表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道の花形  作者: ロリポップ侍Lv.8
2/2

0.2「青柳さんの、暇つぶし」

六花国立高等学校。


日本国内でもトップクラスのエリート高校で、入学すれば将来安泰が確定するとまで言われている。


国立の学校なだけあって、普通科は勿論、特進科や機械科に農業科や商業科等、様々な学科がある。毎年倍率は10倍を超え、毎年地獄のような受験戦争が繰り広げられる。


そんな学校の学科で、一際倍率が高い学科がある。それは____


『CARD科』。定員は200人程度。3年間CARDの使用、又は『FULLGARD』入隊に向けての訓練が学習が行われる学科である。


この学科はその他の学科とは別枠で生徒を募集している。学力だけではなく身体能力測定やマナニウム適正審査など、通常の受験とはかけ離れた受験形式であるためである。倍率は昨年度でなんと72.19倍。これでも少ないくらいの倍率でこれである。


春風に桜の花びらが乗り、花の香りが香る4月。


七限が終わり、終了のチャイムが鳴る。


程なくして終礼が終わり、ゾロゾロと廊下が生徒で溢れる。


その中を掻き分けるように進むのは、青柳と翠川であった。


「なー、昨日の報告書見たー?」


青柳が気だるげに翠川に問いかける。片手には購買のホットドッグを持っている。


「見ましたよ。...というか、あんな街に近い場所で魔物なんて捕獲できるんですかね?」


「さぁね。というか魔物の捕獲が無理なら、あの銃で銀行強盗でもするつもりだったんでしょ。」


「あー、道理で術式弾のアサルトライフルなんて持ってたんですね。あれも盗品っぽいですし。」


昨日の事件についての報告書について語っていると、とある部屋の前で立ち止まった。

引き戸の上にはデカデカと「六花高校執行部」と書いてある。


ガラリと戸を開けると、小綺麗な部屋に人影があった。1教室分の広さに、ぽつんと長机とパイプ椅子が並べられている。


「あら、今日は早かったのね。」


意外そうな顔で2人を見ながら、さっきまで読んでいた本を閉じた。


「柴田さんも今日は居るんですね。」


緑川はそう言いながら、部屋の隅にしていカバンを置いた。


「翠川くんに借りた本、読み終わったから。返しに来ようと思って。」


「相変らずマイペースよね、柴田っち。」


「貴方に言われるのは心外ね。普段から何考えてるかわからないもの。」


「お互い様だよ。つか赤っち達は?」


「今日も任務よ。なんでも昨日の現場の調査だとか。」


他愛ない会話をしながら、青柳はおもむろにパイプ椅子に座った。翠川も次いで座る。


「あ。そう言えばなんですけど...」


何か思い出した翠川が、自分の鞄から1枚の紙を出す。


「これ、この間『執行部BOX』に入っていた要望用紙です。...まぁ要望ではなさそうなんですけど」


六花高校執行部は、普段はFULLGARDの小隊として任務をこなしているが、それとは別に学校の中枢機関として活動している。

各部活動の予算報告書に目を通したり、学校行事を取り仕切ったりと、仕事はかなり多い。

その中に、生徒一人一人の意見を取り入れる目的として導入されたのが『執行部BOX』である。

用紙に要望を書いてBOXに投書すると、翌週に回答が帰ってくるというシステムである。これによって生まれた学校行事もあったりするので、意外と馬鹿にならなかったりする。


