そこでよんでいる。
たった一杯の酒を煽り床につく。
そうでもしないと眠れない。
熱帯夜とはよくいったもので
いくら冷房の設定温度を低くしようが
全く意味を成さなかった。
寝苦しいのは当然の事。
あっちを向こうがこっちを向こうが
いっこうに治まらない熱気。
寧ろ、自分の体質も原因のひとつだろう。
新陳代謝は頗るほどに元気。
首に巻き付けた手拭いには
勢いよく汗を染み込んでゆく。
そんなじっとりとした寝具の上で悶絶していた最中。
それは唐突にやってきた。
何かが聴こえた。
声でもなく、音でもなく。
決して気にしてはいけないモノ。
背筋に伝う汗が鼓動を冷ます。
ひんやりとした空気が辺りを包み込む。
だが、室温計は正直だった。
壁に掛けられたその数値は目を疑うぐらいに上昇の一途を辿る。
気晴らしといってしまえばそうなるだろう。
今もなお心を擽る怪奇現象。
始まりはコンコンぐらいの僅かな震動だったにもかかわらず。
今やまるで扉を破壊する如く強烈な破壊音に匹敵していた。
絶対に見てはなるものか。
絶対に近寄ってなるものか。
絶対に寝てやるんだと意気込む。
押し寄せてくる暑さなど鑑みずに
それよりも寒気が増すのが堪らない。
タオルケットを頭まで被り
猫のように丸まった。
どうか、立ち去ってくれますようにと。
………………
人差し指で耳栓をしつつ
それでも焚き付けてくる怪奇音はどうにか消え去ることが出来た。
ほっとした瞬間。
密着させていた筈のタオルケットが不自然に風に靡く。
がっしりと両手両足で掴んでいたというのに……。
それはぬるりと私の体を這いずりまわり
やがて接吻を余儀無くされる程の近さまで達した瞬間。
たったひとこと
こう溢した。
「底で喚んでるのに……」
翌朝、私は無事に起きれたというものの激しい恐怖に脅かされていた。
なぜならば
そこにはくっきりと人形の染みがあったからだった。
それはまだ四~五才の子供のような。
あとになって判明したことなのだが、どうやらその部屋では虐待を受けた子供が亡くなっていたらしい。
線香と花を添え、どうか成仏されること祈る。
そして、もう私を喚ばないようにと。
明くる日。
それは両親付きでやってきた。