幼女の学院生活 其の弐 〜最底辺と最高位〜
私立ウィザードリア魔法学院。
総生徒数約300人。教員数30名。
世界中から集められた、えりすぐりの天才児たち。
その中でも多額の資金と、他を圧倒する才覚をもつものだけが、この学院の敷地に踏み入ることが許される。
世界三指に入る一流魔法学校、その頂点に君臨する学校。
この学校を入学することも、卒業することも自身の経歴を煌めかせ潤わせる。
優秀な魔法使いを輩出するのが、この学院の卒業目標なのだが、この学院を出た学徒たちは、その才能や見聞をひとつの職にとどまらせることなく、あちこちで活躍する。
賢者に大神官。魔法剣士や魔道調理師なんてものもあり、様々だ。
いかに優れた教育が行われているのか、このウィザードリアが世界一と呼ばれる所以でもあった。
その素晴らしき学び舎に今日、1人の幼き娘が学びの門を叩いた……。
「はいはい皆静かにー」
学院の中で一際目立つ巨大な建物。
校舎と体育館、果てはカフェテリアまで融合したひとつの建物は、さながらどこかの宮殿を思わせる果てしない広さだった。
その一角に、生徒の集まる部屋、教室があった。
一部屋ざっと20人ほどの生徒が入る教室。
教室ごとに組分けがなされており、そのうちの1組と呼ばれる教室で、担任のラズリという女教師が教壇に立っていた。
生まれながらの純粋な金色の美しい髪を揺らし、その碧鉱石を彷彿とさせるような瞳で、生徒たちを見ていた。
「今日はみんなの仲間になる新しい編入生を紹介するわ」
「編入生?」
真っ先に声を出して反応したのは、左端の窓際に座席を構える、蒼色の髪が目を引く男子だった。
「どんな子かしらね」
その側にいたのはオレンジでくるくるのカールヘアがよく似合う少女だった。
「面白ぇな……」
腕と鼻を鳴らしたのは、その年の子供にしては体格の大きさが目立つ、栄養を過剰摂取気味な丸っこい男の子だった。
血のようにドス黒く輝く真っ赤な瞳は、意地悪そうに微笑む彼の顔に合わせるように歪ませた。
静かになったクラスがややざわつく。
しかし、教室に入ろうとせん子供の入り口の扉を動かす音が聞こえると、皆その一点を食い入る見つめ、静まり返った。
やがて沈黙が破られるようにドアが開いた。
たっていたのはこの世界とは異なる世界よりやってきた、人間の5歳児。
ご存知ミユ=ワタナベだった。
「おっす」
ミユはいつも他の人にするように、手をあげて気さくに挨拶した。
その様子に、生徒たちは呆気に取られていた。
まずどこからどう見ても、普通の子供といった姿。
とても金持ちには見えない服装。どころか、魔法使いにさえ見えない。
これでもミユの普段着よりは幾分かましなのだが、それでもこの教室、いや学院内ではかなり浮いた姿だった。
その雰囲気も、厳しい試練を乗り越えた苦学生にも見えず、強者が見せる威圧感のようなものもない。
ただただ本当に、そこらへんの普遍的な家庭で育った子供を連れてきたような感じだった。
生徒たちが言葉を見失っているのに構わず、ラズリ先生が再び話し出した。
「紹介します。今期からウィザードリア魔法学院入学の、私たちの1組の仲間になるミユ=ワタナベちゃんよ」
「みゆです。よろしく」
ミユはわざとなんじゃないかというくらい、勢いよく頭を下げて自己紹介した。
その名前にも、生徒たちには奇妙な印象を与えた。
無理もない。本来この世界には存在し得ない名前なのだから。
とにかくミユの、その存在全てが生徒にとっては異質そのものだった。
編入生という肩書きもあり、誰もがミユから目を離せなかった。
「わからないことも沢山あるだろうけど、わからないことは先生や皆に聞いていって、皆と仲良くしていってね」
「うん」
「先生。その子の席が空いてないですけどー」
ミユと先生の会話の終わり際に割り込んできたのは、緑色の髪をした、垂れ目の男子だった。
教室中を見るに、たしかにどの席にも生徒が座っており、ミユの場所がどこにもないように見えた。
