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熟練アーチャー・ゲイルの独白 〜遭遇〜

 俺はゲイル。

 熟練冒険者だ。職業はアーチャー。

 スキル、百発百中レベル5によって、生まれてこの方獲物を取り外した事はない。

 その射撃の腕を買われ、様々なギルドからお声がかかる。


 だがどれも唆らない。


 剣と魔法を覚えたばかりのいかにも形から入ってみたした!みたいな初心者冒険者ギルド……

 そこそこ腕は立つが、仲間内なんて一切信頼しちゃいない、報酬だけをがめつく求め、取り分を惨めにも争うB級底辺ギルド……

 「自分こそは歴代勇者の末裔」とヌカす、実力がまるで伴ってないギルドマスター以外の全員が女で固められたコスプレギルド……


「燃えねぇ……」


 ノらねぇんだ。気分が。

 挙げていったらキリがねぇほどいる、この世の芥を詰め込めるだけ詰め込んでみたようなクソ・オブ・ザ・クソギルド……

 ぬるい馴れ合いか、個人個人は強いが中身が屑かの二極化するわな大抵は。


 だからこそ俺が砂漠の狩猟団を見つけられたことは本当に運が良かったと心底思う。

 砂漠の狩猟団はそれほどランクが高い訳じゃない。

 ある程度会話はするし、報酬も狩ったモンが総取りの制度。

 だが、一番の利点はお互い割り切っているところだろう。

 うざったらしい馴れ合いもないが、俺一人が強い!というような勘違いヤローもいない。

 サイッコーにクールでイカしたギルドだ。

 何より俺以外は皆素顔を晒さないのがたまらねぇ。

 なんかちょっと目を離したらリーダーと他のメンバーの区別がつかねぇってくらい、皆ボロボロの装束を纏って歩いてるもん。

 

 妙に着飾るギルドは多い。

 俺は目立ちたいわけではない。

 むしろ過剰な名声は仕事に差し支える可能性さえある。


 よく言うだろ? 出る杭は打たれる、って。

 

 その他うちのギルドは滅多なことで会合は開かない。

 一見すると冷たいと思うかもしれないがそんなことはない。

 なぜならその年に数回の会合では、実はメンバーの誕生日パーティーを催しているんだ。

 こないだは新入りのジョンが祝われていた。

 全員同じ装束で。

 あの不気味な蝋燭に囲まれて、リーダーのドスの効いた低い声で「ハッピーバースデー」を歌うサマは何度思い返してもどこかの危険思想宗教団体を思い出す。


 祝うじゃなくて呪うの間違いだろそれ。


 馴れ合いは嫌いだっていったが、程よい馴れ合いは別に嫌いじゃない。

 むしろ驚いたのが、その会合がケーキ用意してみんなで拍手した後、即蝋燭を消して、解散したことだ。

 いや、本当にただ誕生日を祝うためだけに開いたのかよ。

 しかも律儀に年齢に合わせた本数の蝋燭をケーキに刺していたし。

 シュールを通り越してクレイジー過ぎんだろ。イケてるわぁ。

 とまあ、そんな俺の楽しい楽しいリア充ギルド満喫ライフはここまでにしておくとして、本題に入ろう。


 なぜ、俺がここに居るのか。

 それは実力者として、ある人物に俺が招待されたからだ。

 ここというのはいつもの酒場、いつものギルドの集会所だ。

 あちらこちらには屈強な冒険者どもがごろごろいた。

 中には各地で名を轟かせるギルドマスター達もいた。


 おいおい。

 戦争でもおっ始めようってか?


