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幼女と幼女 〜後編〜

「さっ、行くわよ。グレゴリ!」

「ひっ、姫様……早すぎますよ……王様達を置いてきてしまっています」


 グロウ王国の姫、ユミルとその騎士グレゴリとグロウ王国兵士団一団は、国を挙げて出していた依頼、伝説のグランド・ドラゴンの討伐クエストをクリアした報酬として、達成者に王様がお褒めの言葉を届けに行くところだった。

 本来ならば、王様が城を開けて飛び出すなど前代未聞の事態なのだが、そもそもその竜討伐がイレギュラー極まりない事態だったので、なんとしてもひと目見てみたいという願望からこのようになった。

 強い申し出をしたのは王様ではなくユミルだった。

 彼女は自分より一歳下で一切能力も下のはずの、5歳児の女の子がそのクエスト制覇者という事実を、如何とも信じ難かった。

 知りたい。

 彼女は勇足で踏み出していた。

 余りにも早く進んでいたので、王様や他の兵士の馬車を抜き去って一足だころか二足も先に、街にたどり着いてしまっていた。

「だって、パパが……お父上たちトロイんだもん!」

「そっ、そうは言いますが……ハァ、ハァ……こ、ここまでの距離をあんな速さで息切れ一つせずに姫様がここまでくるなど、誰が予想できましょうか……」

 グレゴリは兵士の中でも体力がある方だった。

 ユミルがそれ以上の、規格外の体力と脚力を誇っていただけだが。

 いらいらとしながらユミルが地面を踏んでいると、間もなく王様たちの姿が遠くからうっすらと見えた。

「もぅパパったら早くして! あっ! なに座り込んで休憩してんのよ! そんなんだからハゲるのよ!」

「……姫様は本当に優れた御目をお持ちですな。私なんかは遠すぎてなにがなにやら……」


 ユミルが遠方の王様たちを見れたのは、超視力によるものだった。

 その目を凝らせば数キロ先まで獲物を見定めることができる。

 転生時に受けたスキル……というよりは生まれつきかなりよかった視力を、スキルで補強した形か。

 もう待てないといわんばかりにユミルは、街の中に進んでいった。

「ちょ、ちょっと姫様⁉︎」

「こーなりゃ先にそいつに相手してもらうわ。グレゴリはここで待ってていいわ。私は会いに行く」

「なりません。私も同行致します。姫様を御守りするのが我が使命ですから」

「決まりねっ!」

 にやりと微笑むと、二人は一緒に例の幼女が住んでいるという場所へと向かった……。



「ふーん。こんなところにも色々あるのね」

 歩きながらユミルは店のあちこちを見渡した。

「ヨルダは近年、冒険者の集まる場所として栄え始めており、数多くのギルドがここの酒場を出入りするのです。……あぁ、あちらに見えますスパゲティ料理店は、有名な料理人アッサダ殿が経営しているところでして、これがまた絶品と評判のようです」

