華麗なる追いかけっこ
「うわわわわわわわ!」
お姫様抱っこをされたまま、マルファは屋根から屋根へ飛ぶ。予想はしていたもののマルスの脚力は強く、先程居た広場からたちまち遠ざかっていく。
「ちょ、ちょー! はやっ! 早過ぎるわ!」
「我慢してよマルファ! 今止まったら絶対真っ二つだよ!」
着地しては走り、すぐに空中を滑走する。目にも止まらぬ速さで進む彼の肩から、マルファはようやく背後を伺った。
(来てる!)
先程刃を構えていた女性がマルスの脚に追いすがらんと駆けていた。抜いた刃物は一度締まったらしく、腰元に同等の長い鞘が付いている。
「来てるかい!? 来てるよね!?」
「来てるわ!」
「降りるよ!」
「えっ」
マルスの言葉に答えたマルファは、すぐに全身で浮遊感を味わった。しかしすぐに終わる。
「きゃあ!!?」
「なんだぁ!?」
それなりに広い路地へ降り立ったマルスは、屋根から着地した衝撃を完璧に殺しつつ、すぐに走り出した。突然の来訪者に驚きを隠せない人々を後に残して、よけながら進む。
「眺めは最高だけど、追っ手を撒くには綺麗すぎるね」
マルスが他人事のように呟いた。それでも、足元は緩まない。マルファは映像でも見ているかのように、殆ど振動を感じないまま目の前の景色が移りゆくさまを眺めている。
「あなたって、すごい運動神経がいいのね」
「あはは。どーも。実はサイボーグなの」
「ほんとに!?」
「待て!」
声がした。マルファがまた伺うと、マルスと同じくらいのスピードで雑踏をかいくぐる彼女の姿があった。
「逃げるな!」
「ちょっ。足はやいなぁ彼女!」
「まあ、人じゃないもの」
「ほんとに!?」
「うそ。冗談よ」
言うと、道が開けた。