 現地集合以外はなんの情報も聞かされていなかった俺なんかは、これから一体全体どんな事が起ころうかなんて知る由も、考えるアテもなかった。


「集まったようだな」


 声を上げて皆の中心に立っていたのは超一級ギルド、紅蓮の炎団の団長、グレン=スカーレットだ。

 真紅の衣装を見に纏い、胸ポケット周辺に付いた数々の勲章は酒場の鈍い光を浴びてなお、眩く輝いていた。

 実力者たちを集めたのはこのグレンのようだ。

「なんだよグレン。こんなにたくさん集めちゃってよぉ。同窓会か何かかい?」

 一番初めにグレンに声をかけたのは鋼鉄のマスク、怪力のファーナードだった。

 そのゴブリンだか、ギガンテスだがと見紛うほどの巨体にはこれまでの戦果を記録するかの如く、おびただしい傷が刻まれていた。

 こんなナリをして種族は人間だっていうんだから世界は広いもんだねぇ。


 元々強い魔物の討伐を生業としていたコイツだが、最近では優雅にも靴屋なんか始めちゃったらしい。

 その馬鹿力で作る靴は評判が良いらしい。どうにも天職ってあるんだな。


 今日もその輝かしく大きい、良質な皮で出来たお手製の靴を揺らしながらグレンに近寄っていった。

 歩くたびに酒場の床板がギシギシと軋む音がした。


「今回集まってもらったのは他でもない。異邦人の事だ」

「なにぃ⁉︎」

「ついに来たってか!」

 皆一同、盛り上がりを隠せなかった。


 異邦人、というのは普通に考えりゃ、まぁ字で書いた如く他所から来たモンだ。

 だがこの場合意味が少し違う。


 そう。実はこことは別にもう一つ世界があるらしく、そこからなんと人間のガキかなんかがやってくるというのだ。

 その異世界からやってきた者たちを称して皆、異邦人と呼ぶことにした。


 なんせそいつらはこの世界の事をまるで知らない。

 当然っちゃ当然だが。

 この前来たやつなんかは生意気顔で俺に「ケチャップって知ってるか?」と赤色の液体を自慢げに見せつけてきたな。

 ムカつくから文字通り鮮血で真っ赤にしてやったが。

 他にはなにやら数年前に死んだと思われていた姫様かなんかに生まれ変わった?らしい女が、悪の魔王と恋に落ちてどうにかなったらしいが。


 あいつらはこの世界の事は知らないが、奇妙な事は知ってるようで、俺の弓を見てもビビらなかったり、ドラゴンをまるで見たことでもあるかのように感動していたりと謎だ。


 だが、そのどれも取るに足らん屑ばかりだ。

 自分の知恵に溺れて、異邦人に知識をひけらかす男。

 こちらの世界の、特に雌を相手に催淫のスキルを乱用してハーレムを築き上げる男。

 鑑定のスキルを引っ提げて妙に知識垂れ流す自慢男。

 エルフに転生して好き勝手にやった挙句始末された男……

 だから今回もぶっちゃけ期待などしていなかった。


 この頃は異世界からの来訪者もめっきりと数を減らしていた。

 また毎回謎なのがどうやってこの世界にやってきているか、だ。

 その癖こちらからやつらの世界に行く事はできない。

 全くもってナンセンスな、燃えないハナシだこと。

 俺はとりあえずグレンの言葉を待った。


「毎度毎度の如くこちらの世界にやってきては、妙な態度と考え方でギルドを荒らしたり、うら若き町娘を暴行したりと異邦人の惨状は見るに耐えん! そこでだ! 我らが力を結集し、異邦人などという下らない者を根絶やしにしてやろうと思い、ここに結束を提案するに至ったのだ!」

 グレンは持ち前のカリスマで人衆に説き伏せた。

「なぜ、我々ばかりがいつも不幸な目に遭わされるのか、なぜ我々はそれを黙って受け入れなければならないのだ! なぜケチャップの味を知らぬことをそこまで卑下されねばならぬのか!」