「……なんか詳しいわね」

 姫は怪訝そうに騎士を見つめていた。

「そりゃあ見も知らぬ危険な地に、王とその息女を歩かせるわけには参りませんから。不肖このグレゴリ、事前に念入りな調査を重ねて参りました」

 グレゴリが自信たっぷりにいう。その手には文字がびっしりと書き詰められている地図と手帳、そして王国民を証明する手形に書状まで挟まっていた。

「……相変わらずクソ真面目ね……」

「ひっ、姫様。はしたないですぞ」

「でもそういうところ好きよ。私」

「お褒めに預かり、誠に身に余る光栄の至りでございます」

「……だからそういうところが真面目すぎるんだってば!」

 ユミルのちょっと意地悪な色気づいた一言にも、いつもの態度でグレゴリは返した。

 姫と騎士はやがて、クエスト受付を行う酒場にやってきた。

「此処か……」

「いくわよ」

 先に歩いていたのはユミルだったが、レディーファーストといわんばかりにグレゴリはユミルの前に出て、扉を開けた。

 酒場の風景はいつもと変わらない様子だった。

 ごろつきたちが、風変わりな姫たちを一瞥し、下品な笑いを浮かべている。

 いつもと変わっているのは、ユミルたちだった。

 ユミルにとっては、全てが目新しい新世界だった。

 戦場に赴くこともあるにはあったが、それでも遠方の街中に行ったことはなかった。

 所変われば品変わるとはよく言ったもので、ユミルにとっては酒場ひとつとっても見慣れぬ形をとっていた。

「はいいらっしゃーい」

 ようやく熱から復帰した例の受付嬢が立っていた。

「ご機嫌よう。私はユミル。グロウ王国の皇女よ」

「はえっ⁉︎ ひっ、ひっ、姫殿下ァ? 御立派ァ! ……じゃなくて、ちょっと急すぎんよ〜 お茶とか……どう?」

「結構よ。それより、うちの国が出していたクエストの件なんだけど……」

「ん? ああ! あれですね! ええ。たしかにクリアした人が現れましたね」

「ええ。私たちはそのものに報酬を渡すと同時に、一度直接会ってみようと思いまして。わざわざ此方へやってきたのですが……貴女はご存知なくて?」

「いえ。へい! 実はその子、最近ウチでライセンス作りやしてね。ちょっくら捜索してきますので……かしこまり!」

 そういうと受付の女は光の速さで去っていった。

「へぇ……意外と近くに住んでいらっしゃるかもね」

「そうですな」

「グレゴリはどう思う?」

「私ですか。そうですね……姫様と同年代……それに近しい年齢だとしても、やはり並々ならぬ武人でしょうな。可能ならば手合わせ願いたいものですが……」

「ドラゴンをテイムしちゃうなんて尋常じゃないわ。絶対会ってみせるんだから」

 やがて受付嬢が帰ってきた。

「おまたせ! 番地掴んできやしたよ。住所は〇〇の××が△△でね……」

「成る程。わかりましたわ。ありがとう」

「またのお越しをお待ちしておりまーすっ」

 ユミルたちは得た番地を頼りに、幼女の宅を探した。

「ここかしら?」

 やがてたどり着いた場所は、どう見てもドラゴンをシメたような幼女が住んでいそうな場所ではなかった。

 辺りを見回す。それらしい人影はいない。

「本当なのかしら……」

「とにかく入ってみましょうか」

 グレゴリたちは階段を上がっていった。

 扉の前に設置された玄関鈴を押す。音が鳴り、しばらくユミルたちは待った。


 ところがいつまで経ってもそのものは現れなかった。


「留守かしら……ってあら? グレゴリは?」

 ついさっきまで自分の側にいたはずの男が消えていたので、ユミルは外へ出て探してみた。

 するとなんとグレゴリが、伝説の竜・グランドドラゴンと対峙していた。

 初めて見る伝説の竜に、ユミルは息を巻いた。

「ど、どういうことよグレゴリ!」

「姫様……どうかお離れになってください……! 此奴こそ我が国が討伐対象としていた伝説の……」


《ほう……貴様らが我をあの洞窟に追いやった一族……その末裔ということだな?》


 竜は念話でグレゴリたちに話しかけた。

 ユミルは思わず頭を覆う。

 竜のなせる技に、驚いている暇さえない。

 竜は口元に大きく火を溜めていた。

《殺しはしない……だが、侵入者を痛めつける分には問題あるまい……》

「な、なにを……」

《ふははははは! 喜べ! 我が全力で手加減して撃ってやる。だから簡単には果ててくれるなよ?》


