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決闘、青いギガントマキナ


『警告、多数の敵性照準を感知。警告、多数の敵性照準を感知』



 電子音声によるアラートが、コックピットの中に響き続ける。視界の中も、網膜投影によるレッドサインで一杯だ。俺とウィンクルムは今、前方スクリーンの視界百八十度、たくさんの青いマキナに囲まれている。



「カカッ! 小物どもが武器を構えていい気になっておる! 心配するなミチカズ、この程度ものの数ではないわ。理解させてやるといい!」


「この数とやりあって、勝てるのか?」


「造作なし! 言うたであろう、わしは無敵じゃと!」



 ならば、まだ余裕はある。

 こちらを囲んでいる青マキナ達は、銃兵器を構えているだけで撃とうとはしてこない。もう三分はこの状態のままなのだ、あちらも強硬にどうこうしようとは思っていないと見える。



「どうした? 山賊を一掃したミチカズであろう。ここも、共に踊ろうではないか」


「……奴らは国の軍隊だと言ったな? ウィンクルム」


「肯定じゃ。ただしわしが使われておった国ではないがの。国名などは知らぬ」


「国は相手に出来ない。ここで勝てたとしても、先が泥沼だ」


「腑抜けたことを! 操縦をわしによこせ!」


「あ、こらやめろ!」



 ウィンクルムが、勝手に大剣を構える。「カカカ!」 とウィンクルムのソプラノ音声が、外に木霊した。



「コントロールを持っていくなウィンクルム! 俺はパートナーだろう!?」


「う。むむむ?」



 不承不承と言ったていで、俺にコントロールを戻すウィンクルム。

 だがしかし、アラートがさらに激しくなっていた。大剣を構えるという『挑発』が効いてしまったのだ。



『警告、多数の敵性照準を感知。警告、多数の敵性照準を感知』



 大剣を仕舞おうかと思ったが、今下手に動きを見せるのは下策な気がした。動けば、また刺激しかねない。青マキナのパイロットが一人でも暴発したら、そこで全ては終わりなのだ。

 背中に変な汗が流れた。



 と、前方の青マキナが左右に分かれる。

 その後ろから、青マキナたちよりもひと際大きい――たぶんウィンクルムと同じくらいの大きさの――マキナ、青いギガントマキナが歩み出てきた。


 騎士のような鎧を模した装甲に片手剣、左手に持っている盾はギガントマキナの背丈と同じくらいの大きさをしている。先刻、街を襲っていた巨大機械ゴリラを仕留めた機体だった。



「〇〇! 〇〇〇〇!」



 青いギガントマキナのパイロットが、こちらに向かってなにかを叫んでくる。

 もちろんその言葉の意味は、俺たちにはわからない。



「〇! 〇〇!」



 だがその声は、苛立っているように聞こえた。苛立たれても困る。困るが、どうする術もない。

 いっそ、飛んで逃げてしまおうか。


 なんとなく閃いたその考えは、意外と悪くないものに思えた。

 逃げたことで不興を買ったとしても、戦闘となって相手に損害を出してしまうことに比べたら、いかに問題の小さきことか。



「今飛んで逃げた場合、マキナたちの射撃による被害はどの程度になる?」


「そうじゃのう。あの大きさの銃ならば、大したことにはなるまいよ」


「そうか。それじゃあ――」



 などなど会話をしていたら、相手の苛立ちが最高潮に達してしまったのか、あきらかに声音が変わってきた。



「××!」



 青いギガントマキナは盾を構えて腰を落とすと、こちらに片手剣の切っ先を向けた。挑発的な構えだ。

 そして、こう言った。



「×! ×××『デウル』!」


「デウルじゃと!?」



 青いギガントマキナの言葉に、ウィンクルムが嬉しそうな声を上げた。デウルとは、この世界の言葉で『決闘』を意味するらしい。ウィンクルムが、この世界の言葉で唯一知っている言葉。



「あ、こら! ウィンクルム!」


「その申し入れ、受けようぞッ!」



 

☆☆☆




「コントロールをよこせウィンクルム!」


「決闘じゃミチカズ! なに心配するな、わしにドンとまかせろ!」


「パートナーだろ、俺たち!」


「だからこそ、じゃ! わしの雄姿を見せてやろうぞ!」



 駄目だ、興奮しすぎで聞く耳持たない。

 俺は頭を抱えた。



「カカカッ!」



 ウィンクルムが、大剣の構えを変えた。下段に構える。



「案ずるなミチカズ、奴は決闘と言ったのじゃ。決闘は互いの名誉を掛けて行うもの、だからほれ」



 青いギガントマキナが、青マキナたちになにかを告げている。

 すると青マキナたちは、次々に銃を降ろし始めた。コックピット内のアラート表示がどんどん消えていく。音もまた、静かになっていく。



「――のう? むしろこの場は受ける一択ぞ」



 青マキナたちが後方へと下がった。

 街の外に、マキナたちが囲う半円状の広場が出来た。どうやらそこが、闘技場だ。

 青いギガントマキナが、こちらに背を向けて下がっていく。闘技場に真ん中まで下がるとこちらを向いた。



「〇〇! 〇〇〇!」



 こちらに何かを告げる。



「承知!」



 と、ウィンクルムが外音声で応えた。俺はウィンクルムに訊ねる。



「なにを?」


「さての」



 勢いだけで応えているのだ。俺はまた頭を抱えた。



「なあウィンクルム。あの機体をハデに壊したり、パイロットを傷つけるのだけはヤメてくれないか?」


「わしに手心を加えろと?」


「取り返し付かないレベルになると、俺が困るんだ。パートナーだろ?」


「む」



 ウィンクルムは言葉に詰まったようだ。やがて、これまた不承不承と言った声で、俺の頼みを飲み込んだ。俺はホッひと息、胸を撫で下ろす。



「では参るぞ!」



 即席で作られた巨大な闘技場に足を踏み入れるウィンクルム。

 青いギガントマキナは、既に腰を落として大盾を構えていた。ガシュン、ガシュンと、ウィンクルムが大剣を下段に構えたまま歩く。青いギガントマキナを中心にして、円を描くように周囲を回っていく。対して大盾がズリズリと、ウィンクルムに合わせて回っている。

