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帝国軍の介入


「この黒い蜘蛛型は射撃武器を使用してくるのか」



 スクリーンを赤外線カメラに切り替え、俺はウィンクルムにアークソードを握らせた。両手で大剣を振り上げ、走り込む。射撃は、ボディで逸らすように受けた。



「そうだミチカズ、わかってきたではないか! わしならこの程度の弾、受けて逸らせばよい!」



 ウィンクルムの称賛を背に受け、俺は蜘蛛型の機甲魔獣に斬り込んだ。

 小型で足が速く射撃武器を保有するタイプ。

 ある意味人間にとっては一番厄介な機甲魔獣だろう。この付近からあっと言う間に人が居なくなったのもわかる気がする。難民になって、という意味だけでなく殺されて、という意味も含めてだ。


 蜘蛛に接近し、斬り払う。

 アークソードのエネルギーが持つ時間内に、中型の人間型――ギガントマキナに似た、鎧を着た騎士のような機甲魔獣だ――を出来るだけ処理してしまいたい。俺はそのまま敵陣の奥へとウィンクルムを走らせる。

 すると、まるで騎士型の機甲魔獣を守るかのように、蜘蛛が行く手を阻んでくる。



「……?」



 なんだろう、この違和感は。

 俺は大剣で蜘蛛を払いながら訝しんだ。

 前方の蜘蛛を薙ぎ払うと、今度は横に、一定の距離を取りながらこちらへと射撃をしてくる蜘蛛。

 ウィンクルムの右手に仕込まれたアームカノンで、その蜘蛛を蜂の巣にしながら、やはり違和感を覚える。試しに、距離を置く蜘蛛に向かって近づく素振を見せてみた。

 蜘蛛は一旦射撃を止め、逃げようとする。



「……なあウィンクルム」


「うむ」



 俺たちは頷いた。違和感の正体に気づいたのだ。



「こやつら、『考えて』おる」



 味方を守る。距離を取る。

 どれも今まで戦った機甲魔獣には見受けられなかった行動だ。この黒い機甲魔獣たちは、つたないながら連携して戦っているのだ。



「厄介だな」



 つたなかろうが、連携されると数の優位が生まれかねない。ここは急いだ方が良さそうだ。俺はレバーを押し込み、一気に騎士型魔獣に接近した。

 頭からの上段斬り、一閃。

 剣で受けさせることも許さず、騎士型魔獣の一機を屠る。そのまま騎士型の群れに踊り込んだ。



「連携を取るなら、これはこれで射撃がしづらかろうさ!」



 思った通り、蜘蛛たちの射撃が止まる。

 俺はウィンクルムで騎士型の横を摺り抜けつつ、敵を両断する。騎士型は片手剣を持っているが、どうやら動きが鈍い。攻撃アクションを起こされる前に接近して斬り抜けるという動きで、そのまま二機を破壊した。



『六時方向より援軍。登録機体、オーレリア機です』



 戦術AIの報告に、俺は思わず後ろを見た。

 オーレリアの戦闘マキナが、新兵器のライフルを構えて遠くに立っている。スピーカーによるコミュニケーションは取れない距離だ。



「後ろで待っていろと言ったのに」


「待っとるわけないじゃろ、あの小娘が」



 オーレリア機が、こちらの空に向かって閃光弾を発射した。俺はカメラを赤外線から高感度に切り替えて、三百六十度モニタの画像を調整する。

 昼間ほどとはいかないが、戦場が明るくなった。

 残りの騎士型は、あと四機。



『アークソード、使用可能時間、一分を切りました』



 アークソードはエネルギーが切れて斬れ味が落ちても、質量兵器として機甲魔獣に有効だ。それはこれまでの戦闘で立証済みだった。それでも一撃で倒せる間に、出来る限り多くを倒しておいた方が楽なのは間違いない。あと一機くらいは倒しておきたいと俺は思った。



「まてミチカズ、小娘の機体がライフルを構えておる」



 俺は動くのをやめて、オーレリア機の方を見た。

 遠くから、ドゴオ、と轟音。ライフルの銃身から雷光が噴き出した。

 チュン、という空気を切り裂く音と共に、小さな弾丸が飛んでいった。弾丸は、黒い騎士型機甲魔獣の一機に、見事命中。胸の装甲を貫いた。


 パリパリ、と、その騎士型の周りに一瞬電子光が輝く。

 胸を貫かれた騎士型魔獣は、まるで人形のように力なく、その場に落ち崩れた。


 見た目は凄く地味だったが、これで実験は成功なのだろうか?

