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影追いの義賊  作者: zig
6/21

落ちた言葉は、真っ直ぐな想い

 「ありがとう……」

 少女が思わず呟いた言葉は、彼の唇を柔らかくした。

「わー! お兄ちゃんすごーい!」

 「サーカスの人みたーい!」

 子供達が口々に囃し立てる。

 その声を聞きながら、少女は改めて、帽子を取り戻してくれた彼の姿をまじまじと見た。


 光る、革靴。先端へ向かうにつれて尖っていく大人びた足元。きちんと手入れが行き届いているようで、どこからでも満足げに輝いて佇んでいる。

 その上に、スラックスが静かに伸びていた。中央にきちんと折り目を入れている黒いボトムは、彼の脚を隙なく、真っ直ぐ包む。

 腰。そして、胸元。

 彼女の目線より少し上に(そび)える胸が羽織る様に着込んだジャケットも同じく黒色で、細身な体のラインが綺麗に浮かんでいる。

 内側を鮮やかに彩る白いシャツがアクセントを爽やかに奏でて、袖口から少しばか覗く控えめな先端も、同じように眩しく輝いていた。

 そこまでを見たところで、少女は、トップスの奥に黒いベストがあることも認めた。

 「よかったですね。あまり遠くに飛ばされなくて」

 「え、ええ」

 視界の外から、声が落ちる。その声は、丁寧でありながら、どこか親しみやすかった。

 男性特有の落ち着いた低音が根底に流れている。しかし、決して低すぎるわけでは無い。どこかあどけない爽やかさを含みながら、明るい調子が辺りに響いた。

 「あの……」

 「はい?」

 言いながら、顔を上げる。

 再び出会う彼の目を、少女は今度こそ間近に捉えた。

 柔らかな、顔。若干目尻を下げながら細く笑う瞳は、透き通っている。右目の目尻にホクロがぽつんと一つ、星のように小さく浮かぶ。

 そんな目と耳の間から顎先へ流れて落ちる、しゅっとした頬。

 品のいい鼻立ち。整った眉。黒いシルクハットに大部分を隠された、短髪の黒髪。

 まさしく青年といった彼の笑顔が、見上げる少女の瞳に万遍なく、降り注がれていた。

 「私、あなたに、……」

 「はい」

 

 少女は、まっすぐ、見つめる。

 その大きな瞳で一直線に捉えながら、彼を。

 

 「伝えたいことが、あるんですが……」

 「ええ。なんですか?」

 

 瞬きが、一瞬。


 視界を仕切り直して。


 ある言葉を、伝えた。

 

 

 「帽子。まだ落ちてないわ」

 「……あ」

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