ため息をつく翠川を尻目に紙を見ると、丁寧にプリントされた項目を塗りつぶすように


『執行部に挑戦を申し込む。明日、必ず放課後に6人全員体育館に来るべし。』


と書かれていた。しかもマッキーの太い方で。


「...中々肝の座った人もいたものね。こういうの初めてなんだけど。」


「本当ですよ。こんなことするのはもっと遅い時期だと思っていましたもん。しかもこれ、2年生からの投書なんですよ...」


「面倒だねーこれ。わざわざ相手しなきゃいけないのか?」


「そう思っていましたけど、こんなに挑発的な態度をする生徒がいる以上、対処をせざるを得ないんですよ。」


「そうよね。校内の治安を守るのも執行部の仕事なのが辛いとこなのよね。」


柴田がため息をつく。随分と面倒くさそうな表情である。


少しの沈黙の後、青柳がこぼした。

「...これ俺行っていい?」


「「えっ?」」


翠川と柴田が同時に振り返る。


「いや、いいですけど...面倒ですよ?こういうの。」


「私もそれでいいけど...大丈夫なの?青柳」


「おっけーよ。最近捕獲や鎮圧が主な任務だったし、暴れ足りないからね。まぁ2時間あれば終わるでしょ。」


「...何かと思えば...分かりました。じゃあここで待ってるんで、早めにお願いします。今日ラーメン行くんですし。」


そういうと青柳は自分の鞄から手袋を出した。


手袋をはめ、指で魔法陣を書くと長細い鉄の箱が出てきた。1.5m程の箱を開けると、中には戦斧が入っていた。


「あ、調整終わったんですか。青柳さんのCARD、ピーキーですもんね。」


青柳は調子を確認するように振り回した。どうやら満足のいくものらしい。


「うん。いいね。さっすが俺の【無明鋼】。軽量化が丁度いいバランスだし、これなら魔術発動も楽そうだね。」


そういうと青柳は無明鋼を担ぎ、


「んじゃ、行ってきますわ。」


と言い、部室を後にした。後ろでは手をヒラヒラとさせる柴田と翠川の姿があった。



体育館と言っても、六花高校の体育館はひと味もふた味も違う。

対衝撃性は50tまであり、魔術による干渉を受けない。更にはもし万が一破壊されてしまっても、自己修復魔術がかかっているのですぐに再生する。要するに「暴れまくれる広い場所」である。


青柳が体育館に着くと、中には6人の男女がいた。全員腕組をしているが、明らかに敵意を向けた顔をしている。


うっわ〜だっせぇなぁ、と思っていると、真ん中の男が


「オイ貴様!!他の5人はどうした!!!必ず6人で来いと書いただろう!!!」


大声に怯まず、5人の前まで進む。


「ばーか。お前らみたいな馬鹿の相手は一人でいいってことだよ。つまんねーことにこだわってないで要件話せや」


青柳が軽く煽ると、5人は更に睨みを利かせた。


先程大声を出した男が、ゆっくりと前に出る。以前の他の4人は仁王立ちで腕組である。


「2年は組!!!名簿2番!!!今井 新!!!執行部青柳!!!貴様に決闘を申し込む!!!」


怒鳴り声をあげた男は、先日執行部に『CARD科全生徒に、特別手当を給付する』という意味不明なことを投書した人物である。如何せん身長が小さいので、制服も袖を余している。