…………ただ、一点を除いては。
「あらホルス。あるじゃない。そこに、万年劣等落第生の大きい大きい〝お兄さん〟の隣にひとつだけ席が」
にやにやと薄笑いを浮かべながら、空席を指差していたのは、茶髪の長い髪をした女の子だった。
「そっかそっか。ごめんトワーズ。いっつも存在感なく座ってたからわかんなかったや」
クラス中でどっと笑いが起こった。
その、真ん中に座る二十歳を越えたような男性は、存在感がないどころか、むしろこの上ない違和感として異質な存在感を放っていた。
男性は顔も声も上げることなく、物悲しい雰囲気を漂わせ、唇を噛み締めていた。
先生はため息をついてミユに案内した。
「じゃあ、あそこ……真ん中のメーダオ君の隣に空いてる席に座ってね。これからはそこが貴女の席だから、間違えないようにね」
「うん!」
そんなクラスの雰囲気にも、物悲しい男にも一切気にすることなく、ミユは元気そうに席に向かって小走りしていった。
ミユの隣の男は、およそ子供用であろう席や机が、見ていてやたら狭苦しく感じるほど大きく、姿はどう見ても成人のそれであった。
「よろしくね……」
やや机からはみ出した手を伸ばして、ミユに握手を求めた。
「よろしく!」
ミユは自身の何倍もある大きな大きなメーダオの手を握り返した。
「よかったな、おじさん! また新人係になれたみたいで!」
「今度は変なもの同士気が合うんじゃない?」
ゲラゲラと小馬鹿にしたような笑いが後ろから前から、メーダオに向かって突き刺さっていた。
「はい静かに。じゃあ紹介も終わったし、このあと休憩挟んだらちょっと測定の時間に入るわよ。時間に遅れないようにね」
その様子にも、教師は止める様子も咎める様子もなく、機械的にスケジュールの確認を取ると、教室を去った。
そこからが、彼らにとっての無法時間の始まりであった。
「よぉ編入生」
ミユに絡みにきたのはクラスの中でも指折りの巨漢、ドミトリーだった。
先ほどからミユを真っ赤な目で睨みつけていた。
「おっす」
ドミトリーの殺意にも動じることなく、ミユは友好の握手を求めた。
無論ドミトリーはそれを弾いた。
「おめぇみたいな弱そうなやつが、よくもまぁウィザードリアに編入できたもんだなぁ」
ドミトリーに呼応するように、ミユの周りにはその取り巻きと思わしき生徒たちが集まってきた。
「へっへっへ……おいお前……間違ってもドミトリーさんに逆らおうなんて考えるんじゃねぇぞ……まぁ、考えても無理だろうけどな!」
「やっ、やめないか君たち! 寄ってたかって!」
ミユの隣で声を上げたのはメーダオだった。
その声は震えながらも、必死に悪党に立ち向かおうとせん者のようだった。
ドミトリーの目が光る。
「うるせぇよアウターさんよ。まさか忘れたわけじゃねぇよな? この学院ではカーストランクが全てだって事……。俺様は15位。おめぇはランクインすらされていない落第生……例え成人してるとしても、ここじゃ関係ねぇんだよ」
「そうそう。屑に発言権はないっス」
陰惨とした笑いが、悪意のある空間に包まれていった。
メーダオは何も言えなかった。ドミトリーのいうことは全て事実だった。
しばらく絡まれそうになったところに、助け舟が舞い込んだ。
「もうすぐ次の時間が始まるわよ。無駄口叩いてないで、早くしたらどうなの?」
「な、なんだとライムス……!」
ドミトリーにライムスと呼ばれた少女は、ミユよりやや年上の女の子だった。
文字通りのライムブルーのポニーテールをたなびかせて、自身より大きく力強そうなドミトリーにも、物怖じせずその細い体で割り込んでいた。
「あら? アンタのハナシじゃカーストが絶対なんでしょ? じゃ15位のアンタは13位のあたしに歯向かうことって許されないんじゃ?」
「ぐっ……!」
ライムスの登場に、ドミトリーたちは仕方なくといった様子でその場を去った。
「あっ、ありがとう……た、助かったよ……」
「別に」
ライムスはドミトリーほどではないが、メーダオにもそれほど優しくなかった。