 伝説の竜から放たれる殺気。異常なまでの強さ。

 はやい。まだ相対するなんてはやすぎた。

 ユミルはあと数年で竜に挑めると思っていたが、それは大きな間違いだった。

 少なくともあと十年、いや十五年は必要だ。

 震える足を庇うようにして、ユミルは立ち尽くしていた。

 グレゴリは果敢にもその竜に挑もうとしていた。

 やがて竜の口から炎が吹き出る…………



 ……瞬間だった。

「こらー! だめっていったでしょー!」

《ぎゃふんっ!》

「…………へっ?」


 姫と騎士の目の前に現れたのは紛れもない、竜を統べる幼女——ワタナベ・ミユだった。

 スリッパを片手に、ドラゴンの後頭部を勢いよく叩く。

 ドラゴンはその顔面を地面に叩きつけられた。

 その様子を見て、姫と騎士は即座にこの幼女がクエストクリア者であり、ドラゴンの使役に成功したものだと気付いた。

「ん? あなただぁれ?」

 ミユが、同じく幼女のユミルに気づいた。

 ミユにとってはこれが、異世界初の同年代女子との邂逅だった。

 ユミルは躊躇わず、手を差し出す。

「ご機嫌よう。私はユミル。グロウ王国の姫よ。よろしく」

「よろしくー! 私はみゆ。わたなべみゆです」

 差し出された手を握りしめ、その手をまた握り返しながら、ユミルは愕然とした。

「みゆ……渡辺みゆだと……そう、言ったのかい?」

「うん。そうだよ? もしかして、どこかであった?」

 ユミルが深々とミユを観察する。

 会っているもなにも、同じ世界からの出身であることは、その名前、その独特な見た目からすぐに察知できた。

 グレゴリはなんのことだかわからず、目を回していた。


 この皇女——元冴羽涼介は、ミユと時を同じくする現代の異世界、日本からやってきた男だった。

 しかし彼女とはやってきた経緯も、方法もまるで異なっていた。

 ミユは転移で、ユミルは転生だった。

 本来なら決して交わるはずのない二人の幼女は、互いを認め合うように見つめあっていた。

 すくなくともユミルの方はそう思っていた。

 やがてユミルが返した。

「ううん。なんでもないのよ。それより、貴女が竜討伐のクエストを達成したワタナベミユさんで間違いはないわね?」

「うん」

《当然だ。それは余が保証する》


 急に威厳を取り戻したと言わんばかりに、竜が二人に割り込んだ。

「今日は私たち、お礼を言いにきたんですわ。先ずは私から、クエスト達成どうもありがとうございました」

「わーい!」

「……で、もしよかったらなんですけど。私と手合わせしてもらってよろしいでしょうか?」

「てあわせ?」

「ええ。私と戦う、ということよ」

 ユミルは精一杯ふんぞりかえってみた。

 そうでもして、自分を少しでも上に見せておかないと、押しつぶされてしまいそうだったからだ。

 ミユは口をつぐんだ。

「あら、断るのかしら?」

「うーーん。ラピがもうすぐ帰ってくるから、ラピに聞いてみるね」

「ラピ……? なんでしょう。保護者の方でしょうか」 

 ユミルは考えた。

 どうやってミユはこの世界にやってきたのか。

 自分と同じ事故で?

 だとしたら年齢が若すぎる。さらに神と会話して能力を得たにしては、あまりにも普通の子供すぎる。

 よって転生の線は薄いだろう。

 ではうっかり転移させられてしまったのかもしれない。

 となればこの子は現実世界での年齢と肉体そのままに、この世界に転移したと考えられる。

 名前もそのままだ。ということは保護者とは、この世界の人間、ということになる。

 どのように関係を築いたのか……もしやこの幼女よりもはるかに強い人間なのか……

 ユミルはなにかとミユから目が離せなかった。

 しばらくしてると、ミユがラピと呼ぶものが現れた。

「あっ、ラピー」

「ん? ミユ。どうしたの? 迎えに来てくれたん…………その方たちは?」

「ご機嫌よう」

「わあっ」

 荷物で手が塞がっているラピに、ユミルはずいずい近寄っていった。

「おっ、女の子? ミユと同じくらいの……」

「はじめまして。私はグロウ王国の皇女、ユミルと申しますわ。あちらは兵士のグレゴリ。今日は貴方がたが我が国の出したクエストをクリアした褒美に、私の父、グロウ国王が直々にお礼を申し上げたいと言うので、遠路遥々ここまでやって来た次第よ」

