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冒険者たちの戦い


 ミリーティア国軍の軽装鎧を着た男たちの集団が、剣を抜いた。

 街道のど真ん中で大声を上げながら俺たちを囲もうとしてくる。



「そいつ、ミチカズを捕らえろっ! そいつさえ確保すれば人質にできる!」



 おおっ! と、声を上げる軽装鎧の男たち。

 指示を出したリーダーらしき男が、俺に迫ってきた。赤いラインが俺の腕に向かって伸びてくる。どうやら致命傷にならぬよう手加減をしているようだ。

 俺が一歩後ろに下がると、護衛の冒険者たちが俺とリーダーの間に割って入る。冒険者リーダーのウェイツだ。



「おまえらミチカズを守れ! それだけでいい!」



 盾を持った金属鎧の冒険者が俺の前に出る。

 囲んでこようとする敵を剣と盾で弾き、完全包囲を許さない。俺も彼の後ろで、彼が殴り損ねた相手をナイフで牽制した。



「プロテクション!」



 後ろから何かの詠唱が聞こえてきたかと思うと、身体の周囲が一瞬ほんのり光った。ローブの女性の魔法だろうか、効果のほどは定かではないが、察するに防御的な効果の魔法だろう。

 敵の人数は二十人ほどの多勢だった。俺と盾の男、ウェイツの三人で対応できる人数などたかが知れている。案の定、数人の敵が後方に位置取りしていたこちらの魔法使い二人に向かって走っていった。

 俺は目の前の敵を倒すと、すぐさまそいつらの後を追う。と。



「ウォールライトニング!」



 帽子を被った男の子が詠唱を終えると、無数の雷が壁のように立ち塞がる空間ができた。半円の形で二人の魔法使いを守るように現れたその壁が、敵の行く手を阻む。

 怯んだ敵に、俺は後ろからナイフで斬りつけた。背中の肉を割かれ、うずくまる敵。



「スネア!」



 今度はローブ女性の魔法だ。

 半円の電撃地帯を避けるように大回りしていた敵がバタバタと転ぶ。追いついた俺は、倒れた相手の頭を、サッカーボールのように蹴り飛ばしていく。



「ミチカズ、援護に参ったぞ!」



 後方五百メートルで待機していたウィンクルムが、ガチュンガチュンと足音を立てながら走ってきた。

 それを見た敵のリーダーは、ウェイツと剣を合わせるのをやめて後ろに引く。



「退けっ! 退け―っ!」



 そう指示を出し、自ら先頭となって馬を走らせる。俺を即座に拘束できなかった時点で、奴らに勝ち目はなかったのだ。敵のリーダーはそれを理解していた。

 ウィンクルムが右腕からアームカノンを撃つと、幾頭かの馬が乗っている人ごと消し飛んだ。俺はウィンクルムを声で制し、撃つのをやめさせる。そこまでやる必要はあるまい。



「なんじゃもう終わってしもうた」



 どことなく不満げなウィンクルムに、俺は苦笑してみせた。



「こんなの、すぐ終わるに越したことないんだよ」


「ちがいねぇ」



 隣にきたウェイツが俺の肩を叩く。



「――にしても、あんたなかなかやるじゃないかミチカズ。マキナライダーなんかさせとくのは勿体ない。いい冒険者になれるぞ?」


「なに言ってるのウェイツ。私たちみたいなヤクザな商売より、マキナライダーやってた方が全然いいに決まってるじゃない!」


「や、シーリス。言ってみただけさ」



 そういって冒険者たちは笑った。

 あの人数をあしらったのだ、彼らはなかなかの手練れなのだろう。俺の護衛に専念したのも見事だ、流石に戦い慣れている。彼らは敵の一人を選んで馬車の中に押し込んでから再出発の用意をした。縄で括ったその男から、道中に情報を得るためだ。




☆☆☆




 馬車の幌の中、俺たちは馬車に揺られている。

 男への尋問が終わった。尋問と言っても暴力的なことはなに一つしていない、諦めがいいのか忠誠心がなかったのか、すぐにペラペラ喋ってくれた。

 男の素性は、ウェイツが言う通り帝国の出だった。あの軍団は帝国出の傭兵団で、今回の仕事はこの馬車にある魔法石を奪う、というものだったらしい。

 命令書や蝋印の偽造をどうやったのかは、リーダーしか知らないとのことで、男からはなにも情報が得られなかった。その他、奪ったあと雇い主へどう渡すかなどのルートも、全てリーダーの頭の中だそうだ。



