マリッサの冒険より熱いお茶会
「今日は~素敵レディな~マリッサの~お茶会~」
こんにちは!私は伯爵令嬢のマリッサ、12歳だよ!
今日はこれから王都のお城でお茶会だよ!
リアル王子様がいるらしいよ!
初めてのお城!
うわぁ、ヨーロッパのお城100選とかにでてきそう!
ファンタースティック!
キョロキョロふんすふんすしてたら母さまに襟首掴まれて一睨みされた。怖い…。ぶるった。
愛娘に向けちゃいけない眼差しだよそれ。
お茶会会場は子供達だけとのことで、母さまと別れて1人で会場入りする。
別れ際、母さまに目立つな騒ぐな、むしろもう喋るな動くなって言われた。胃をおさえて顔色悪くしてたけど大丈夫かな?
わあ、ちびっこ紳士淑女が色とりどりだぁ!
キョロキョロしながら、友達を作るかお城のお菓子を食べるか悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「やあ。君はあの時の迷子じゃないかな?」
「?」
金髪くるくる巻き毛の男の子に声かけられた。
どちらさま?
こんな美人さんに知り合いなんていないよ?
「ああ、君は転んで大泣きしてたから覚えてないのかも。
あの後大丈夫だった?心配だったんだ。」
「…はっ!くるくる巻き毛の都会の子!?」
「えぇっ!?そんな覚え方!?」
こんなところで5年前の恩人?に会うなんてびっくり!
あ!そうだ!お礼を言わなくちゃ!
「都会っ子くん、あの時はお世話になりました。」
丁寧にお礼を告げる。
「ちょっと待って!その呼び方やめて?」
「え?じゃあ巻き毛くんとかくるくるくんは?」
はぁーっと深い深いため息をつく都会っ子。
「あのね、僕は公爵家の長男でね…」
「あ!それは大変失礼いたしました!巻き毛様!」
「そうじゃない。」
お茶会会場では女の子達に囲まれてしまうので、ゆっくり話もできないと、近くの庭園を散策することにした。
もてる男の子は言うことが違うねぇ。
ひゅーひゅーだよ。
さあ、自己紹介でも…というところで、二人して拐われた。
目が覚めると窓のない地下室みたいな部屋に転がされてた。
この部屋、魔法が使えないようになってる。
むぅ。転移で帰れないじゃないの。
「僕のせいだ。巻き込んでしまってすまない。」
先に目が覚めていた巻き毛様がしょんぼりしてる。
どうやらお家騒動が原因らしい。
後妻がどーの、腹違いの弟がどーのと、貴族あるあるだね!
落ち込んでグチグチ言ってる人がいるけど、胸熱シチュエーション過ぎて構っていられない!
鼻の穴が拡がるのをおさえきれない!
「テッテレー!こんなこともあろうかと!
うさぎちゃんポシェット!」
じゃじゃーんとドレスの隠しポケットからうさぎちゃんのポシェットをドヤ顔で取り出した。
ちょ、残念な子見る目で見ないでよ!
すごいんだからね!
「…。あの時もそれ持ってたね。お気に入りなの?」
「マジックバッグなのよ!」
「へー」
棒読みですけど?
まあいいや。
まずはおやつ。腹が減っては戦はできないからね!
大好物のフィナンシェをおすそ分け。
うちの料理人の焼いたお菓子うまーい。
「おいしいけど!なんでそんなに落ち着いてるの?」
「備えあれば憂いなしってやつだよ!あ、お茶もどうぞ~」
まあほら、なんといっても頭脳は大人!身体は子供!だもんね。
たぶん。大人っだったような?
次は着替え。こんなよそ行きのドレスじゃ動きにくいからね。
後ろを向いてもらってパパっと着替える。
巻き毛様にも着替えるか聞いたけどいいって。
まあ男の子はズボンだしね。
そして針金。
ニヤリと笑う。
あ、いけない。レディな微笑みとだいぶ違ったかも。
でもさ、こんなこともあろうかとと用意したものが役立つ時って、快感だよねぇ。たまらんわぁ。
カモフラージュに扉をドンドン叩いたり「キャーここどこーあーけーてー」と騒いだりしながら、鍵穴に針金をさしてカチャカチャピーンと鍵をあけた。
「嘘だろ…?」
後ろから息を飲む音が聞こえた。
褒め称えていいのよ?