 常に大盾の正面がウィンクルムの正面に。合わせて、大盾の背後にいる青いギガントマキナも回る。


 ガシュン、ガシュン。ずり、ずり。

 ガシュン、ガシュン。ずり、ずり。


 ギガントマキナたちの立てる音が、闘技場の緊張感を高めていく。二機のギガントマキナが動くたび、大地から土煙が舞っていった。

 吹く風が、土煙を巻き上げて去っていく。



「カカカッ!」



 嬉しそうな笑い声。

 先に動いたのは、もちろんウィンクルムだった。下段に構えた大剣を、逆袈裟切りに振り上げていく。

 ――ガイィン! と大盾を殴りつけた。下から、掬い上げるように。

 大盾が、青いギガントマキナの左腕ごと大きく浮き上がる。左腕がバンザイの形にまで浮き上がり、盾でガードしていた腹が剥き出しになった。そこにウィンクルムが前蹴りを入れる。

 青いギガントマキナは大きくよろめいて――、仰向けに倒れた。

 倒れた上に、大盾が落ちていく。重そうな大盾が、青いギガントマキナの胸コックピット目掛けて落ちていく。危ない。



「ウィンクルム!」



 俺は思わず叫んだ。



「案ずるなわかっておる」



 大剣を切り返したウィンクルムが、大剣の腹で大盾を弾いた。軌道を逸らした大盾が、土の大地に深々と突き刺さった。

 勝負は一瞬で決まったのだった。




☆☆☆




 ざわざわと。

 闘技場を形作っていた青マキナのパイロットたちが声ならぬ声を上げている。

 青いギガントマキナは動かない。

 ざわざわ、ざわざわと。しばしの時間が経過した。



「〇〇〇、〇〇!」



 騎兵が一人、女性を馬の後ろに乗せて即席闘技場の中心へとやってきた。拡声器のようなものでも使っているのか、肉声ではない大声でなにかを告げた。

 周囲の青マキナが武器を完全に収め、一斉に膝をつく。

 


「〇〇! 〇〇!」



 騎兵は俺たちを見上げると、こちらに紹介するような手振りで、馬の後ろに乗せた女性を地面に降ろした。あれは……、馬車の御者をしてくれていたシクラナだ。


 シクラナがこちらを見上げ、なにかを言っている。



「〇〇! ミチカズ! 〇〇〇!」



 懐から、なにかを出してこちらに見せていた。

 前面モニタを使ってクローズアップすると、それはゼイナルさんの蝋印が付いた封書だった。ゼイナルさんが彼女にも持たせていたものだ。

 馬に乗っていた騎士も、いつの間にか馬から降りて、シクラナの隣にいる。シクラナは、その封書を騎士に渡した。騎士が封書をこちらに向かって掲げ、その後に右腕を胸の前に置いた直立姿勢を取る。

 どことなく敬礼に似たその姿勢は、小屋でゼイナルさんが俺に向けてみせたものと同じだった。



「〇〇〇! ミチカズ!」



 と、騎士が俺の名を呼ぶ。

 封書を掲げ、俺の名を呼ぶ。

 どうやら悪い空気ではない、シクラナが封書を使ってなにか説明してくれたようだ。



「無事に、済みそうじゃの」



 ウィンクルムがちょっと疲れたような声でそういった。



「ああ」



 俺もまた、疲れた声で応じてしまった気がする。ウィンクルムのコントロールを得た俺はウィンクルムを片膝立てにしゃがませて、コックピットの外に出た。

 壮年の騎士が破顔したまま俺を迎え、俺の手を取った。硬い握手を求められた。



「こ、こんにちは」



 俺がそう言うと、きょとんとした顔で、壮年の騎士はこちらを眺め。――シクラナになにか話し掛ける。シクラナがなにか言うと、うんうん、と頷いてこちらに向き直った。よくわからないが、騎士が笑顔なので俺も笑顔でいることにする。

 笑顔は万国共通だ。



 と、壮年の騎士が青いギガントマキナに向かって右手を振る。

 仰向けに倒れたままのギガントマキナのコックピットが、開いていた。コックピットの縁に手が掛かった。白い手袋だ。指が、細い。


 すっ、と。

 コックピットからパイロットが現れた。それは淡い水色の髪をした、ベリーロングの女の子。軍服だろうか、襟元のしっかりした紺色の服がピッタリと、スレンダーな身体のラインを浮かび上がらせていた。スカート姿だ。

 前髪の下で、勝ち気そうな目を不機嫌に細めた女の子が、こちらを見る。

 一瞥されて、プイ。すぐそっぽを向かれたが、俺はしばらくそっちに目を奪われてしまった。



「はん、殺しておけばよかったかのぅ」


「おい」



 ウィンクルムが物騒なことを言った。


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