 遠くて意思疎通も出来ないので、俺にはわからない。



『高エネルギー反応、接近。十時方向からです』



 遠くから白い光が近づいてきていた。

 闇を引き裂きながら迫る、幾筋もの光条。



「避けよ、ミチカズッ!」



 ウィンクルムに言われるまでもない、俺はその光の『束』を横に避けた。

 騎士型魔獣と蜘蛛たちが、一気に光の中に飲み込まれていく。飲まれながら、手が千切れ足が千切れ、それぞれ爆発していく。

 圧倒的な光景に、俺は息を呑んだ。

 こんなのをモロに食らったら、ウィンクルムとて流石にたまるまい。



「これは帝国の兵器じゃな、見たことがあるわい」



 舌打ちでもしたげな口調で、ウィンクルムが吐き捨てた。



『索敵範囲を戦闘モードから広域モードに変更。十時方向、三キロメートル先に巨大機体と思われる光点を確認』


「帝国の戦艦級だろうの」


「戦艦だって? そんなものがあるのか!」


「わしが勝手にそう呼んでおるだけだがの。ルミルナ眼鏡が作ったマキナキャリーをもっと大袈裟にしたものを思えばよい。もちろん、武力特化でな」



 と、オーレリアの戦闘マキナが、ウィンクルムに近づいてきた。



「なんなのあの光は!?」



 外部スピーカーによる会話で、心配そうな声を掛けてくる。俺は今ウィンクルムとしていた話を、オーレリアに伝えた。



「戦艦……。聞いたことないけど、凄い攻撃だったのはわかるわ」


「オーレリア、閃光弾を打ち上げてくれ。こちらに戦闘の意思なし、状況青のものでいいだろう」


「わかったわ」



 こちらが閃光弾を上げると、しばらくして向こうも同じ閃光弾を上げてきた。

 どうやら意思の疎通が出来たようだ。

 俺たちは、極々平和的に、戦艦級の帝国大型トレーラーとご対面することになったのだった。




☆☆☆




 閃光弾を見て、後方で控えていたルミルナたちもこちらにやってきた。

 助けた帝国軍の非戦闘用マキナも一緒だ。計三機、ルミルナが指揮するマキナキャリーの後ろについてきていた。


 帝国の戦艦がその姿を見せたのは、ルミルナが到着してからしばらく経ったのちだった。



「ぎゃー、なんですかーあのおっきいのはー! ミチカズさーん!」



 マキナキャリーに乗ったルミルナが、わざわざ拡声器を使って俺に問い掛けてくる。

 俺も帝国戦艦の大きさにはビックリしていた。

 巨大な戦車とでも言うのか、鉄の箱とでも言えばいいのか、学校にある体育館級の大きさの塊が、ゆっくりと近づいてくる。高さ的にはウィンクルムより一回り高いくらいか。だが、以前戦った亀型の機甲魔獣に負けず劣らずの大きさだ。それが大きな車輪とマキナの足に支えられ、不器用そうに地上を移動しているのだ。ちょっと動きが気持ち悪い。


 周囲は、とても明るい。

 おそらく魔法の光なのだろう、前面、側面に付いた無数のライトが夜の闇を照らしながら接近してくるのは、この世界ではなかなか見れない光景だ。光をまき散らしながら、ガシャコンガシャコンと百足むかでのような足運びをする巨体。ある意味、ちょっとした見ものだった。



「音が五月蠅いのぅ」



 ライトの光だけでなく、音までもが夜の闇を切り裂いてくる。

 ズシン、ズシン、と重量級の地響きを立てるマキナの足、ギャリン、ギャリンと鉄が擦れる音を立てながら回る六つの車輪。

 巨影が、俺たちに接近してくる。

 閃光弾での反応から戦闘などにはならないと思うが、やはり緊張する。俺は息を飲みながら、その光景を見つめていた。


 戦艦は、ウィンクルムの大きさを以ってしても見上げる必要がありそうなくらいの位置まで近いてきた。ウィンクルムほどの高さに居ない俺以外からは、きっと夜空の月までも隠されてしまった状態だろう。それでもきっと、周囲は明るいのだ。戦艦の光で。

 そして戦艦は止まったのだった。


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