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影追いの義賊  作者: zig
11/21

窮地、一時離脱

 一歩下がれば、一歩近づく。


 アーチを描く橋の中央、マルファを背中に囲うマルスは、今左右の男女からにじり寄られていた。

 「絶対絶命のピンチって感じ?」

 「そんな感じだね。さて、どうするかな……」

 左に見える男は、スーツのポケットに両手を入れたまま、サングラスの奥からじっとマルス達を睨み付けている。口元には整えられた髭、右頬には十字の傷。

 一方で刃をちらつかせる女性は、右側から圧を放っていた。

 「ちょ、ちょっとお話しない? 僕いいカフェ知ってるんだよ! えーっと……」

 「サヤだ」

 「さ、サヤさん!」

 サヤと名乗った女性は、仕切り直すように刃を振るうと、長い切っ先を突きつけるように構え直した。

 「あなたと話すことはない」

 「あはは。取りつく島もないな」

 ぼぉ~、と、汽笛が鳴った。マルスの苦笑いが、より色濃くなっていく。

 「ねえ、もうダメかな」

 背後から服を引かれたマルスに、後ろから声がかけられた。

 「マルファ。そんなにすぐ諦めちゃだめだよ。良い手があるはずだ。探そう」

 「でも、サヤも、ウォンも、すごく強いのよ? あなた一人じゃいくらなんでも……」

 ざりっ。威嚇するすり足が、マルスとマルファを際へ追いやった。

 マルファが足腰に硬質な石を感じて振り返ると、下には川面が見えた。

 「追いかけっこは終わりだ。その方を返して貰おう」

 「う、でもなぁ。僕、この子のこと、もっと知りたくなっちゃったんだよね」

 「……どういう意味だ」

 「君も男だろ? 聞くなよ」

 サヤとウォンが微かに腰を落とす。空気の緊張がピンと張りつめて、一切の余裕を排除した。

 その時。

 「飛ぶよ!」

 「うぇぇ!?」

 「待て!」

 マルスがマルファの細身を抱えると、一気に空へ躍り出た。

 「ひゃああああ! やっぱりぃぃぃ!」

 「ごめん! これしかなかった!」

 ふわり。上昇する浮遊感は意外にもすぐに終わり、落下が始まった。

 「わ、わ、私泳げないの!」

 「君も? 奇遇だなぁ。僕もだよ!」

 「嬉しくなーい! どうす……うわわわわ!」

 落下を予測したマルファがマルスの胸に顔を埋めた。しかし、二人を迎えたのは、軽い着地音だった。

 「えっ?」

 「やあ、ちょうどだね」

 静かに降ろされたマルファが立っていた場所は、水上バスの屋根だった。

 「あ、あ、ああ」

 「いやーよかったね! 一時はどうなることかと思ったけど!」

 ふうー、と一仕事終えたマルスが額の汗を拭った。

 「どうなることか、じゃないわよ! 来なかったらどうするつもりだったの!」

 「いやでも、この橋に来る前から見えてたじゃない。ね、ね?」

 「ね、ね? じゃなーい!」


 マルファが地団太踏みながらマルスに抗議していると、下から野太い声が聞こえてきた。

 「おい、お二人さん! 乗るなら運賃払ってくれよな!」

 「ああ、悪いね船主さん!」

 「二人合わせて四百クレッゾだ!」

 船の後端に落ち着いたマルス達から見て、船主は三、四メートル程向こう側の斜め下にいる。

 「はい、これでよろしく!」

 窓から無理矢理身体を伸ばす彼へ、マルスは硬貨を投げた。

 が、放物線を描いた硬貨は船主の手に渡らず、マルス達の前に着地してきた女性がキャッチした。

 「あ」

 「船主。私の運賃も含める。六百クレッゾだ。納めろ」

 「うおお!? なんだあの姉ちゃん! 橋からとんでもない距離ジャンプしてきたぞ!」

 「見るからに強者だぁ! こりゃひと嵐来るぜ!」

 屋根の下にいる乗客が、身を乗り出して行方を見守る。

 そんな船内と船主も碌に見ないまま硬貨を投げ渡したサヤは、改めて腰から得物を抜き出した。

 「マジで? 彼女すごくない?」

 「サヤはお屋敷の中でもダントツだから、仕方ないわね」

 再び相対す。今度は川の上で、クリーム色の足場に身を任せたまま。

 「おい、飛んできた姉ちゃん!」

 「なんだ!」

 「ドンパチやるなら金がたりねぇぞ!」

 「いくらだ!」

 目標から目は逸らさず。サヤは声を上げた。

 マルスとマルファは、交互に声を張り上げる二人へ視線を右往左往して見守る。

 「運賃より一桁は上がらねぇと振り落とすぞ!」

 「なぜ私だけに言う!」

 「あんたが始めなきゃ、戦いはおきねーだろーが!」

 「くっ……」

 サヤが、得物を離した左手で、斜め後ろにサインを送った。人指し指を一本立てている。

 「これでどうだ、船主!」

 「わかったよ! 仕方ねえ! 一万クレッゾで勘弁してやらぁ!」

 「千だ馬鹿者! 一万なんて大金が出せるか!」

 「ちゃっかりしてるねあの人」

 「そうね。いやだわ」

 「おい! こっちを見ろ!」

 マルス達が会話していると、サヤが叫んだ。ほんのり、赤くなっている。

 「愚弄して……。許さん!」

 構え直したサヤが足に力を込めた、その瞬間。

 「はぁーいマルーバ!」

 「なっ……」

 「えっ?」

 水上バスへ並行するように、一台のバイクが水面を走ってきた。

 「あれ? アリシア!?」

 「奇遇ね! 何やってるのこんなところで?」

 「ちょうどよかった! 乗せて!」

 「えっ、ちょ、きゃああ!?」

 軽やかに二つの影が舞い降りた。急な増員にバランスを崩した大型バイクは、ぎりぎりのところで姿勢を保つ。

 「おい、貴様ぁ!」

 「ごめんサヤさん! もう少しデートさせて! アリシア、飛ばしてくれ!」

 「なんなのもう、仕方ないわねぇ……」

 「ちょ、わっ、ひあああああ!?」

 スロットルが解放されて、モーターが唸りを上げる。

 急な加速に頭を持ち上げたバイクは、そのまま、白い(わだち)を残して足早に突き抜けて行った。


 「残念だったなぁー飛んできた姉ちゃん!」

 「……ふん。少し時間が伸びただけだ。船主! 次の停泊所で降ろせ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄い!迫力あるシーンが、かっこよく、可愛らしく書けていますっ!
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