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敵を追う


「てめーら! 目標はあの馬車の中だ! 間違えんなよ!」



 賊のリーダーらしき男が、先頭を走りながら仲間を鼓舞する。

 応じた賊の仲間が、馬を駆って馬車へと一直線に向かっていった。

 賊と機甲魔獣の蜘蛛が、雪崩のように押し寄せてきたのだった。



「馬車を守れっ! 魔法兵、近づかれる前に削れっ!」



 ゲルドの声に応じたポーたち魔法兵が、なにやら詠唱を始める。数瞬後、巨大な火の玉が三人の頭の上に形成された。それを、放り投げるように賊と蜘蛛の集団へと向かって発射した。



「散開!」



 賊のリーダーが指示をするまでもなく、賊は火の玉を回避しようとして動いている。だが次の瞬間に起こった大爆発は、蜘蛛だけでなく逃げ遅れた賊をも巻き込んで炸裂した。

 大きな爆発音と共に、熱風が俺の頬まで拭いてくる。

 火柱が、夜空まで上がった。



「この野郎がっ!」



 賊のリーダーが馬に乗ったまま三人の魔法兵に向かっていく。ゲルドが三人を守る為に、これもまた馬を駆って近づく。賊のリーダーとゲルドが、剣を合わせた。



「邪魔するなこの野郎!」


「おまえらの邪魔をするのが俺の仕事だ!」



 巨大蜘蛛を倒した俺だが、一行から離れた場所に居たので、フォローが利かない。走って馬車の方に戻ろうとするが、蜘蛛が絡んでくる。

 見れば賊たちも蜘蛛に絡まれて難儀しているようだった。

 戦場に、混乱だけが拡大していく。



「親分、蜘蛛がっ! うわあぁぁあっ!」



 蜘蛛に引き裂かれる賊も居た。それでも怯まず、一直線に馬車へと向かう賊がいる。その賊が、馬車の御者を斬り捨てた。そのまま御者台に座る。



「確保しました親分!」


「先に走れ! あとからいくっ!」



 馬車の御者台に座った男は、なかなかの手練れのようだ。

 男を止めよう御者台に乗り込もうとするこちらの味方を牽制し、近づかせない。そうこうしているうちに、もう一人の賊が御者台に陣取った。馬に鞭打ち、この場から走り出す。護衛の為か、敵のマキナも一目散にこの場を離脱して馬車を追う。