彼女は安寧を望むだけだった。
やがてミユも、メーダオに連れられるようにして、教室を抜けた。
測定の時間では、生徒たちが集まり身長や体重、そして魔力総量などを専門の器具で検査する。
だいたい月に一度のこの時間の役割は、それぞれが一ヶ月前に比べて、どれだけ成長しているのか、生徒と教員が測ることだ。
その結果に応じて、教育者たちはカリキュラムの改革を検討したり、足りないものを取り入れようと、提供する食事も改善するなど、さまざまな事が生徒には秘密裏で行われる。
また、生徒たちにとっても、現在の自分の能力がどこまでのものなのか、正確に測ることのできるとても良い機会だった。
なにせ超一流の学院で行う測定なのだ。
そんじょそこらの測定器具とはわけがちがう。つまり、より正確に、公平かつ厳密なジャッジが下されるのだ。
そのありのままの現実は、生徒たちを一喜一憂させる。
ミユは今回から測定が始まるので、いわばこれが一番最初の記録となるのだ。
ある程度異世界にも順応してきた頃合いであり、ミユにとってはちょうどいい時期でもあった。
「はいじゃあ身長体重ねー」
どこに並ぶのかわからないミユに「こっちだよ」とメーダオが随時案内した。
順番は自由のようだが、女子は女子、男子は男子と分かれているようだった。
メーダオが男子の列に戻り、ミユは先ほどのライムブルーの目立つライムスの後ろに並んだ。
するとライムスが振り返る。
「ハァイ。あたしはライムス。ミユちゃん……で、いいわよね?」
「うん。みゆだよ」
「よろしくね。……それにしても貴女なにもの? 一体何歳なわけ? どうしてこんな時期に編入なんてできたの?」
ライムスが興味津々だといわんばかりに、矢継ぎ早の質問をミユに浴びせかけた。
ミユはちょっとずつではあるが、なんとか答えていた。
「みゆはねーごさいだよ」
「ふーん5歳ねー。その若さで良く…………って5歳ィ⁉︎」
普段のクールそうな態度が崩れるほどの、コミカルな驚き仕草をライムスは見せた。
「うん」
この学院の最年少記録が当時8歳であったライムスにとっては、衝撃の事実だった。
一体全体どんな手段を使ったのか、知りたくとも、ライムスにはわかるはずもなく、教えたくともミユがそれを説明することもできなかった。
「じゃあ超一流貴族の出か……はたまたとんでもない大天才? いやいやその両方とも当てはまりそうにないし……うーん……」
あれこれ頭を悩ませていたが、結局ライムスはわからなかった。
やがてミユの順番がやってきた。
「身長おっけー。はい次体重と色々測るねー」
数多くの生徒のデータを測っているのは、観測者・ウォッチマンだった。
彼の目は鑑定レベルXなど比ではないほどの、卓越した正確さと綿密さを誇っていた。
それは彼専用のスキル、「神眼」によるものだった。
頭には専用の魔道具を装着しており、スキルによる消費魔力を大幅に抑えていた。
「えーと……身長が105.25センチメートル……体重が16.42キロ……」
カチカチとペンを鳴らして、桃色の紙にデータを記入する。
「じゃあ後は魔力検査ね。入学の時まぁやってるとは思うけど、皆やってるしもう一回やっとこうか。僕の後ろにあるあの扉の先でやってるから」
「うん」
ライムスがミユの身体測定結果を興味津々に見つめる。
「ほんとにふっつーの5歳児って感じね……」
「ライムスちゃんはー?」
「え? あたしの? ……まぁ別にいいけど。はい」
渡された紙を、わかっているのかわかっていないのかわからないような表情で、ミユは見ていた。
「おおー」
「…………そんなに面白いものでもないでしょ」
照れ臭くなったのか、ライムスは早めに用紙を返してもらった。
ライムスの前の人が魔力検査を終えて出てきた後、ライムスもミユも部屋に向かった。
その部屋にもなんと先ほどと似たような姿をしたウォッチマンがいた。
「おじさん、走ってきたの?」
「……ウォッチメン先生も一応先生よミユちゃん……」
