〜今日も世界は不安定に安定しています〜
20XX年、人類は科学を極め、遂におとぎ話の世界にしかなかった「魔法」を人工的に開発した。
度重なる異常気象の結果、空気中に特異な成分「マナニウム」が発生。それをエネルギーとして利用し、魔法のように様々なものに発現できる装置
CemicalAdvanceRealityDevice
(術学式現実拡張型魔法発生装置)
通称「CARD」を開発。人類は行き詰まった文明を更に発展させることに成功した。
しかし、便利なものが開発されるということは、悪意を持って使う者が現れるのも必然。「CARD」が人々に流布した結果、危険な思想を持った人々に使用され、殺人事件やテロが多発。政府はこの事態を受け止め、CARDを使用して不正CARD使用者に裁きを下す悪質CARD使用者撲滅委員会が発足。
通称「FULLGARD」の誕生である。
この物語は世界的にも珍しい、15〜18歳で構成されたFULLGARD小隊「バスター」の波乱万丈な物語である・・・
「くそっ!ずらかれ野郎どもっ!」
全身黒いツナギの男達が一目散に逃げる。
それを追うようにして、2人の男が追いかける。
「なんなんコイツら?ここらの森でコソコソしてたけど。違法魔力採取?」
「いえ、人数と道具を見る限り密猟のようですね。この森にしか生息しない生物もいますから、それをマニアに売って儲ける算段なのでしょう」
ツナギの男達は急に振り返ったかと思うと、銃口を2人に向けていた。
「撃てっ!撃って撃って撃ちまくれっ!」
無数のアサルトライフルから銃弾がばら撒かれる。
しかし、その弾は全て蒼白い魔方陣に触れた瞬間消えてしまった。
「くそっ!...術式班、攻撃用意!」
合図とともに後ろにいた隊列が一斉に魔法を発動。炎に氷、雷などの属性魔法が一斉に放たれる。
が、今度は橙色の魔方陣の中心に、吸い込まれるようにして消えた。
「ま、このくらい俺と翠川なら余裕のよっちゃんだよね〜」
恰幅のいい男が小さく笑いながら呟く。
「青柳さん...そのあからさまにメンタルから削りに行く感じ止めてくださいよ...ほら、ドン引きしてますよ、向こう」
長身の男が顎で指しながら言う。
「馬鹿なっ!?低級とはいえ、破壊系魔法を組み込んだ弾丸の雨をっ!いともっ!容易くっ!打ち破ることなどっ!」
「くどい!」
身長の低い男が上空から脳天に蹴りを入れる。声も出せぬまま、喚いていた人物は倒れた。
「うっわぁ脳天...しかも上からとか...お前こいつの首に恨みでもあんの?つか殺してないよね赤石?」
「だいじょぶだいじょぶ。多分生きてるから。」
「根拠の無い自身ほど怖いものは無いですけど、今はそういうことにしときましょうか...」
「そういや他の奴らは?俺が蹴り入れた時には静かだったけど」
「そこで寝てるよ。気絶魔法と催眠系魔法の統合陣がよく効いたみたい。ちなもう連絡したから、あとはほっとけばコイツらの回収くるよ」
「ちょっ、あんたいつの間に怖いもの開発してるんですか!」
「だいじょぶだいじょぶ。多分もう使わないから。」
「...あんたもですか......はぁ...」
翠川がおもむろにスマホを取り出す。
「...あ、向こうも終わったみたいです。『それよりご飯食べたい』だそうですけど」
するとその問いに対して、三人とも同タイミングで
「『papillon』だな」
「『papillon』じゃね?」
「『papillon』ですね」
「じゃ、今日は『papillon』にするって送っといて」
「分かりました。...てか、向こうも『papillon』がいいらしいですよ。」
なら話が早いな。んじゃ、とりま帰宅ですかね...ほいっ」
太い指で空をなぞると、薄緑の魔法陣が地面に現れた。
3人はその上に乗り、また太い指が空をなぞると光とともに消えた。
――――――その1時間後、カフェ『papillon』にて―――
「はぁ〜い、リブロースステーキガーリックソースと、さば味噌定食大盛り梅ご飯御膳、ベーコンとほうれん草のキッシュ、魚介のアラビアータ、チョコレートサンデー2つお待たせっ〜♡」
ムキムキで色黒のおねェが、小走りでテーブルに皿を運ぶ。
ざっと50人は入れそうな広さの店に、今は客が6人しかいない。表のドアにはCLOSEの文字が掛かっていた。
ヴィンテージ感のある店内に、小さく流れるジャズが心地よい。
テーブルには6人が男女で別れて席につき、全員が話し込んでいた。
「おっ、来た来た...あざっす、エディさん」
「いいのよ青ちゃん♡あなたの食べ方、すっごくワイルドで素敵だからお肉の量おまけしといたわよ♡」
「マジっすか!?いや〜ホントいつもありがとうございます!」
「いいのよ青ちゃん♡ いっぱい食べて頂戴♡」
「いーなー青柳、オーナーに愛されてて」
「あら、紅ちゃんの御膳もいつも以上に盛々にしといたわよ♡」
「ありがとーオーナー!そういうところが好きだぜ!」
「んっ〜♡ストレートな告白ありがとうっ♡︎みんなもいーっぱい食べ頂戴ね、お代わりもOKよ!」
そう言うと小躍りしながらカウンターに戻って行った。
「......あんた達、毎回よくやるわよね...仕事が終わってすぐだってのに...」
「まぁここの飯うまいのは事実じゃん?日頃の感謝の意も込めてだから、きついとかっていうのは思わんな」
そう言うと青柳は肉にかぶりついた。
「そーそー。つーか桃瀬はオーナー苦手なの?いつも距離とってるけど」
「正直言って苦手ね。いい人だとは思うけど。」
ズバッと言い切ると、チョコサンデーに手を付け始めた。
「私も、今日みたいな疲れた日は苦手になるかも。でも昼間のエディさんは寡黙でいい人よ?」
「柴田、あんた昼にここ来たことあるの?」
「えぇ。ちょうど図書館で読みたい本を借りれた時、直ぐに読みたくなっちゃって。それでここに来てみたらビックリ。あんなに陽気な人だったのが昼間はまるで大違い。寡黙で厳ついカフェのマスターだったわ。」
「いやん!柴田ちゃん!それは言わないって約束したじゃないの!もう!」
「ごめんなさいエディさん。つい話しちゃった。」
「......桃瀬はともかく、柴田もけっこうズバッと言うタイプだよね」
もりもりとご飯と鯖を口に詰めながら、赤石が呟く。
「というか今日どうして集まったんですか?」
「いや、上への報告は済ましてある。今日の話はこれ。」
赤石が1枚の紙を出す。
「えーっと、......『昇格による装備一新のお知らせ』、ですか?」
「うん。お前ら全員今の装備結構使ったでしょ?だからその装備一新のお知らせだってさ。特に青柳と黄山さんのCARD」
「あ...そうです。最近補助魔法が安定しなくて困ってたので...」
「俺も。魔方陣生成から発動までラグがある感じがしてる」
「まぁ、不具合ない他の奴らもまとめて調整するから、また後で研究所研究所に来いってさ」
全員が軽く了承する。
本題が終わり、いつの間にやら他愛のない話をしていたら時計の針が12を超えていた。
赤石が手を叩き、全員に話した。
「じゃあそういうことで、今日はお疲れ様でした!また明日も頑張るぞーお前ら―」
「「「「「は〜い」」」」」
6人が家路に着こうと店を出ると、外はもうとっぷりと夜で満たされていた。