「秘密主義だねぇ、相手のリーダーさん。それじゃ人望を得にくいだろうに」



 ウェイツが腕を組んでそう評した。

 男の話によると、彼らの傭兵団は帝国からこちらに来たばかりで、今回の依頼が初の大仕事だったそうだ。俺は気になって、男に聞いてみた。



「おまえたち、帝国の軍とも関係あるのか?」



 男はもう諦めているのだろう、言い渋ることもなく問いに答えてくれた。



「ある。今回の仕事がどうかはわからないが、軍絡みの仕事を何度か受けたことがある」



 軍に絡む依頼だとするなら、これで終わりではないかもしれない。またなにか仕掛けてくるかも、という可能性を拭い切れなかった。

 俺はウェイツの顔を見た。

 ウェイツも同じことを考えたのだろう、俺と目が合うと頷いた。



「あるかのぅ、リベンジ戦」



 通信機越しにウィンクルムが、ちょっとワクワクした声を上げる。しかし結果的に、この後俺たちは特に異変という異変に遭うこともなく、無事オルデルンに到着したのだった。




☆☆☆




「世話になったね、ウェイツ」


「なぁに。報酬も美味しい仕事だったし、内容もほとんど馬車の中で寝ていただけさ」



 マキナの整備場は今日も盛況だ、メカの動く音や整備兵の声が俺たちの会話の合間合間に耳へと届いてくる。俺はそんな音に負けないよう、力を込めて大きめな声でウェイツと話をする。



「それでも肝心なときには、ちゃんとやることをやってくれた。感謝するよ、キミが居なかったら魔法石をまんまと奪われていたかもしれない」


「いやいやそんな。世辞を言っても何も出ないぜ?」



 まんざらでもなさそうに、頭を掻きながら手を振るウェイツ。



「ま、おまえさんも凄かったよ、あの身のこなし。ひと目見りゃわかる、若さに似合わぬ熟達だ。もし軍を辞めることがあったらギルドにこいよ、冒険者一同歓迎するぜ」


「覚えておく」


「じゃあなミチカズ、縁があったらまた会おう」



 そうして四人の冒険者は整備場を去っていった。

 スマホでもあればメール交換していたところだが、そういう物はない世界である。果たしてまた会うことがあるのだろうか。よほどの偶然でもない限り、会えることはない気がする。そういうものだ。



「おーいミチカズ」



 と、これはオーレリアの上官であるゲルドの声だった。

 魔法石受け渡しの手続きが正式に終わったらしい、受け取りの書類を持ってきてくれた。これで、俺の仕事も完遂。オーレリアに怒られずに済んだ。



「御者から渡された報告書は読んだ。まさかレイストル城伯の偽造印まで使った族が出てくるとはな。その傭兵団とやらがどういう小細工を使ったのかわからんが、こちらも冒険者たちを雇ってなかったら危なかっただろう。そいつらに礼の一つでも言いたいのだが……」


「ゲルドと入れ替わりに出ていってしまいましたよ」


「む。そうか仕方ない」



 ゲルドはちょっと残念そうに片眉を潜めて笑った。



「……でな、ミチカズ」


「はい?」



 ちょっと神妙な顔で、ゲルドがこちらを見た。



「今回の件で、レイストル城伯がおまえの顔を是非見たいというのだ」


「はあ」



 確かレイストル城伯とは、この街の執政者だったか。偉い人なのだろうが、城伯という単語がどうにもピンとこない。



「なんでまた、俺のような者の顔を?」


「伯の偽造印が使われたのだろう? その話を、とのことだが」


「別に話せるようなこと、なにもありませんよ俺?」


「だろうな。まあ、本題はきっとそっちではないだろうよミチカズ。おまえは今やこの街の軍内部では有名人だ。ジ・オリジナルを操縦するパイロットとしてな。大方そちらの話が主眼なのだろう」



 なるほど。ウェイツも言っていたが、俺は今ちょっとした話題の中心にいるらしい。気を付けなければいけないな、とゲルドの言葉に難色を示してみせた。



「ゲルド、俺は言った通り異世界から来た身なので、礼儀も碌に知らなければ、こういうときの処し方もわかっていない。もしその話を断ったらどうなるんだ?」


「不興を買うな」


「やっぱりそうだよなぁ」


「身分の高い方々の思考なぞどの世界でも同じなんじゃないか? 世界はかの方々の手で回る、それなのに小さな子虫が自分を無視してきたら不快に思って当然だろう。虫だけに」


「会うほかないか」



 俺はゲルドの最後の言葉を無視した。

 


「あ、こら俺のダジャレを無視するな。俺だって上官なんだぞ一応」


「仲良くしたいから名前を呼び捨てにしろって言ってたじゃないかゲルド。対応も同じく相応にしたいものさ」


「まだまだ敬語混じりの半々、といったとこだがな」



 そう言ってゲルドは俺の肩をバンバンと叩いた。



「謁見の日時は追って伝える。礼儀作法は……、そうだなルミルナにでも聞いておけ。あれであいつは、良いトコのお嬢様だ」



 ルミルナ。

 言語魔法のエキスパートにして、マキナの理論博士だという彼女だ。眼鏡の奥で、なんにでも興味を持つ大きな目をまんまるにする、ボサボサ金髪の女の子。

 あれで、というあたり、ゲルドがルミルナをどう思っているかの片鱗がわかるが、俺もそこには同意だ。良いトコのお嬢様には、あまり見えなかった。



「わかりました」



 それでもこう答えるしかない。なにせオーレリアたちがまだ採掘場から戻っていない以上、俺のこの街での知り合いは殆ど居ないのだから。



「謁見か……」



 俺はちょっと憂鬱になった。


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