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影追いの義賊  作者: zig
15/21

船主、停留所にて

 川の隅へ停まった水上バスから、数十人の乗客が降りていく。

 渡された木の板をぎし、ぎしと踏みながら、ハンチングを被った老人、女性に手を引かれて歩く子供まで、笑顔で船を後にする。

 そして、全ての乗客が降り、船主が係船柱(けいせんちゅう)にかけた縄に手をかけたちょうどその時、一人の男が彼に声をかけた。

 「すまない。ちょっといいか」

 「あ? なんだ?」

 屈んだ船主が顔を上げると、長身の男が覗き込むように立っていた。

 「船ならすぐ出るぜ」

 船主はそっけなく言いながら、ロープを掴んで立ち上がった。

 男の身長は高い。船主より頭一つ分はある。

 男は全身が黒く染まっていた。細身にぴっちりとあう、光沢を放つ革。

 健康的に日焼けした顔には、大きめのサングラスが掛かっている。そして、硬そうな髪。まるで(たてがみ)のように逆立つ黒髪は、男の武骨さを表すようだった。

 「二人分なら、四百クレッゾな」

 「安い。意外と」

 真一文字に閉じた唇には、煙草が斜めに刺さっている。

 しかしその煙草が揺れる前に口を開いたのは、男の足元にちょこんと立つ、小さな子供だった。

 青いオーバーオールに、白いクルーネックシャツ。

 その頭には、先程の老人が身に着けていたものよりも頭が大きく膨らんだ、薄茶色のハンチング。

 日差しから守られる顔には、控えめな笑みが浮かんでいた。

 「そうだろ? ここいらじゃ結構良心的なんだぜ?」

 「乗るかどうかは、これから決める」

 低く、響く声が、煙草を咥える口元を揺らして発せられた。年相応の、青年期は超えたらしい声だった。

 「ここに、少女を連れた長身の男がこなかったか? 俺と同じくらいの奴だ」

 「あー。来たよ。橋の上から乗車してきたな」

 「来たんだ。二人」

 「来たな。すぐ後に長い刃物を持った姉ちゃんも飛び乗って来たがな!」

 ガッハッハ! と笑い飛ばす船主を余所に、男と子供は顔を見合わせた。

 「どっちへ行った?」

 「あん? 中心へさ。この川をずぅーっと下ってったんじゃねーかな」

 「乗らなかった。最後まで?」

 「ああ。すぐに水上バイクに乗った姉ちゃんと一緒に、男とその娘はドロン! よ」

 ふむ、と考え込んだ男の足元を、子供がくいくいとつまんだ。

 「行こう? 川下」

 「そうだな」

 「おう。決まりか?」

 船主が確かめると、男は頷いた。

 「乗ろう。いくらだ?」

 「もう言った。四百クレッゾ」

 「おうそうだ。なんなら六百でもいいぞ」

 「四百だ。親父。その中心まで、頼む」

 言うと、子供がポケットから小さな財布を取り出し、お金を手渡した。

 「あいよ! ちょうど四百! 快適な旅へご案内っと!」

 「ぶい。よろしく」

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