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地獄裁判  作者: うさぎサボテン
プロローグ
1/22

Ⅰ.【挿絵あり】

挿絵(By みてみん)

 空は真っ赤に塗り潰され、生温い風が吹き抜ける。

 さっきまで耳や視界を支配していた人混みはなく、ゾッとする程の静寂がそこにはあった。

 少年は目を擦り、頬を抓り、ここにある現実を否定しようとした。

 だが、何度それを望んでも、現実はここにあった。


(俺は駅のホームに出た筈……。それなのに、ここは一体)


 確かに、ここは少年のよく知る駅のホーム。いつも、通学で利用している。

 中央に設置された自販機と、木製のベンチ、少しくたびれた屋根、元の白さを失った床……何もかもが見慣れたものなのに、ここはどこか別世界の様に思えた。

 たとえるなら、そう――――。


「あれ?」


 ふと、少年は黄色い線の内側に立つ少女の後ろ姿を発見した。

 電車を待っているのだろう。そう思うと、急に少年は自身が望む現実へ帰って来られた気がして安心した――――のも束の間、少年は少女の異様さに気付いてしまった。


 風に靡く漆黒の長髪、膝丈の漆黒のワンピース、華奢な背中を覆う大きな棺桶……きっと、それだけならば、そう言うファッションなのだと思った。

 けれど、雰囲気が浮世離れしたそれであったのだ。


 少年は慄然とし、その場から動けなくなった。

 シュンシュンと風を切り、貨物を乗せた胴長の列車が通り過ぎた。

 少女は風に舞い踊る髪とワンピースを軽く押さえ、少年に向き直った。

 陶器の様に白い肌に、血色の良い小さな唇、そして、長い睫毛が縁取る大きな瞳は真っ赤だった。まるで、あの空の色を取り込んだかの様に悍ましかった。

 少女は少年を見据え、静かに言った。


「……始まったわ」

「な、何が」


 たとえるなら、そう。ここは地獄だ――――。




「ほら、何してるんだい。電車来たわよ。後ろつっかえてるんだから早く乗んな」


 急に背中を押され、少年はハッと気付いた。

 目の前には電車が停っており、扉を全開させていた。

 他の場所からどんどん人が乗り込んでいく中、ここだけが少年のせいでつっかえていた。


「あ。すみません」


 少年は後ろのおばさんを一瞥し、急いで電車に乗り込んだ。

 扉が閉まり、電車がゆったりと動き出す。

 車窓から見える空は青く、不気味な静寂も、不思議な少女も、もうなかった。


(夢……か)


 まだ脳内にはハッキリと残っていたがそう思う事にして、少年は制服のポケットからスマートフォンを取り出してゲームをし始めた。

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