そしてその威圧感だ。

 圧倒的なまでの凄まじい力を、その身に感じていたのだ。

 ただこうして立って話を聞いているだけだというのに。

 だがそれが、なによりも頼もしかった。

「はっ。今回も魔王様の勝利で御座いましょう」

「ギーッヒッヒッ。当然じゃろうて」

 ライラスの後ろから聞こえた不気味な声と生暖かい風を吹き荒らしていたのは同じく魔王の腹心、四天王が一人ベーゼだった。

 ベーゼは年老いた犬のようにしわくちゃの顎を擦りながら話した。

「この世において魔王様、いや我らが四天王含めた魔王軍が敵わぬ者などありはせんわ」

「油断はするなベーゼ。そうやって侮った結果、人類をここまでのさばらせてしまったのだ。挙句勇者の末裔などと下らぬものが生み出される始末……」


「それは違うんじゃないかなぁ」


 次に現れたのも同じく四天王、美を好む戦士トリグルだった。

 気障ったらしくバラを手に持ちながら、颯爽とフロアに降り立った。

「人間との勝負は余興に過ぎないのさ。だから魔王様は奴らを敢えて生かした。人間がボクら崇高なる魔族相手にどこまで食い下がれるのか……人類の可能性を試しているのさ。もし、魔王様が本気を出してしまったらすぐに人類は滅亡してしまう。やがて魔族同士で醜い争いが始まってしまう……それは避けられない運命(ディスティニー)……だからこそ今、共通の目的を用意してこうして何年も魔族の頂点に君臨し続けている……ですよね?」


「フッ……我を買い被り過ぎだトリグル。そこまでは考えてはおらんよ……確かに人間にも骨がある奴はいる。だが、これ以上好きにはさせん。いずれ光の世界を根絶やしにし、我らが魔族の時代を取り戻す」


「すべては魔王様の意のままに」

 トリグルは頭を垂れる姿まで華麗に決めていた。

「グ……オオオ〜……」

 次に現れたのが最後の四天王、力自慢の巨人、グランツだった。

 グランツはパワーだけなら四天王で一番だった。

 それ故に頭は少々悪かったが。

「グランツも頼むよー。ボクたちの聖戦、鍵を握るのはキミのパワーだ」

「グオオオオ……」

 グランツは分かっているのか分かっていないのかよくわからない返事をした。

 四天王全員が集結し、魔王が玉座に立ち戻ったその時、


 なにやら魔王城全体が赤い光に包まれた。

「何事だ!」

「た、大変です魔王様!」

 勢いよく駆け込んできたのは低級悪魔(ガーゴイル)のルゴイだった。

「何事だ……」

「そっ、空から巨大な火の玉が……!」

「なんだって!」

 一同が窓を出て空を見てみると、山全体を覆い潰さんとするほどの火球が迫っていた。


「……………………な、なぁアレってこっちに飛んできてない?」

「そ、総員! 退避する準備を――」


 言い終わる前に全員、火球に押し潰されて城、いや山ごと消し飛んだ。


「のわああああああああああああ‼︎」


 かくして、魔王軍の野望と、光と闇の聖戦は潰えたのであった。

 

 

 ◇◇◇


「わーい、石きれいー!」

 ミユはコンテストの景品を嬉しそうに太陽にかざして見つめていた。

「よかったねミユ」

「うん!」


 魔力コンテストはぶっちぎりでミユの優勝だった。

 というか1位とそれ以外の差があり過ぎて正直もう誰がやっても同じようなものだった。

 ……たしかに私はミユのその化け物じみたステータスをこの目で見た。

 実際に味わった。

 が、魔法がまさかあんなにスゴいの出るなんて思わなかった。

 あれ下級魔法だったからあの程度で済んだものの、もしこれがうっかり上級なんて唱えていた日には…………


 想像しただけで天地崩壊(ラグナロク)だった。

 この子は自分のしたことをわかっているのだろうか。

 ……いや知る必要もないか。ミユはミユだ。

 幸せそうなミユの頭を撫で、手にした賞金300万ルキンで私たちは買い物に行くことにした。

 今日は景気付けにパーっと牛肉を買おう!


 お店で一度でいいからやってみたかった「こっちからこっちまで全部くだちぃ」っていうのを実践しようと思ったが、流石に持ちきれない上消費も馬鹿にならないため、高級肉のコーナーを買い占めるだけにとどめた。

 人間大金を手にすると金銭感覚が麻痺してしまっていけない。

 まぁ私の得たお金じゃなくてコレ、ミユの報酬なんだけど……

 ミユはまだ五歳だし、お金に執着するような歳じゃない。

 というわけでこのお金は一緒に料理してお腹を膨らせることに使おうと思う。

 それかミユの欲しいものを買ってあげよう。

 高級食材で一杯のカバンを抱え、ホクホク顔で家に帰った。

 まずは手を洗い、服を着替え、荷物を片付けて支度する。

 食材をすべてキッチンに置き、野菜から水洗いしていく。


 今回、なにやらミユはなにかをやりたげでうずうずしている様子だった。

「ミユちゃん、何かお手伝いしてくれるの?」

 もうそれは、思い切り地面に頭突きをしてるんじゃないかという勢いでミユは頭を縦に振って「うん!」と大きく返事をした。

 ミユは火を使ってみたいといわんばかりにコンロに立っていた。


 子供は危ないから火に近づけるのは怖かったが、多分今日のフレアを思い出しているのだろう。

 洗って切り終えた具材をフライパンに乗せて、火をつけようとした時。

「ミユちゃん、コンロはね危ないから火をつけるときは離れて……」


「ふれあ」


 ミユちゃんは覚えたての呪文、フレアを唱えた。

 ああそうか、魔法をためしてみたかったんだね。

 自ら進んでやってみて、いろんなことができるようになる様は本当に我が子の成長を見つめているようで、感慨深けだった。

 目にたまった液体を擦りながら私はあることを思い出した。



 ん?

 待てよ……それって例のあのメテオ状の……


「み、ミユちゃん、お家でフレアはまずいんじゃ」


 時すでに遅し。

 ミユちゃんのフレアはすでに発動を止めることができなくなっていた。


「あぎゃあああああああああ‼︎」


 こうして、手に入れた高級食材はコンロと共に焼け野原になった。

 ついでに料理と共に苦い味を噛み締めることになった。


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