表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影追いの義賊  作者: zig
12/21

街中カッフェへ至る道

 「いやぁ、本当に助かったよアリシア。ありがとう」

 川を下り、一度海へ出たバイクは、そのまま進み続けてある停泊所に止まった。

 

 「どういたしまして。それにしてもどうしたの? あなたがここにくるなんて思いもしなかった」

 「まあ、仕事でね」

 歩く二人分の足音に、一人分が追加された。軽快な足音を鳴らして、左右の足が前後する。

 腰まで届く金色の長髪が、揺れた。若干カールを纏う毛先には品が漂い、ビキニの黒色が白い素肌を引き締める。

 道行く人々が振り返る程の輝きは、腰元に巻き付けたライトイエローのパレオが健全に灯す。

 「そう。仕事なら仕方ないわね」

 今は港から離れて、市街。喫茶店やガラス細工店、果物屋などが並ぶ道中を三人で歩いていた。

 

 「ところで、こちらのお嬢様はどなた?」

 かつ、と足が止まった。アリシアがマルファの顔を覗き込みながら、マルスへと尋ねた。

 「あ、ああ。どたばたしてて紹介が遅れたね。こちらは……」

 「マルファです。先程は、ありがとうございました」

 裾を上げて、マルファはお辞儀した。

 「あら、ご丁寧に。私はアリシア。マルーバのお友達よ」

 対するアリシアは、腰に手を当てたまま微笑んで返事をした。

 「マルーバさんのお友達に会えて、光栄です」

 言いながら、十分過ぎる笑みをたたえるマルファが、アリシアを見上げる。

 二人の挨拶を間近で眺めていたマルスは、頬から顎に一滴の汗を流しながら、声を上げた。

 「あ、あー。ふ、二人ともどうかな? 立ち話もなんだし、この先のカフェにでも行かない?」

 「カフェ?」

 アリシアの問いかけに、マルーバは続けた。

 「うん。行きたいと思ってたんだけどね。カフェ・フローリア」

 「フローリア……。あの時計塔の下にある、老舗よね」

 「さすがはアリシア。その通り」

 アリシアが見上げた視線につられると、マルファ達も青空の一角に時計塔を認めた。

 左右にそびえる建物がぽっかりと道を開けた青空に、鋭利な三角帽が茶色く浮かんでいる。下には、巨大な時計が一面だけはめ込まれていた。


 「いいわ。お昼も兼ねて、マルーバさんには色々と聞きたいことがあるから」

 「あの、マルファ? 笑ってるけど、目が怖い。目が」

 「あら。マルスさんは冗談がお好きですものね。表を裏と言ってしまう癖でもおありなのかしら」

 面白がるマルファが首を突き出す一方で、マルスは胸の前に両手を広げて後ずさりする。

 その様子を笑って見ていたアリシアは、しばらくして彼女達の傍に近づくと、ぽん、とマルファの肩へ手を置いた。

 「ひあっ!? なんですか!?」

 「マルファちゃん、だっけ? お茶も良いけど、その前にお色直ししましょ?」

 「えっ?」

 「マルーバ。あなたどういうエスコートしてるのよ。彼女の服、汚れてるじゃない」

 マルファの肩口からジト目を送るアリシアは、不甲斐ない優男に一言告げた。

 実際、彼女の服は後ろの腰回りに土埃がついていた。ワンピースが白いせいで、よく目立っている。

 「あ、ごめん。さっきの橋のところかな。後ろに詰まったもんね」

 「あ、で、でも、それはマルスのせいじゃないし……」

 「いいの! どちらにしてもそのままじゃ嫌でしょう? さ、ショッピングに行きましょ!」

 「あ、の、い、いい?」

 左手を軽やかに引かれたマルファが慌ててマルスに聞くと、マルスは笑顔で答えた。

 「いいよ。僕は先に席を取っておくから、ゆっくり選んできてよ」

 「本当ね? 逃げちゃダメよ?」

 「だーいじょうぶ。約束だけは守る男なんだから」

 「ひ、引っかかるなぁその言い方!」

 

 気心知れたやりとりが、マルファの頭上で交わされる。

 マルスと距離を離していくマルファがアリシアを見やると、果物屋が投じたリンゴを手に収め、優雅なウィンクを返している最中だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しそうな展開ですが、はてさて。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