「ミチカズッ! 追ってくれッ!」



 賊の親分を剣を合わせているゲルドが、俺の方を見た。

 俺は頷く、蜘蛛なんかにかまけている場合ではない。近くの賊を見つけ、そいつにナイフを突き立てる。賊を馬から追い落とし、その馬を奪った。

 とはいえ、俺は馬に乗れない。



「ポー! また馬を頼む!」



 馬の手綱を引きながら、俺はポーの方に走っていった。蜘蛛を切り裂き、時には無視し、どうにかポーと合流する。



「馬車を追うんだよね? ミチカズ?」


「そうだ、頼む!」


「頼まれたー」



 馬車を確保した賊たちは、それぞれ戦場から離脱し始めた。

 中には蜘蛛を無視しきれずに絡まれ、落馬した者もいる。賊のリーダーもまた、ゲルドの隙を付いて戦線を離脱しようとしていた。ゲルドが後ろから追いかけていく。


 俺はポーを馬に乗せるとその後ろに乗った。ポーが馬を走らせる。



「まずはゲルドに追いつこう。そうしたらポー、前に見せて貰った弓矢への防御魔法は使っておけるか?」


「プロテクトアローかな? シーリスほどじゃないけど、ボクも使えるよ。掛けとく?」


「よろしく頼む。ゲルドに追いついたら、ゲルドにも掛けてやってくれ」


「あいあーい」



 馬で追いかけるとき厄介なのは相手の弓矢だろう。

 距離を取られて複数から射かけられたら面倒だ、だから先に対処をしておく。

 やがて俺たちは、ゲルドの馬に追いついた。



「畜生、してやられた」



 ゲルドが舌打ちする。俺は、しょうがない、とゲルドに首を振る。



「あれだけの蜘蛛に対処しながらだと、守る方が不利だ。切り替えようゲルド、ここから奴らを逃がさなければいいんだ」


「それはそうだが……、どうする、こちらは二人だ」


「さんにーん」



 と、ポーが主張する。



「おっとこりゃ悪かった。三人だ、ミチカズ」


「でも馬に乗りながらだと簡単な魔法しか使えないー」


「十分だ、ポー。敵の頭数を減らせないか?」


「スリープさせてみようか? 極度の興奮状態だろうからどれだけ利くかわかんないけど」



 減ってくれれば御の字だ。俺はそう頷いて、ポーにまかせた。

 ポーは馬を操りながら杖を持ちなおすと、器用にムニャムニャなにかを唱える。 



「スリープ!」



 途端、前方を走る敵の二人が落馬した。寝たのだ。

 落馬の衝撃ですぐ起きただろうが無防備に落ちたのだ、きっと怪我をしたに違いない。すぐには追いついてこれまい。



「上出来!」



 前方を走っている敵は、馬車を抜かすとあと五人と言ったところだった。その中には賊のリーダーも含まれている。



「リーダーを任せてもいいか? ゲルド」


「わかった。奴は俺がどうにかする、ミチカズ、おまえは?」


「ポーに馬車まで寄せて貰う。そこから馬車に移って馬車を止める」


「りょうかいだよー」



 それぞれ役割は決まった。

 この間、予想通り、前の賊から弓矢が飛んできていた。しかしポーの魔法のお陰で、俺たちは余裕を持って相談ができた。



「畜生矢が効かねえ! 囲め、おまえら!」



 俺とポーが乗った馬を、四人が囲みに来た。囲まれるとポーを守り切れない、俺はポーに指示をし、囲まれぬように動いて貰うことにした。

 その上で、一人づつ、倒す。

 最初の一人は、ポーを狙ってきた。俺はポーの頭を押さえつけ屈ませると、ナイフで相手の脇腹を刺した。体制を崩した男を蹴飛ばして、落馬させる。

 落馬した賊を避けようとした敵を、今度は返す刃で切り裂く。俺は下半身で馬にしがみついたまま、上半身を敵の方へと伸ばしてナイフの切っ先を届かせた。落馬した賊に気を取られていた敵の喉を、横一文字。俺は二人めを倒した。



「ひいいっ!」



 それを見て怯んだのか、一人の賊が、馬を翻してこの場を離脱した。

 もちろん追わない。この場の敵が減るのは願ったりだ。

 四人目は大きな剣でこちらの馬を狙ってきた。リーチも活かされて、俺のナイフは届かない。ポーが見事な馬術で剣を避けるも、こちらからは近づけない。じり貧だ。

 しばらく避けに徹していたポーだが、やがて業を煮やしたのか「もー怒った!」と杖を手に取る。



「ちょっとミチカズ! 手綱お願い!」


「えっ? うわわっ!?」



 突然ポーに手綱を任された。

 馬術の心得がない俺だ、馬が一気に遅くなり、敵と距離が離れた。その間を利用して、ポーがムニャムニャ何かを唱える。



「ライトニングー!」



 ポーの杖先から大剣に向けて、稲光が奔った。

 月明りの下、眩しくて一瞬目が泳ぐ。大剣を持った賊の身体が硬直したと思うと、馬ごと倒れる。前方から倒れた馬と男が転がってきた。いかん避けられない。



「ほいっと!」



 ポーが俺から手綱を奪い取り、馬をジャンプさせる。転がってきた男と馬を飛び越え、華麗に着地。俺はポーにしがみついた。



「あーもー、だからー!」



 俺はまたポーの胸に手を伸ばしてしまったのだ。「エッチー」とか「スケベー」とか言われながら、俺はポーにポカリと殴られた。



「すまないポー! だがそれはあとだ、俺を馬車に頼む!」


「あとじゃ済まなーい!」



 言いながらもポーは急いで馬を走らせてくれた。

 馬車に並走して、緑色のマキナが走っている。マキナは俺たちが近づいていくと、上半身だけを後ろに向けて手に持った銃から光弾を連射してきた。



「うわわー、こわっ!」



 俺の目には、光弾の軌跡が予め見えている。俺はポーに指示を出した。



「右に避けろポー。次は一呼吸して、左。よし前進だ、先にアレを黙らせる」


「すごいミチカズ、まるで攻撃の来る方向が見えてるみたい!」



 見えてるのだが、それは言わない。

 ポーもよくそんな俺を信じてくれた。ありがたいことだった。


 マキナに接近した。俺は横からマキナに飛び移る。

 さっきから狙うべき場所は見えているのだ。ナイフをマキナの胴に突き刺し、横に線を引く。火花を散らしたナイフが、まるでバターを切るような手軽さでマキナの鋼鉄を引き裂いていく。