ライムスが申し訳程度に付け加えた。
「はっはっは。姿は似てるけど彼とはまた違うんだ。ボクの役目はきみたちの魔力を測ること。さっ、ライムス君。前に」
ライムスが所定の位置と思わしき場所に立つ。
その前に置かれた黒板には、うっすらと白い数字が記されていた。
ウォッチマンがライムスの手を掴み、凝視すると、黒板の数字が更新された。
「36……うん。去年より大分伸びたんじゃないかな」
「……まぁ、こんなもんかしらね。あんまり頑張ってなかったし」
特に結果に対してどうこういうこともなく、ライムスは用紙を受け取って戻っていった。
だが、部屋からは出なかった。ミユの結果を見たがったのだ。
「さぁ、えっと今期から入ってきたミユ君……だよね?」
「うんおじ……せんせぇ」
まだ慣れない先生呼びに戸惑っているミユを、微笑ましくて仕方ないという様子でウォッチマン先生は見ていた。
ミユを所定の位置につかせて、ライムスの時のように腕を握る。
「さぁ……どんな結果がでるのかしら……」
「うーん……これは……ぬっ? ぬわぁあぁ!」
突如、黒板に表示される数字が狂ったようにバラバラになる。
その異質さにライムスは目が離せなかった。
やがて正確な数字が表示される。
「んーと……14万⁉︎ うそでしょ?」
いえ、本当です。と黒板から聞こえてきそうなほど、数字はその文字通り桁違いの数字で固まっていた。
測っているウォッチマン自身、泡を吹いていた。
ミユは黒板の数字がなんなのか、よくわかっていなかった。
しかし、止まっていたと思われていた数字が再び動き出し、その数がどんどん大きくなっていった。
「15万……15万5000……16万……17万……う、うそでしょまだ上がるっていうの?」
やがてその巨大な数字が50万のところで完全に停止した。
「まっ、魔力50万ですって……? こんなの何かの間違いだわ……」
「もうおわり?」
「あっ、はい……あ、これ紙ね」
測定が終了すると、ミユは特に気にせず元気よく走っていった。
取り残されたライムスは呆然と立ち尽くし、後から入ってきた生徒はその数値の大きさに驚いて腰を抜かしていた。
通例魔力の平均値が50で、卒業生やランク1位の生徒がようやく100を越えるかというところで、この値である。
信じられなくなるのも無理はなかった。
測定の時間が終わり、休み時間になるとメーダオがミユの元にやってきた。
「あっ、メーダオだ」
「やぁミユちゃん。魔力測定のこときいたよ。すごいねぇ。本当に50万も出しちゃったの?」
気になってメーダオがミユの結果を見ると、その凄まじい数値にたいそう驚いていた。
「ひゃぁーすごいんだねぇ……道理でこんななんでもない時に編入できるわけだよ」
「メーダオのは?」
「……い、いやぁ。僕の結果なんて本当……ミユちゃんどころか、他の誰と比べても大したことないよ……」
メーダオの結果には、魔力検査のところに1とはっきりと書いてあった。
「いち!」
一桁の数字までならミユにも読めてなんとなく意味がわかった。
特にメーダオを気にしてないといったミユの大きな声に、メーダオは落ち込んでいた。
「はあぁ……そうなんだよ。毎年毎年やってるんだけどね……僕だけ一向に伸びないんだよ……試験も何回も落ちてるし……このままだと卒業どころか、在学さえ不可能になるかも……」
「しけん?」
「そうだよ。この学校には各学期にそれぞれ大きな試験があってね。その試験に合格できないと、もう一年同じことを学び直さないといけないんだ……幸い筆記試験はなんとか合格したんだけど、肝心の実技試験がまるでダメでね……あと四回……いや、下手したら二回落ちちゃったら今度こそ退学させられちゃうかも……」
メーダオの悲哀に満ちた表情とその重々しい吐息には、彼の数年に渡る苦労が込められているようだった。
「そのしけんっていうやつは、ミユもうけるの?」