「俺が勝てば先日の投書を可決!負ければ今後一切、執行部に関わらないものとする!それでいいか!?」


「あーはいはい。それでいいよー。」


「......やる気が無さそうだが、大丈夫か?そんなんだから私腹を肥やし、弱者から金を巻き上げるんだ。最も、お前は別の意味で腹が肥えているがなぁ?」


「あぁ、全くだ。」「本当ですネ。」「ホントホント...デブすぎ」「ケケっ.....醜いね...」

新の煽りに、他の4人がクスクスと笑う。


少しイラっとした青柳が返す。


「俺のdisもいいけど、まずはその足りない頭に知識詰め込んでからにしときな。ま、身長が足りなきゃ頭も足りないもんか。」


薄笑いを浮かべながら、いやみったらしく言った。


「...黙れ!とにかく、貴様のような愚者が居て良い場所ではないのだ!!!我々に席を譲れと言っているのだ!!!」


低身長をいじられたせいか、新が激昂する。


「もし、和解できぬと言うなら......武力で行くしかないよなぁ?」


5人がぎらりと自分のCARDを取り出す。


「さぁ、どうする?大人しく条件を飲むか、5人にボコボコにされるか......どつちがいい?」


つーか決闘じゃないんかい...と思いながら青柳が答える。


「まぁ...決まってんじゃん。」


無明鋼が応えるように光る。


「交渉決裂。かかってこや、おバカグループ♡︎」


「......やれぇ!」


新の合図で、4人が襲いかかる。


敵の1人が呪文を詠唱すると、黒い鎖に体を縛られた。


「んふふ。どう、私の《魅惑の黒鎖》は?動けないでしょう?」


「...もしかしてこれで縛ったつもりかぁ、オイ?《盗賊の魔法の言葉》。」


黒い鎖は、白いモヤに包まれた途端に消えてなくなった。


「...ウソでしょ!?」


瞬間、無明鋼で吹き飛ばす。


が、その一撃を丸太のような豪腕が止める。


「2年は組号山天鬼!!!ワシの【巨人の腕輪】は違うぞ!」


豪腕が無明鋼を弾き、すかさず大振りの一撃をかます。

んぬううぅぅうあぁ!《打ち上げ流星》!!!」


土属性の魔術を纏った拳が、青柳を吹き飛ばす。


鈍い音と共に天井まで吹き飛ばされる。


体制を立て直そうとするが、既に天井には『影』がいた。


「ケケっ......これなら避ける暇もないねぇ...《影爪残》んん!」


黒い爪で切り裂かれ、また地面へと落下した。


ドゴンと床に叩きつけられたが、まだ攻撃の手は緩まない。


「詰めが甘いので詰めてあげマス。《跳ね回る火球》!!!」


連続して火球が放たれ、青柳の落下地点で何度も爆発を起こす。


1連の攻撃が終わり、新もトドメが刺さったと思ったのか、


「どうだ!我ら『紅蓮団』の力は!貴様のような愚か者よりも遥かに強いだろう!!」


土煙が収まり、連続攻撃でボロボロの青柳が____


見えない。傷一つない制服は、むしろシワが伸ばされたように見える。


「...これで終わりなら、もう攻撃していいっすかね?」


「...舐めた真似を!お前達!更に強烈なやつをお見舞いしてやれ!!!」


4人がまた構える。先程の青柳の様子のせいか、顔が少し強ばっている。


「ま、次からはこっちのターンだよね。好き放題やらせてもらうよ。」


「...クソがっ...!《魅惑の黒鎖:縄絡み》!

「倍にしたところで効かねぇよ。」


今度は鎖が体に巻き付くことなく、触れた瞬間弾け飛んだ。


「なんでっ!?」


「ま、才能ってやつよ。おつかれ。」


無明鋼の横振をモロに喰らい、壁に叩きつけられた。


「...《打ち上げ》っ...!」


「食らうかばぁか!」


打たせるまもなく胴を3回殴る。拳は深くまで沈み込み、相手は小さくえずいた後に倒れ込んだ。


「...よくも号山と会田をォォ!!」


天井に張り付いていた奴も、上から飛び込んできた。


「《影爪残・乱》んん!!!」


先ほどよりも速く、強い爪の乱舞を、いとも簡単にいなしていく。


「クソがああぁぁぁアアァァァ!!!」


「うっせぇなぁ、黙ってろよ。《礼儀・お静かに》」


先程までの金切り声が、体育館途端に途絶えた。


「クッ...《踊り出す稲妻》!」


魔術発動とともに稲妻が降り注ぐ。


「甘いなぁ、《轟雷一閃》!!!」


激しい一筋の雷に、降り注ぐ稲妻が吸収されていく。やがて1つの雷となり、無明鋼の先端で球体

になった。


「そんなッ、僕の魔法が!」


「属性魔法はより大きな力を持つ方に吸収されるんだよ。特に雷はその性質が顕著だってこと、習わなかったのか?理解する為にも体で覚えな。」



「あばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!」


雷の球体に包まれ、体が焦げた後に力なく倒れた。


「さ、後はお前だけだね。」


「...くそっ!なら奥の手のこいつでも喰らえ!」


新が手を振りかざすと、青柳の体に重力がかかる。


「ふははははっ!動けんだろう!?これぞ俺の必殺《恐怖の威圧》だ!」


高笑いとは裏腹に、青柳はすぐさま魔術を解除した。


「...え?」


「馬鹿だなお前。重力系統の奴は、同じ負荷で反対方向にかければ中和されるんだよ。」


「そんなっ!...オイあんた、さっきはあんなこと言って悪かったよ、謝る...だから!なぁ?見逃してくれないか?あんたに実害はないんだし、これで丸くすまないか?」


途端に早口で交渉する新を、青柳はニコニコしながら話を聞く。


「だから、なぁ、許してくれないか?あんただって無闇に人を傷つけたくないだろう?」


「そっか、分かったよ。」


「...!じゃあ、今回のことは...!」


希望を見つけたような顔をする新に青柳は____



満面の笑みで

「後悔するほど苦しむといい。ここまでされて許すかよばーか。」

と告げた。


「《天の災》、《病の青火》、《永久凍土》!」


災害級の属性魔術が降り注ぐ。


その中でもみくちゃにされる新の顔は、世界が終わる直前のような顔だったと言う。


「トドメだ!《咎人の夢》!」


咎人の夢。


無明鋼に魔術加工を施し、青柳以外に物理的干渉が出来ないようにする。それを相手の体の中心部に刺し、そこからただの「痛み」だけを与える。この痛みは過去に受けた痛みの全てを凝縮したようなものなので、常人なら気絶してしまう。ただ、痛みでショック死しないギリギリのラインで調整されるので、死のうにも死ねないというある意味くらいたくない一撃。




(死んではないけど)死屍累々を後にしようとする青柳に、何とか喋る程度の気力がある号山が問う。


「聞かせてくれ......お前は...何だ?...」


青柳は振り返り、


「さぁ。俺も化物クラスだけど、うちにはもっとやばい人達がいるからね。」


へらへらしながらそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