 ……いやあんたもされたのかよそれ……


 ナンバーワンギルドマスターに妙な親近感を抱いていると、ようやくご演説が本格的なところに差し掛かってきた。

「立ち上がれ諸君! 我らの世界を守れるのは我らだけだ! これ以上連中の、好きにさせてはならない!」

 〈ウオオオオ‼︎〉


 ……という怒号が鳴り響き、会合はより一層のヒートアップを見せた。

 まーるでどっかの軍隊だなこりゃ。

 時代が違えばアンタは総統だったかもな。ヤバイ国の。

「……今回は皆にやる気を出してもらう為、ある事を私は提案したい」

「提案?」

「うむ。やはり我々は姿形やり方は違えど同じギルド。無報酬で動くほど安い存在ではない」

 グレンが指を鳴らすと、近くの男執事がなにやらケースのようなものを取り出した。

 中には金銀財宝、まだ見ぬ魔石(クリスタル)、札束などがぎっしりと詰め込まれていた。

 あまりの眩さに隣のグレンさえ霞んでしまうほどだ。

「一番最初に異邦人を狩った者に、この私がかき集めた宝と金一封を全て差し上げると誓おう!」


「ウオオオオオオ‼︎ マジかよ!」

「金一封だって?」

「気前が良過ぎやしないか! グレンの旦那ァ!」

 喜ぶ者、咽び泣く者、笑う者、疑う者、とにかく叫ぶ者。

 様々な者たちの様々な感想が、一つの大きな音の波動となって、辺りに鳴り響いた。

 これまでで一番の盛り上がりだ。

「さぁ皆の衆、競争といこうではないか。狩りの条件は実にシンプル。そのものの死体、首をここに持ってきてもらおう! 早い者勝ちだぞ!」


 一斉に皆、ドタドタと酒場から駆け出して行った。

 作戦を立てる者もいたが、その者たちに比べて圧倒的に早く狩ろうと外へ飛び出す者の方が多かった。


 確かに作戦を立てるのもアリだがこの場合、誰が一番早くその情報を掴んでくるかにもよる。

 今回の異邦人がどの程度強いのかもしらないが、もし五歳児の幼児程度だったならば大人一人いれば瞬殺できるだろう。


 いつもなら狩りをしたやつの横から奪って持っていくのが早いが、今回は見つけたもん勝ちになるだろう。

 まぁ俺は現地調査なんて面倒な事はしない。

 いつものように横槍入れてとっ捕まえてくるのが理想。

 場に残ったグレンに俺は挨拶した。


「すごいねぇ。ホントにそれ全部やっちゃっていいの? 異邦人ごときにちょっと損失がでかくない?」

 俺はいつものように軽口でグレンに話しかけた。

 グレンはそんな俺の態度にも、顔色ひとつ悪くせず笑顔で迎えてくれた。

「なぁに。ここらで少し皆にもサービスしてやらないとな。それにこれは魔宮(ダンジョン)で入手したほんの一部に過ぎない。質屋にバラまいてもいいくらいだ……が、それでは私一人が得をしてしまうだけでなにも面白くない」

 淡々と語るグレンの宝の一端と価値観にも俺は今さら驚きもしなかった。


 流石はナンバーワンを束ねる団長だけはあるわこりゃ。

「それに、異邦人ごときというが。もうここらでそれも潮時となるだろう」

「どういうこったいそいつは?」

「その者の首を、この街の中心に張り付けて、見せ物とするのだ」

 わーおっ。

 グレンは全く声音を変える事なく平淡と続けた。

「やってくる異邦人共はそれを見て恐怖し、二度とこの世界で好き放題やろうとは思わなくなるだろう。また、私も個人で異世界からの召喚魔法を禁止する運動に参加する。これ以上、異邦の者たちにこの世界を面白半分でかき乱されてはたまったものではないからな」