 ラピは目の前の少女から繰り出される言葉の数々に、目を丸くした。


 この子……

 大人よりずっと小さいのになんて語彙力なんだ……。

 ラピは素直に感心していた。

 王族を名乗るだけあり、幼い頃からその身に作法を叩き込まれているのだろうか、まるで一人の大人相手に話しているような偉大さに、思わずラピも頭を下げる。

「い、いえ。こちらこそよくぞお越しくださいました。さっ、こちらへどうぞ」

「ええ」

 ミユはラピが丁寧に接しているのをみて、疑問に思っていた。

 ユミルをラピが連れて行くと、残されたミユとグレゴリは互いに顔を見合わせた。

「な、なんだ……」

「ん」

 ミユは両手を差し出した。

「えっ? お、おんぶかい? オレが?」

 なにをしていいのかわからず、グレゴリはミユを抱えて家へ入っていった。

「子守りなんて……ユミル様の時だってそこまでしたことはなかったな……あの頃から既に、ユミル様は独り立ちをなさっていたのだな……」


 普段剣や盾を握る大きなグレゴリの手に、今小さき幼女が息を立てて載っている。

 子供の暖かさと、今にも壊れてしまいそうな儚さを、グレゴリは感じ取っていた。


 ……これが、伝説の竜を手懐けた子供か……。

 グレゴリは微笑ましい気持ちになった。

 ユミルと比べても、ミユはまだまだ成長途中の、その辺の子供と変わらなかった。

 グレゴリの抱き抱えは、ミユにとっても心地よいもので、満足そうに頭を擦り付けていた。



 計四名が部屋に入っていくと、普段ミユとラピしかいなかった部屋が、なかなか狭く感じた。

 ラピはいつものようにお茶を出し、それぞれミユはラピと、グレゴリはユミルとペアで席についた。

「これは良い紅茶ね。アールグレイのものかしら?」

「い、いえ……ダージリンです」

「あらそう。ねぇところでこの後うちのパパ……お父上がここにやってくるのだけど、それまで暇じゃないかしら?」

 ユミルはミユをチラチラと見た。

「それでなんだけど……それまでの間若いものは若いもので、しばらく遊んで時間をつぶすっていうのはどう?」

「あそぶー?」

 ミユも反応した。

「うんうん。それじゃあ決まりね! じゃあグレゴリ、私たちちょっと出てるから。このおじさまと仲良く談合でもなさいな」

「はっ……って、いや姫様……」

「大丈夫よ。そんなに遠くにはいかないからっ」

 有無を言わさずユミル殿下はミユを連れ出して外へ出た。

 置き去りにされた大人二人は呆気にとられた。


「……姫様ったら……」

「…………おっ、おじさま……? 若いものは……?」

 ユミルの言葉を反芻するかのように、ラピはショックを受けてうなだれた。


 ミユとユミル。似たもの同士な幼女二人は近くにある広場で遊ぶことにした。

 といっても、本当にユミルが子供らしく遊ぶために連れ出したわけではない。

 ドラゴンを倒し屈服させた実力を、肌で味わうためだ。

 だが子供同士で真剣の切り合いなど、周囲の者がうるさいだろうし、なによりミユは剣なんて持っていない。

 ではなにをするか。外からは子供同士の他愛いない遊びに見せられて、競い合うことのできるもの……

「ねぇミユちゃん。私とあそこのはしからはしまでかけっこなさない?」

「おー! いいよ!」

 ユミルとミユはお互い位置についた。

「よーい……どんっ!」

 合図を出したのも、そして少し早くスタートしたのもユミルだった。

 ユミルは転生の際、力のみならずあらゆる能力が高い状態を希望した。

 パワーのみならず、そのスピードには目を張るものがあった。

 さぁ、どこまで追いつけるかな⁉︎

 眼前のゴールを前に、勝ち誇ったように笑っていると、突然。


 横から突風のような、凄まじいものが轟音を立てて飛んできた。

 弾丸の類を警戒したが、それはすぐに違うとわかった。

 ミユだ。

「わーい!」

 ミユはあっという間にユミルを抜き去り、そのままゴールへ向かった。

「はっ、はやい……!」

 子供の姿で、スピードには自信のあったユミルも、さしものミユには勝負にならなかった。

 おかしい……身体強化レベル9を積んでいるというのに……

 あの子の能力はそれ以上だというの?

