夜の自室で
こんこん。
夜の自室に一人、暗闇の中腰かける私に、窓からノックの音が響いた。
「あ……」
窓の形に切り取られた、床に落ちる月明かりに、人影が混じる。
その濃い暗闇に染まる表情はわからなかったけれど
、私にはその人が誰なのか、すぐにわかった。
「マルーバ!」
すぐに歩み寄って、窓を開ける。
するとマルーバは、まるで猫のように軽やかに、引いた私が一瞬前まで立っていたところへと降り立ち、すっと立ち上がった。
「やあ。マルファ」
「……!」
「無事だったかい?良かった」
「マルーバ…。本当に、マルーバなの?」
「ああ。僕だよ」
マントと片眼鏡を身に付けているマルーバは、昼間見た服をより上品に黒く染めた格好をしていた。
「嘘……。だって、あの時、あなたは撃たれて……」
「あはは。それはね、間一髪だった」
首に、手を置く。
たったそれだけの仕草なのに、胸から涙が溢れて止まらない。
「喫茶店が、どんどん壊れていって、外からもたくさんの銃撃に晒されたのに……!」
「でも、生きてる」
両腕を広げるマルーバは、確かにそこにいた。
「君だって、無事だっただろう?」
「それは……サヤが……」
「そう」
コツ、コツ。
歩いてきたマルーバは、頬に手をあてがった。
温かい。
「守れなくて、ごめん」
「……ううん」
「僕のせいだ」
「いいの。もう、いい……」
瞳を閉じると、唇が塞がれた。
それは、すぐに離れてしまったけれど。
「……僕が来た理由、わかるね」
「わかるわ。……これでしょう?」
首もとのネックレスを外して、手のなかに納める。
赤い宝石が、血潮の中で燦然と輝いていた。
「先祖代々受け継がれる、宝石……。五つあるうちの一つ、『フレア』」
両手のひらに乗せて差し出すと、マルーバは静かに受け取って、月明かりに照らした。
「そう。か。これが……」
「お母様からもらったの。一番大切な方に渡すよう。それが……」
「……これ。じゃ、ないでしょう?」
パッと見上げた。
マルーバの顔に、今までに無かった歪みが現れるのに、はっきりと気付いた。
「偽物でしょう。これ」
投げ捨てられた『フレア』が、からんからんと鳴って部屋の隅まで転がっていく。
私は前を見た。
「ついでにいうとあなたも偽物ね」
「わかる? 嘘」
「わかるわよ。私だって嘘をつくもの」
引っ張られる、顔。マスクが破れた。マルーバの。
「まんまと食わされたわ」
「そういうことだ」
開いた。扉。
いる。ゾアが。
「セクティ……いや、アリシアだったか? ここでゲームオーバーだ」
「やだわ。そんな突然」
「お前は嫌だろう。だが俺達には関係のないことだ」
「あーあ。これじゃ、マルーバの勝ちね」
「逃げるな!」
「うふふ! またねゾア警部! イルネアちゃん!」
逃げた。窓から。
すばやい。いつも。
「……。逃がしたか」
「様式美。もはや」
「要らないことをいうな」
小突かれた。コツン。