「なるほど、そりゃ名案だな」

「ゲイル。君も急がなくていいのかい? チャンスは皆平等にあるんだよ」

 俺は酒場から出ようと後ろを振り返った。

「俺には俺のやり方があるんでね。ま、なるようになるさ」

「なるほど。君らしい」

 グレンは最後の最後まで俺に対して紳士的に接していった。

「君の検討を祈っているよ!」



 俺はとりあえず外に出てみた。

 まずは情報収集だ。

 スキル、念話が役に立つ時だ。

 こいつはテレパシーみたいなもんで、遠く離れた相手に一方的に話しかけることも、同じスキルを持っている相手と対話することもできる。

 試しに俺は情報屋のラルトスに話しかけた。


『おいラルトス。聞こえてるか?』


『はいはい……聞こえてますよ。なんですかゲイルさんこんな時間に私に話しかけてくるなんて、もしかして私のことが好きなんですか?』


『けっ、気色悪い勘違いしてんじゃねぇよバカ。調べもんだ。異邦人のやつがこの世界にやってきたって情報(ハナシ)、もう入ってんだろ?』


『ええ……その者がどんな人物であるかも、大方流れています』


『ホントか⁈ じゃ、それ今すぐ教えてくれ! ……あぁ念のため盗聴妨害のスキルは付けててくれよ』


『じゃあ私と付き合ってください』


『ぶっとばされてーのか、ここから弓矢ぶん投げるぞ』


『冗談ですって……でもなんでまた皆さんその事を聞きたがるんですかねぇ』


『ん、どういうこった』


『いやぁね? つい先ほども数名の冒険者にその例の異邦人のハナシについて聞かれたところなんですよ』


『なんだと!』


 俺は走る足を止めて、進んでいく連中を見た。

 クソ……先手を打たれたか……

 ラルトスはこの街一番耳が早い情報屋だ。

 それ故に奴からの情報を欲しがる冒険者も多い。

 が、奴は簡単には姿を現さない。

 見つけられる者は少ない。

 情報屋を見つけようとそうこうしてるうちに、やっとの思いで掴んだ情報が古くなっていて、また探さないとならないという負の悪循環が生まれるのだ。

 何故か俺の念話だけには応答するから、他のやつに話すことなんてないとたかを括っていたが……


『勘違いしないでよね。私はゲイル一筋だからね』


『……おい気持ち悪ぃよ裏切り守銭奴野朗。ったく……出遅れたってことか』


『じゃあ、ゲイルさんのためにこの私が手に入れた、まだ誰にも教えていないとっておきの情報をお渡ししましょう』


『おう、早くしろよ』


『じゃ情報料、500万ルキン』


『その異邦人をひっとらえたら、宝払いしてやるよ! なんでもあのグレンさんの依頼じゃあ、そいつを真っ先に捕まえたやつに金一封だとさ!』


『……あぁ、だからあんなに皆さんお焦りになっていたのですね。納得』


『納得してもらったところで教えてもらおうか』


『はい。……そいつと最初に接触したのは月の眼クラスファーストファースト暗殺者(アサシン)、ラピ=クーカ』


『何⁉︎ そ、それじゃ獲物は⁉︎』


『ご安心を。まだ捕らえられておりません。なんでも彼は暗殺しそこなったとか……』


 馬鹿な。あり得ない。

 風の噂に聞く、大陸で最も優れたエリート中のエリートの暗殺者ばかりを集めたギルド、月の眼。

 興味ある事象以外はもぐりの俺でさえ知っている。

 そのトップクラスメンバーのラピ。

 奴についていうならとにかく奴の暗殺は人と一線を画していた。

 中でも奴の殺った最大級の事件と言えば難攻不落の大要塞監獄ラビリンスをオトしたっていう血の監獄島事件だろう。

 知らぬ者はいない。

 奴に目をつけられて日の光を拝んだものは誰一人いない。

 群れる事を嫌う、孤高の天才。

 死神と呼ばれるにもっとも相応しい暗殺者ラピ。


 そのやつがしくじるなんて……

 しかも異邦人相手に……?


