表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影追いの義賊  作者: zig
17/21

夜の自室で

こんこん。

夜の自室に一人、暗闇の中腰かける私に、窓からノックの音が響いた。

「あ……」

窓の形に切り取られた、床に落ちる月明かりに、人影が混じる。

その濃い暗闇に染まる表情はわからなかったけれど

、私にはその人が誰なのか、すぐにわかった。

「マルーバ!」

すぐに歩み寄って、窓を開ける。

するとマルーバは、まるで猫のように軽やかに、引いた私が一瞬前まで立っていたところへと降り立ち、すっと立ち上がった。

「やあ。マルファ」

「……!」

「無事だったかい?良かった」

「マルーバ…。本当に、マルーバなの?」

「ああ。僕だよ」

マントと片眼鏡を身に付けているマルーバは、昼間見た服をより上品に黒く染めた格好をしていた。

「嘘……。だって、あの時、あなたは撃たれて……」

「あはは。それはね、間一髪だった」

首に、手を置く。

たったそれだけの仕草なのに、胸から涙が溢れて止まらない。

「喫茶店が、どんどん壊れていって、外からもたくさんの銃撃に晒されたのに……!」

「でも、生きてる」

両腕を広げるマルーバは、確かにそこにいた。

「君だって、無事だっただろう?」

「それは……サヤが……」

「そう」

コツ、コツ。

歩いてきたマルーバは、頬に手をあてがった。

温かい。

「守れなくて、ごめん」

「……ううん」

「僕のせいだ」

「いいの。もう、いい……」

瞳を閉じると、唇が塞がれた。

それは、すぐに離れてしまったけれど。

「……僕が来た理由、わかるね」

「わかるわ。……これでしょう?」

首もとのネックレスを外して、手のなかに納める。

赤い宝石が、血潮の中で燦然と輝いていた。

「先祖代々受け継がれる、宝石……。五つあるうちの一つ、『フレア』」

両手のひらに乗せて差し出すと、マルーバは静かに受け取って、月明かりに照らした。

「そう。か。これが……」

「お母様からもらったの。一番大切な方に渡すよう。それが……」

「……これ。じゃ、ないでしょう?」

パッと見上げた。

マルーバの顔に、今までに無かった歪みが現れるのに、はっきりと気付いた。

「偽物でしょう。これ」

投げ捨てられた『フレア』が、からんからんと鳴って部屋の隅まで転がっていく。

私は前を見た。

「ついでにいうとあなたも偽物ね」

「わかる? 嘘」

「わかるわよ。私だって嘘をつくもの」

引っ張られる、顔。マスクが破れた。マルーバの。

「まんまと食わされたわ」

「そういうことだ」

開いた。扉。

いる。ゾアが。

「セクティ……いや、アリシアだったか? ここでゲームオーバーだ」

「やだわ。そんな突然」

「お前は嫌だろう。だが俺達には関係のないことだ」

「あーあ。これじゃ、マルーバの勝ちね」

「逃げるな!」

「うふふ! またねゾア警部! イルネアちゃん!」

逃げた。窓から。

すばやい。いつも。

「……。逃がしたか」

「様式美。もはや」

「要らないことをいうな」

小突かれた。コツン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しい怪盗ものになってきたように思います。 続きが楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