続 追いかけっこ
「これは……!」
ひらけた道の先には、大きな川が流れていた。
右へ左へ、無数の船たちが行き交う。オールを持って高らかに歌う筋骨隆々の男性や、何人もの乗客を乗せてゆったりと進む水上バス。穏やかな水面は、そよぐ風に揺られつつ陽光を反射していた。
「まずいな……」
思わず足を止めたマルスが呟く。その様子を見たマルファが、彼の胸元から声を上げた。
「マルス。左に行って。大きな橋があるわ」
「助かるよ」
「待てと言っている!」
蹴り出した足音が鳴り終わらないうちに、後ろからきた女性が降り立った。寸前のところで逃がした得物へ舌うちし、また疾走する。
「でもいいのかい? 僕に助言して」
「いいの。こうなったらとことん家出するわ」
「僕が悪いヤツとかは考えない?」
「そこまでうまく生きられる人とは思えないわ」
「あはは。なるほど!」
ぐんぐん迫る橋。アーチを描いて向こう岸まで渡る石造りの曲線まで、マルスは一直線に向かった。
「向こう岸に着いたらどうするの?」
「それは……。考える必要無いみたい」
マルスの足が急に止まった。彼と会話するため視線を瞳に向けていたマルファが先を伺うと、一人の男が橋の中央に立っていた。
「これは……挟み撃ちか」
「そうだ」
腕の中から降ろされたマルファがマルスの背越しに伺うと、すでに女性も近くへ来ていた。
「さあ、その方を返して貰おう」
しゃらん、と、鞘から細身の剣が抜かれた。