 だが、これは逆に考えるとまたとない名声を上げるチャンスでもあった。

 つまりそんなやつがしくった獲物を俺がヒットしちまえば、得られた富と名声で一気に俺の地位が跳ね上がる。

 悪目立ちはしたくない、出る杭は打たれるが世の常だが、とてつもなく出た杭は誰も打つことができないのだ。

 グレンなんかが良い例だ。

 それくらいの位置に……この俺が今、差し迫っているのだ。

 何年ぶりかに燃えたぎる血液。

 じゅるりと舌舐めずりをして、俺は愛用の弓矢(モノ)に手を置く。

「燃えてきたじゃんよ……」



 ◇◇◇


「ここか。その奴が寝てる住居ってのは」

 俺はついに獲物の喉元付近までたどり着いた。

 あのクソことラルトスが言うには、何故かその異邦人はこのヨルダの街に住み着いており、平然と生活をしているとのこと。


 というか、目と鼻の先じゃねぇか。


 灯台下暗しとはよく言ったもので、いや木を隠すなら森の中とでもいうべきか幸いにも俺は一番近いはずのこれを見逃さずに済んだ。

 中々目撃情報が少なかったため、あいつも苦労したという。


 しかし、俺が信じられなかったのはそんな情報などではなく、そのターゲットがなんと五歳児の人間の女の子だということだ。


 つまりラピは五歳児のガキごときにしくじったということになる。

 なんだか嘘みたいなホントのハナシという本を書いて売ったら、いい小遣い稼ぎが出来そうな位出来過ぎたシナリオだが、俺は一縷の油断もなく、武器を構えた。

 奴が顔を出したその瞬間を、殺る。

 一切の躊躇も隙も与えない。

 おそらくラピの野朗はそのナリを見て油断しまくっていたのだ。

 第一号がいてくれて本当によかった。

 そこも含めて俺はいま最高にツイてる。

 手にした弓矢は一発で最高八発は広がるほどの、ちょっと珍しいカリュードの民が作った弓矢だった。

 仕上がりはこれ以上ないほどバッチリで、外さなければ確実に相手を倒すことのできる弓矢だ。

 ところが俺に外すの2文字はない。

 俺のスキル百発百中は文字通りの百発百中。

 一度捕らえた獲物を、決して逃さない。

 

 やがてその例の異邦人の幼女が窓から顔を出した。

 瞬間、俺は弓矢を放った。

 恨むならこんな時期にやってきた自分の行いと、俺という天才に目をつけられた不運を恨むんだな。

 勝利を確信したその一寸先、俺の目を疑う光景が広がっていた。


「な……矢が刺さったのに……き、効いてない……?」


 いや、厳密には刺さってすらいない。

 当たりはしたが、その一本足りとも幼女に刺さっていない。

 幼女はとんできた矢に別段驚きもせず、歯磨きをしていた。

 寝ぼけた表情で太陽の方を見つめている。

 矢はやがて全て地面に落ちた。

 

 落ちた矢を拾って俺は愕然とした。


 す、……全て叩き割れてる……!

 そんな馬鹿な!

 俺は間違いなく奴の脳天をかち割った!

 今までだってこいつで切り裂けないものはなかった。

 少なくとも竜の鱗くらいまでは貫いていた。

 ということは今のやつの耐久性は竜の鱗以上となる。

 そんなことあり得るわけない。

「クソ……にわかには信じがたいが、どうも距離を離しすぎたらしい……もう少し近づいてみるか」

 少しづつ幼女の窓に近づいていくと、再び矢を向けた。

 例にもよって例の如く幼女は顔を出した。

 フッ、なんという危機感のなさだ。

 やはり異邦人はおつむの出来がよろしくない下等生物だ。

 俺は再び矢を構え、今度は全身の力を込めて放った。


 このまま進むと失明かな……?

 今度は当たっただけでどうなるかな……!


「ふわぁあ……」

 幼女は欠伸をした。それは良い。

 だが、その際に手を口元に当て、矢はその手に当たった。

 が、直後矢は木っ端微塵に砕け散った。

「そんな馬鹿な‼︎」

 俺は確かに近づいた!

 そして全力を込めて打った!


 だが、近づいたせいでより現実をしっかりと直視する結果となった。

 奴には一切の攻撃が、まるで蚊に刺されたかのごとく、否。

 それ以下のダメージにすらなっていなかった。


 すかさず鑑定のスキルで奴を直視する。

 ステータス画面が少々ノイズが混じって、はっきりと見ることができなかったが、レベルの方はなんと1の文字を浮かべていた。


「1⁉︎ いや1って何よ1って!」

 驚きのあまり思わず声が裏返った。

 どう考えてもレベル1の耐久度じゃない。

 ということはさっきからロクに見えないこのステータスはとんでもなく高すぎてバグっているというのか……?

「い、いやそんなこと……そうだスキルを……」


 しかしスキル欄はまるで空白で、どうもなんのスキルも所持していないようだった。


 開いた口がさっきから塞がらない助けて。

 さっきから通行人が俺を「やだなにあの不審者」と言わんばかりに見つめてきているが、そんなこと知ったことではない。

 こちらはそんなこと問題にならないくらいの出来事に直面してんだ。


 クソ……なんなんだこれは、悪い夢でも見てるのか。

 しばらく経つと幼女は窓から出てこなくなり、おかしいと思い様子を見ていると、建物のドアが威勢よく開いた。


 すかさず隠密で隠れる。


 おそるおそる見てみると、先程の幼女と一緒になんとあのラピが共に手を繋いで歩いていた。


 ば、馬鹿な……!