 だが、別段焦りはしていなかった。

 まだまだ序の口、ユミルにとってはウォーミングアップだった。

「へへわーい!」

「あら、お見事ですわ。そしたら次は……」


 ユミルは手でエネルギーを集めてボールを作り出した。

「キャッチボールですわ!」

「わぁ、すごーい!」

 ユミルの作り出したエネルギー弾を、お互いが投げ合い、取りこぼした方が負け。

「いきますわよ!」

 再び主導権を握ったユミルが、渾身の力を込めて投げつけた。

 球は勢いよくミユに届いたが、ミユはなんとか受け止めた。

「いーっくよー」

 ミユはまるで野球選手にでもなったかのように、大きく振りかぶって投げた。

 なんだか懐かしいその光景に、ユミルの頬も緩んだ。

「こい!」

 ミユの投げたそれは、ユミルのものより何倍も鋭く、何倍も早かった。

 当然だ。それは攻撃力に差があるからだろう。

 ミユはその力を完全にはコントロールできてないとはいえ、あの天才アーチャーゲイルでさえ、これを一発で見切ることはかなわなかった。

 しかしユミルとてただの幼女にあらず。

 その凄まじい弾速も、ユミルにはすべて見えている。

 身体が追いつく。ユミルはミユからの凄まじい球を受け取り、また力を込めて投げ返した。

 ユミルが投げればミユも投げる。一進一退。

 傍から見たら異次元のキャッチボールを、幼児同士がやりあっているのだが、両者はそんなことも気にせず投げ続けた。

 やがてボールが凄まじい加速度に耐えきれず、消滅した。

「ありゃ」

「……引き分けですわね。でもこれで勝ったと思わないことね!」


 ユミルが提案した遊びはちゃんばらごっこだった。

 ミユもよく知っての通り、木の棒かなにかで、力比べするのだ。

 ユミルは持ってきた愛剣は使わず、公平に木の棒を握った。

「いざ!」

「しょうぶー!」

 互いに交わる刃。それはもはや木の棒から繰り出せる威力ではなかった。

 お互い風圧で攻撃を当てるかのように、激しいせめぎ合いが続いた。

 ユミルがこの6年間異世界で貯めてきた経験値は、ミユのゼロ年の圧倒的なステータスにも、どうにか食い下がれるレベルだった。

 ある程度高い次元のもの同士が、ぶつかり合える世界。

 だが、やがてユミルの棒は折れ、ミユの圧倒的な攻撃力の前に沈んだ。

「ぐはっ……!」

 今まで倒してきたどんな怪物よりも、目の前の幼女は凄まじかった。

 普通ならここでいつも挑戦者は去るのだが、今回は同じく異世界で能力を与えられし者。

 ミユが与えた傷も瞬時に回復させ、また勝負を挑んでいった。



 その後もユミルとミユの対決は続いたが、その一度たりともユミルがミユを負かすことはなかった。

 だが、それまで対等以上に戦ったことのないユミルにとって、ミユは大きな壁となった。

 それはユミルの向上心を大きく上げることになった。

 ミユはといえば、骨のある遊び相手と、同年代の相手と競えてさぞかし満足といった具合だ。


「たのしかったね。ユミルちゃん」

「そ、そうね……ミユちゃん……」

 一日でミユが名前をはっきり覚えたのも、ユミルが初めてであった。

 両者は健闘を称えて握手し、夕日の街へ戻っていった。



「あっ、お父上だわ」

 ユミルは国王たちがようやく到着したのを見て、呆れていた。

「いやぁーすまんすまん。うっかり冠が飛ばされてしまってなー探してたらこんなに経っちゃって……」

「おじさん、だぁれ?」

「あら、失礼ね。この方は私のお父上。つまりグロウ王国国王様よ」

「おうさまー?」

 ミユも王様に関しては〝裸の王様〟程度の知識ならあった。

「いやいやいや、どうもどうも。私はグロウ王国の国王じゃ。ミユどの此度のそなたの活躍見事であったぞ」

「うん!」

 王様に握手しようとミユが飛び、王様が背丈に合わせてしゃがんだ瞬間、王の器である冠が外れ、その頭が夕日に照らされあたりは眩く輝いていた。

「うわっ、まぶちぃ」

 その場の誰もが眩しすぎる王の姿見に目を覆った。

 やがて二人の幼女対決は終わり、ユミルは城へと戻っていった。

 いずれまた、再戦する誓いを立てて……

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