「そうだよ。みんなが受けなくちゃいけないんだ。だから試験前になると、みんなピリピリしだすんだ。良い結果を残したいって人もいれば、僕みたいにどうにか合格したい! って人もいるからね…………それに」
「それに?」
握り締めた拳を、メーダオはもう一度握り締めた。
「カーストランクにも大きく関わってくるし……」
「かぁすと?」
ウィザードリア魔法学院には、生徒の成績に応じた順位のランク付けが行われていた。
はっきりと生徒同士が目につく形で開示するので、誰がどのようなランクなのか、はっきりとわかるようになっていた。
「僕みたいな試験を何度も不合格になるダメな生徒はアウターって呼ばれているんだ。……さっきの大きな子、ドミトリーって子は試験も高成績を残してるし、カーストの中でも上位のグループなんだ。だからいつも僕を下に見てるんだよ」
「じゃあ、ライムスは?」
「あの子はもっと上なんだ。順位の上じゃ13と15なんて大差ないように見えるかもしれないけど、ドミトリー君がいったようにこの学校ではその順位が絶対的な力を持っているんだ。上の人間が下の人間を使うのは当然。下の人間は間違っても逆らうことは許されないんだ。……でもずっとそうってわけじゃない。だからみんな頑張って試験を受けるんだ。……本当、この制度を作った人はとても賢いと思うよ」
「じゃあ、ミユは?」
わくわくと期待の込み入った眼差しでミユは、メーダオを見つめる。
「い、いやミユちゃんはまだ試験を受けてないから、評価未確定ってところかな……」
「がーん」
「でっ、でももうすぐ二学期の試験があるし、ミユちゃんほどの魔力があれば、実技試験なんて楽勝さ」
「ふーん」
この学院は文武両道を謳ってはいるが、比重としては筆記より実技。
ペンより剣、論より証拠といったところだ。
6:4の割合で実技の点数が大きく評価に影響する。
これは非常に難しい塩梅なのだが、だいたいこの方式で生徒の質が安定することが長年の教育からわかったので、以降この方針でやっている。
「まぁ知識っていうのはテストの暗記じゃ測れないしね……むしろ、そういうものって、テストに関係なく身についていないと、本当の意味で知識とは呼べないし……」
メーダオはずっとこの実技に悩まされてきた。
後から入ってきたものが、次々と自分にとって大きな壁を、あっさりと越えていく。
どんどん追い抜かされ、ついたあだ名が万年落第生。
落ちこぼれのメーダオ。
それでも諦めることが出来ず、ずっとすがりついている。
限界だとは常日頃からメーダオにもわかっていた。
しかし、本当に退学になるまで続けてみないとわからない。
いつかはこの数値も大きくなって、努力が報われる日が来るかもしれない。
ミユはそんなメーダオの闇も、幼いながらメーダオの言葉の節々から、ぼんやりとだが感じ取っていた。
しばらくしてミユはメーダオに色々案内してもらい、授業の度どこにいくのか教えてもらった。
というのも、メーダオも初級教育を受け直さねばならないため、ミユと同じ授業を受ける機会も必然的に多くなるのだ。
さてさて、ミユはといえばこれから益々大変になってくるのだ。
まずミユには今まで他の生徒が受けていた初級の基礎教育の全てを……今から受け直すのは時間的に難しいため、数回の授業によるまとめと、試験でその知識を学び直さないとならない。
それでも他の学生とは、大幅に遅れているため、毎日授業がぎっちりと隙間なく詰め込まれているのだ。
どれくらいかというと、朝から晩までそれこそ学校に入り浸っていなければならないほど。
その大変さをみかねて、メーダオはよくミユをサポートした。
自分が作った試験対策のノートを、ミユはよく見せてもらった。
メーダオのノートはわかりやすく作られており、覚えることに少々難があるミユにも、なんとなくわかるようになっていた。
学校内ではすっかりメーダオとミユは良い友達となっていた。
……とてつもない歳の差はあれど。
夕方になり、授業も終えてすっかり眠くなっているミユを、メーダオは寮まで案内していた。
その時だった。