 一体どういうことだ。何故あいつがそこにいる!

 しかも何やら親しげな様子……

 ありえない。あいつが子供に対してあんな笑顔を浮かべることもだが、なによりあいつは孤高の天才。

 殺り損ねた相手と一緒にいるなど奴の気高いプライドが許さないだろう。

 恐らくは「自分を殺してくれ」と懇願したはずだ。

 このまま生き恥を晒すくらいなら――。


「ねーねーおじさん。今日はどこで遊ぶ?」

「あっはっは。おじさんじゃないよミユちゃん。ラピたんだよー」


「ラ、ラピたんだと⁉︎」

 本日二度目の声変わりが出た。

 隠密が無けりゃ一発でアウトであったであろう程の奇声を発してしまった。

 さっきからなんなんだ今日は!

 あの冷徹なラピが⁉︎

 あの人一倍孤高で群れる事を嫌う殺しの天才が⁉︎

 幼女と手を繋いであやしながら歩いているだと?

 幼児言葉に合わせて会話しながら?

 ふざけんな!


 隠密でバレないことをいいことに俺は地面をひたすら蹴った。

 そうでもしなきゃ目の前の現実に理解が追いつかず頭がどうにかしてしまいそうだった。

 し、信じられない。

 俺は思考停止寸前の脳をなんとか使って考えた。



 ……まさかこれも作戦だというのか?


 やられたフリをして、付き従うことで恥も外聞も一切をかき捨て、それまでの自分を全て投げ打ってでも、対象を暗殺することに掛けているのか?

 だとしたらとてつもないプロ意識だ。

 思わず俺は涙が出てきた。

 あいつは本物だ。勝てる気がしない。

 洗脳系の類で操られている線も考えたが、先程の鑑定でスキルは一切持っていないことがわかったのでそれはない、と言い聞かせるしかなかった。


 そもそもなんでステータスバグってんの?

 なんか、ゼロがいっぱい横になって現れるし……

 試しに隣のラピを鑑定してみた。

 正常にステータスが表示された。

 どうやら俺の異常ではないらしい。


 ……じゃ、なにか。

 まさかこのゼロ全部があの子供のステータスだとでもいうのか?

 もっとありえない。数えたら1京とかあったぞ。

 桁数え間違えてなきゃ。

 しかし、信じたくない結論であっても、先ほどからの攻撃無効がそれを嫌が応にも答えとして認識させようとしている。


 兎にも角にも今のままではラピに勘付かれてしまう。

 なんとか奴とラピが離れる瞬間を狙って、真っ先に俺が生首を届けなくては。

 このまま奴の手柄にしたくはない。

 俺は尾行を続けた。

 その日、ラピと幼女は共にショッピングをして楽しんだり、食材を総菜屋で購入したり、ちょっと硬めのフライパンを購入して家に帰り、二人で楽しく料理と洒落込んでいた。

 出来上がった卵焼きや美味しそうな料理に舌鼓を打ち、仲良く談笑し合っていた。


 うん、普通じゃん!


 なんだなんだこのザ・日常ってやつは……

 ここだけ別作品になってるんじゃないか……?

