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くそったれ

作者: あきしげ

10年ぶりに書いた短編小説です。

くだらないネタでどこまで書けるか挑戦しました。

「脱糞だぁぁぁっ!」


人生で一番声を出した瞬間だった。

オレの声はどこまでも響き渡り、キョトンとしているヤツらにしっかりと届いている。


その時、オレは確実な勝利を手にした。


しかし、この勝利には多大なる犠牲を強いられる。

それでも、オレは世界が終わってもいいという気持ちで力強く叫んだ。


すると、ヤツらの表情は見る見る強張っていくのが分かる。


「ザマァみろ」


思わず心の声が漏れてしまった。

そりゃ、漏らさずにいられないだろうが。

なぜなら、ヤツらは自分たちに起きた異変を徐々に理解し、その顔は段々と青ざめていく。


オレはただいま、最高の時間を堪能している。

何度も何度もオレを陥れて、無様な姿をあの子に見られてしまった。

こんな屈辱は16年生きてきた中で最大の汚点だ。


だが、オレはついに実行した。


思えば、あれは妙に眠れない夜だった。

目を瞑ってもまったく寝る気配がなく、オレは空虚な天井を見ていただけだった。


そして、


「ヒヒヒ。お前、俺様が素晴らしい“力”を与えてやる。ヒヒヒ。どうだ?やるか?」


突然、天井から赤い目が浮かび上がると、真っ直ぐオレに話しかけてきた。

オレは夢でも見ているのかと思ったが、しばらくの沈黙と赤い目との睨み合いの中、時計の秒針が一定のリズムを刻むのが分かった。


「えっ?」


ようやくオレは目の前で起きている異常事態に寝ているのか、起きているのか定かじゃいい脳ミソがマヌケな反応した。


「ヒヒヒ。断ってもいいぜ。ただ、こんなチャンスはもう二度とない。ヒヒヒ」


口角がまるで三日月のような笑みを浮かべる何かがオレに選択を迫っている。

このまま無視してもいいが、滅多に体験出来ない“何か”に乗っかってみるのも面白い。


「で?その“力”はなんだ?」


どう考えても一種の詐欺だが、オレはなぜか自然と受け入れる気持ちになっていた。


「ヒヒヒ。それは手に入れてからのお楽しみだ。ヒヒヒ」


そうかい。なら受けてやる。オレは声に出さず受け入れる事にした。


「ただし、一つだけリスクが・・・」


赤い目が最後に何か言ったが、オレの意識は夢に落ちてしまった。


翌日、オレは事態の深刻さを理解した。


朝、普通に起きて、普通に準備して、普通に登校した。

もちろん、ヤツらはいる。

いつもの場所で三人固まって大声で頭の悪そうな会話をしている。

その間、チラチラとオレの方を見てバカみたいな顔で笑ってやがる。


すると、リーダー格のバカがやって来る。


「俺さ〜、今、金欠なんだよね〜」


リーダー格の頭が悪そうな言葉と、背後からやって来る金魚の糞が二個。


「俺も」

「あっ、俺も俺も」


金魚の糞が続けて更に頭の悪そうな言葉を出す。


「・・・」


オレは目も合わせないし、返事すらしない。

いつもならヘコヘコと調子を合わせるが、今日のオレはひと味もふた味も違うんだ。


「・・・ククク・・・」


オレはニヤけた。

そんなつもりはなかったが、自然にウッカリと出てしまった余裕の笑み。


オレの様子にリーダー格は案の定、片眉を釣り上げ、アゴも上げて、まるで虫ケラを見下しているような鋭い眼光に変化していく。


それと同時に金魚の糞たちも威嚇を始め、クラスは朝からピリピリする雰囲気に包まれる。


その中にはあの子もいる。

ゴメンな。少しガマンしてくれ。すぐに決着をつけてやる。

生まれ変わったオレはあの子にカッコいいところを見せられる。


「おい!テメェ、ナメてんのか?あん?」


リーダー格がオレの胸ぐらを掴んで、これまで何度言ってきたか分からないであろう頭の悪いフレーズを吐いた。

後ろに控える金魚の糞たちは調子を合わせるように細い目が更に細くなる睨みを利かせる。


「ふん」


オレは動じない。

この落ち着きは自分でもビックリである。本来なら心臓が爆発してもおかしくない緊迫した場面に、オレは鼻で笑っていた。


「テメェ!」


リーダー格が拳を握るのが明確に分かる。

弱者にしか向けられない暴力が、オレの顔面に迫ろうとする。


オレは大きく息を吸って、全身の力を使ってあの言葉を口にした。


「脱糞だぁぁぁっ!」


そう、赤い目から与えられた“力"はこれだ。


オレが「脱糞」という言葉を発すればターゲットはその場でクソを漏らす。

単純な“力”だが、効果は絶大である。


ほら、ヤツらは動きが完全に止まり、腹とケツに手を当てている。


高校生になって学校でウンコを漏らすのは人生におけること最大の汚点だ。

それをヤツらはぶちまけている。

この生理現象をオレは自由自在に発動させられるのだ。


ヤツらが急いでトイレへ向かう。

ふん、もう今さら遅い。お前らが蓄えた分、すべてが強制的に排出されるんだ。


「・・・!」


オレは冷静にクラスを見渡した。

そこにはあの子がいて、顔が明らかに青ざめている。

なんと、他のクラスメイトも腹とケツに手を当てている。


「ま、まさか!」


腹がギュルギュルと鳴り出し、肛門がヒクヒクしている。

クラス全体が合唱の如く、次々と音を立てる。

ある人はその場にしゃがみ込み、ある人は瞬時にクラスを出ていき、ある人は諦めた表情て呆然と突っ立っていた。


そう、オレの“力“は無差別テロだった。


「あっ」


しかも、オレは例外ではなかった。


油断していたオレは前触れもなく漏らした。

本日はトランクス。温かいモノが転げ落ちるようにズボンの中を移動し、外の世界に出る。


オレはただ、転げ落ちた茶色い物体を呆然と見ていた。


それも止まる事なく、次々と生まれていた。


時が止まったオレの視線があの子に向けられた瞬間、すべてを悟った。


「くそったれぇぇぇっ!」

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