いーっぱい練習したんだから!
最後に眠り薬。
これ兄さまに作ってもらうの大変だったんだよ?
お散歩ついでにちょっとふた山先の森で材料を採取してたら、鬼の形相の父さまが迎えにきたし…。
なんで居場所がすぐばれるんだろ?
父さまの愛が重いわ。
「じゃあそろそろ行こっか!帰るの遅くなると怒られるし!」
絶対母さまに怒られる。
ついでに過去の経験から、そろそろ父さまが迎えに来る気がする。
「…なんかもうどこから突っ込んでいいのかわからない…」
なんか疲れてるけど大丈夫かな?
というか君はおやつ食べただけじゃない?
これだから都会っ子は体力なくていかんね。
「もやしっ子様、ここ出たら転移で戻るんでいいですか?」
「誰のこと!?疲れてるのは君の行動が突っ込みどころ盛り沢山のせいだからね!?それに転移だって?学園で習うレベルだよ?
少しはできるけど、ここから逃げ出せるか自信ないよ」
「え?そうなの?転移の初級ってあったよ?」
「それは転移魔法としての初級であって、一般的な初級魔法ではないと思うよ…」
やだこのもやしなに言ってるんだろう。
ちょっと意味わかんない。
え?まじ?
「まあいざとなったら、転移中級を取得済みの私が連れてってあげるよ!自分と同じ質量くらいはいけるようになったんだ!
ちびっこ紳士の1人ぐらい大丈夫なはず!じゃ行こっか!」
「ちびっこ紳士!?」
気持ちを切り替えてガチャっと扉を開ける。
「え!?ちょっ!見張りがっ!」
うん。扉の外は魔法が使える。よかった。
眠り薬をミスト状にして10センチくらいの球体を2個作る。
「えい!」
びっくりして初動の遅れてる見張り役の二人の顔に眠り薬ミストを投げつけ意識を刈り取る。
森で動物相手にいっぱい練習したから手練れだよ!
やっぱり地下室だったみたい。
階段をあがっていたら、なんだか外が騒がしい。
「言いがかりはやめてもらいたい。ここにそんな子供は…」
「いるのはわかっているんですよ?実力行使をお望みか?」
やだ、父さまの声だ。超悪人っぽい。
鉢合わせた人達の意識を刈り取りながら、父さまのところに向かう。
「父さま、お待たせー!」
にこにこ手をふりながら駆け寄った。
「お茶会の途中で散策中の庭園より拐われ、魔法封じの施されたここの地下室に閉じ込められていました!公爵家のもや…巻き…ご長男様も一緒です!」
怒られないですむように、先手をうって自分に非はないことをアピールだよ!先手大事!アピール大事!
父さまと言い争っていた人は公爵家の後妻さんのお兄さんだったらしい。
自分と血のつながりのある甥を跡取りにしておいしい思いをしたかったみたいね。貴族あるあるだね!
公爵家の令息をお城から拐ったという、決して軽くはない犯罪のため、衛兵がきて現場検証やら証言を求められたり大騒ぎだったよ。
「助けてくれてありがとう。
でも覚えてて。
次会う時はもやしだのちびっこだの言わせないから。
君を見返して見せる!」
別れ際に巻き毛様が宣戦布告してきた。
分かる!一緒に太陽に向かって駆け出す気分だね!
でも覚えてろ、は難しいかも。
結局自己紹介しそびれちゃったんだもん。
まあ何はともあれ、初めてのお茶会は無事終了。
異世界のお茶会は冒険より胸熱展開だったよ!
リアル王子様を拝み損ねたのとお城のお菓子を食べ損ねたのが残念かな。
父さまと母さまの方がよっぽと疲労困憊なのはなんでだろうね?
母さまが「これをはずすのは母が儚くなってからにしてね」とやたら重々しく魔石のついたブレスレットをくれた。
マリッサの迷子札(高性能GPS)が増えました。
母「うさぎちゃんのポシェットはそろそろ子供っぽいって気づくかもしれない」