「ミチカズ、こっち!」



 煙と火花に巻かれたマキナを後にして、俺はポーの馬に戻る。

 マキナは胴の半分を失い、バランスを崩して転げた。そのまま地に伏し、爆発する。



「やったね!」



 そのままポーは、馬を馬車に寄せてくれた。




☆☆☆




 俺は馬車の後ろから幌の中に踊り込む。

 荷台には、人間の身長くらいある大きな魔法石が箱に収められて積まれていた。これが、奴らの目的物だ。

 御者台から幌の中に、一人の賊が入ってくる。手にはメイスを手にしていた。短い棒状武器の先端に、鉄の塊を備え付けたものだ。ナイフで受けられるような武器ではない。剣に比べて小さな武器だが、当たれば骨を砕かれる。むしろこういう狭い場所では、取り回しがよくて強そうな武器だった。



「なんのことはない、全て避ければいい」



 俺は自分に言い聞かせて、ナイフを握りしめた。と、そのとき。

 メイスを持たぬ方の腕を、賊が正面に突き出してきた。



「ライトニング!」



 敵の攻撃を示す赤いラインが一瞬奔ったかと思うと、次の瞬間には稲光が幌の中に輝いた。俺は咄嗟にナイフを手放す。ナイフに向かって、雷光が迸った。

 ――危ない!

 あれは目で攻撃の軌跡が見えても避けられるものじゃない。



「くはは、よく避けた! だが次は避けられるかな? ――ぐえ」



 避けられる自信はない。だから先に倒す。

 俺の繰り出した前蹴りが賊のみぞおちに入り、賊はもんどりうった。倒れているところを、鼻っ柱に向かって正拳突き。みちり、と鼻の折れる感触が拳に伝わってくる。足で踏み抜かなかったのは、一応情けのつもりだった。



 俺は落ちたナイフを手に取り、御者席まで歩いていった。

 馬車を動かしていた賊の首元にナイフを添え、声を掛ける。



「馬車を止めろ。俺はおまえをいつでも殺すことが出来る」



 御者をしていた賊は、両手を上げた。

 御者の管理を離れた馬はすぐにゆっくり走りになり、やがって馬車は止まった。



「やったじゃん、さすがミチカズー」



 馬車の横を馬で並走していたポーが、楽しそうに拍手してきた。

 ポーの言葉が耳にこそばゆいのは、今回はポーの世話になりっきりだった気もするからだ。これはゲルドに言って、ボーナスを弾ませるしかあるまい。


「ポーのおかげだよ」と素直な気持ちでいうと、「でへへー」と珍しくポーが照れた。



「本当のことを言われると、テレちゃうなー。もっと言っていいよ?」



 俺が笑っていると、後ろからゲルドの馬がやってきた。

 ゲルドに手を振ると、ホッした顔を見せる。

 こうしてどうやら、俺たちの作戦は成功した。あとは、ウィンクルムがうまくやってくれていることを願うばかりだ。




☆☆☆




 結論から言うと、ウィンクルムも上手くやってくれていた。

 大方の予想通り、賊はウィンクルムと事を構える気はなかったらしい。こちらの戦いと同様、機甲魔獣を召喚したどさくさに紛れて国境を突破しようとしたゲイグランとマキナだったが、ウィンクルムが来ると賊はスモークを焚き、機体を捨てて逃げ去ったという。

 


「なんじゃツマラン。貧乏クジを引いてしもうた」



 ウィンクルムは不服そうに言ったものだが、俺たちとしては手間も少なく最上の結果と言えた。

 こちらで捕まえた賊は、ゲルドとアルフバレン候が主体となっての尋問に掛けられた。敵のリーダーもしっかり捕らえている。事件の全貌が明るみに出るまで、そう時間は掛かるまい。


 そしてこの日、俺はアルフバレン候とゲルドに連れられて、ここに立っている。

 ここ、とはレイストル伯の城の前。


 尋問の結果、内通者がわかったのだった。


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