「へっへっへ……よぉ待ちくたびれたぜ新入生……」
「おっ、お前たちは……ドミトリーとその仲間……!」
「落ちこぼれも一緒っすか」
帰り際に外で待ち構えていたのはドミトリーと取り巻き2名だった。
無視して歩こうとするメーダオの前に、ドミトリーが現れた。
「おいおいどこに行こうってんだぁ?」
「おっ、お前たちこそなんなんだ……! みっ、ミユちゃんは沢山勉強して疲れてるんだ……よ、用がないならさっさとそこをどいてくれ!」
「うぜぇんだよ!」
ドミトリーは腕に魔力を込めて、メーダオの腹を殴りつけた。
「ごぅ……」
「メーダオ」
ミユが殴り飛ばされたメーダオのもとへ行った。
殴られた箇所を痛そうに押さえて、メーダオは横たわっていた。
「こちとら良い結果でなくてむしゃくしゃしてんだよ……用ならあるぜ? サンドバッグって用がよ!」
「へへへ。おいおい見てみろよこいつの結果。魔力たったの1だぜ?」
「ふん。万年落ちこぼれに相応しいデキじゃねぇか。そんなんでよく生きてるな」
苦しみながらもメーダオはミユに「逃げて……」と微かにつぶやいた。
ミユにはそれがどういうことなのか、わかっていた。
「あん? なんだよ新入生」
「やめて」
それは、ミユがはっきりと口にした、拒否の言葉だった。
「メーダオにひどいことしないで!」
ミユは今、自分以外の誰かを思い、立ち上がったのだ。
それは今日一日で築かれた人間関係があったからではない。
人間として、ミユが成長しているという証だった。
「ミユちゃん……」
殴られそうなメーダオの前に、ミユは立っていた。
「そいつを庇おうってか」
「面白ぇ……俺はよ、自分より年下のガキだからって容赦はしねぇ。……つーかてめぇにもキレてたんだよ! オレより年下の分際で舐めた態度ばっかとりやがって!」
ドミトリーは呪文を軽く唱えると、その大きな右手に竜巻のような渦が纏われた。
「まっ、魔法武装だって……? ま、まだそんなこと習っていないはずなのに……」
「へっ、落ちこぼれでもこのオレの素晴らしい魔法を知ってたか。だがよてめぇの遅れた知識で人を量るんじゃねぇよ。才能のあるやつってのはな、常に先をいくんだよ!」
その荒れ狂う竜巻は、まるでドミトリーの怒りを表しているようだった。
ドミトリーは勢いよく、躊躇なくミユの顔面に殴りかかった。
「ミユちゃん!」
だが、殴られたミユに怪我ひとつなく、代わりに殴ったはずのドミトリーの魔法武装が解けた。
「いっ、てぇええええええ!」
「ば、ばかな。ドミトリーさんの魔法が……!」
ミユはその場で、ミユなりに強そう(?)だと思う仁王立ちをしていた。
「ヤロォ……喰らえ中級火炎魔法、フレイア!」
「大地の怒り! ロックド‼︎」
すかさず取り巻き達も魔法攻撃で応戦する。
が、ミユはそれを手で掴んで弾いた。
「な、……!」
「まっ、魔法攻撃を……なんの防御結界も張らずに素手で……?」
取り巻きたちもミユの頑丈さに驚いていた。
こんな程度の攻撃など、日々Sクラスの怪物と相対しているミユにとって、なんでもない攻撃だった。
「ひどいことしたらだめ!」
どうやっても太刀打ちできない、というミユにドミトリーたちは震えた。
だが、ドミトリーはそれでも怒りを露わにして、もう一度ミユに襲い掛かった。
「こん……のぉ!」
そのあと一歩というところだった。
「そこまでだ!」
辺りに大きく声が響いた。
「お前たち! 神聖なる学び舎で何をしているのだ!」
夕日を背に、その小さな見かけよりとても大きく存在感を放っている5人組が立ち尽くしていた。
「あっ、あれは……あの方たちは!」
「すっ、スクールカーストランク最上位グループ……全試験満点を叩き出し、全員がA判定を受けた将来有望の……」
「A5の皆さんだ!」
「えーふぁいぶ?」
ミユはこうして、スクールカースト最上位に位置する5人組と、はじめて顔を合わせることになった。
この出会いが、双方に何をもたらすのかはまだ誰も知らなかった。