 そこにはもう俺も誰も知らないラピの姿があった。

 演技だと考えるにはいささか冗長過ぎる。

 なぜなら殺れるチャンスは何度でもあったからだ。

 そもそもあいつから殺意を感じない。

 いやアサシンだから当たり前っちゃそうなのだが、その眼にしてもそれは獲物を狙う強かな眼ではない。

 それは日曜日に父親が娘と戯れる時の穏やかな眼だ。

 クソ……一体いつになったら奴は一人になる……


 と、そう思っているとこれまた都合よく幼女が一人で出てきた。

 手には成人男性の頭ほどある大きな球体を抱えていた。

 一体何を始めようというのか、俺は幼女の動向を探った。


 近くの空き地にはだだっ広い空間が広がっており、子供たちの遊び場となっていた。

 地面に文字を書いて遊んでいたり、木をくり抜いて秘密基地にして遊んでいたりと、見ているこっちが童心に帰りたくなってしまうように風景だった。

 幼女は止まっていた。

 まさか勘付かれたか。

 そう思い再び距離を取ったがそれは違っていた。

 なにやらボールを投げ合っている子供達を、じっと物言わず見つめていた。

 ……なんだ、ボール投げ合いをしたいだけか。

 異邦人とて子供。

 俺たちの世界の子供と考えることもそう大差はないのかもしれない。


 だが、俺は狩る。

 悪いが俺も異邦人はこれ以上いらない。

 これはまさに千載一遇のチャンス。


 ここを逃すようではもう二度はやってこないだろう。

 隠密を解き、俺は幼女に近寄った。

「あっ、おじちゃんだぁれ?」

「俺か? 俺はゲイル……一緒に玉遊びしないか?」


 俺が威圧を込めてそういうと幼女は微塵も動じることなく「うん!」と答えた。


 …………まぁそりゃそうか。

 ラピに殺されかけて生きてんだしな。


 俺たちは空き地の使われていないスペースへ行った。

 背後からなら……!

 と思い、至近距離で矢を放ってみた。

 カーンとまるで鉄か何かを打ったような甲高い音が響いて、矢は砕けた。

 全く打たれた部分を抑える気も、気にする素振りも見せないところをみると、もはやこの距離からでも俺の一撃は攻撃にさえなっていないらしい。

 振り替えられたのでサッと矢をしまい、幼女とボール遊びをすることにした。

「いくよー」


 俺はまともにボール遊びに付き合う気など毛頭なかった。

 取ったフリをして、どこか遠くへ玉を持っていき、追ってきたところを狙って気絶させる。

 それから連れ帰り、色々なアイテムを試してみよう。

 さすがに刃物では傷一つつけられないだろうが……

 毒ならば多少なりに効果はあるだろう。

 幸いこの付近には俺が寝床にしていた隠れ家もある。

 そこでじっくりと、たっぷりと料理してやる。


 幼女が第一球を投げてきた。

 直後、凄まじい轟音と共に玉がまるで弾丸のように飛んできて、俺の頬をかすめた。

 後ろにあった壁は玉の衝撃でバラバラになってしまった。

 その余りの出来事に、理解がまるで追いつかなくなっていた。



 え?

 なんか今すごい爆風起きなかった?


 幼女はというとボール取って〜と抜かしていた。

 振り返って破片になってしまった壁のそばにあったボールを拾った。

 いやまだ使えんのかよこのボール。

 俺はとりあえずそれを幼女に投げ返した。

 無事に拾ったので、幼女は再び投げた。

 玉は今度はこちらに、一直線でまっすぐ向かってきた。


 相変わらず凄まじい轟音と共にボールは竜巻さえ、起こしていた。



 ん?

 これ当たったら死ぬよね?


「うわあああああああああああ‼︎」

 俺はわきめもふらず全力で疾走した。

 とにかく逃げた!

 走って走って走りまくった。

 だが玉は無情にも軌道一つ変えずにこちらに襲いかかってきた。

 こわい!

 俺の百発百中に近いものがあった。

 嗚呼、狙われる者ってこんなに怖い思いをしていたんだな……

 正直すまんかった。


 って、そんな生易しいレベルじゃないからこれ!

 どう考えても死にます!

 直撃したら死にますってこれ!

 まずいですよ!

 逃げることにも疲れてきて、とうとう俺は幼女の魔球をその身に浴びた。

 背中の骨はちょっと人間が曲がっていい方角じゃない方へグキリと勢いよく曲がっていった。

 そして俺の身体は宙に舞っていた。


 人間って羽根がなくても飛べるんだ。


 そんな下らない事を考えながら、脳内では既に走馬灯に近いような映像が流れ始めていた。


 いやいや! まだ死ねないから!

 その硬い意志とは反して、俺の身体は地面に叩きつけられた。





 ……目が覚めたら病院にいました。

 これが俺こと天才アーチャーゲイルの、化け物異邦人、ミユ=ワタナベとの対戦結果だった。

 惨敗を胸に俺は絶対安静のまま、見舞いに来たラルトスに蜜柑を口に放り込まれていた。

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