表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

一章 七話

医務室から客間にきて俺は装備の確認と

健康状態の確認を行っていた。


全ての状態が良好である確認を終えてから

いざ寝ようとした時ノックが聞こえた。



「はい。どちら様ですか。

 母さん、フィリアさんに何かあったんですか?」



俺が少し声を震わせながらドアの向こうの

人に問いかけると聞きなれた声が帰ってきた。



「私ミーナだよ。少し話があるんだ

 ドア開けてくれるかな?」



声の主がミーナだと分かった時、異常事態が

起こったのではないと分かって安堵したのも

束の間すぐになんの用だろう? と疑問に思った。


とりあえず今は扉を開けよう。



「姉さんですか? 今開けますので少々お待ちください。」



そう一言返してからすぐに向かい、客間の扉を開けた。

そこには怯えていながらも何かを覚悟を決めたような

顔をした姉さんがいた。



「どうしたんですかこんな時間に?

 それにどうしたんですか顔色あまり

 よろしくありませんよ?」



ミーナは今血の気が引いた青い顔をしていた。

ケガの影響かとも思ったがどうやらそうでもないようだ。



「とりあえず中へどうぞ。」


「うん。ごめんね急に来ちゃって。」


「いえ、いいんですけど。

 それで話とは一体何ですか?

 こんな時間にしなければいけない

 急な話とは何ですか?」


「ちょっと長くなっちゃうし、嫌な気持ちにも

 させちゃうかもしれないけど聞いてほしいの

 とても大切なことだから。」



姉さんの目は真剣そのものだった。

だから俺も真剣に答えるべく姉さんに

しっかり向き合ってから話して

貰うように促した。



姉さんは語りだした。

自分がアルゴースが好きな事、

傷ついてる母さんをそっちのけで

アルゴースの誘いに喜んでしまった事、

そして俺の去り際遠回しに勝たなくていいって

言おうとしたこと。俺が必死に勝とうとしている

気持ちを知りながらである。



正直な話ショックを受けなかったと言えば嘘に

なる。女運マイナスのスキルが無いのだから、俺は

二の次三の次に考えられることは無いと思っていた。

いつかは姉さんにも好きな男ができるだろうし

俺も一緒にいられる訳が無いとは分かっていた。

しかし、人の恋心はこうも人を耄碌させるもの

なのかというものを痛感させられた。



そして姉さんは今俺に自分の罪を、俺や母さんの事を

蔑ろにしたことを怒ってほしい断罪してほしいと

思っているのだろう。


俺は深呼吸して沈んでいた気持ちを落ち着かせた。



「この話は母さんには言いましたか?」


「言ったよ。」


「姉さんはその話をして僕にどうしてほしいのですか?」


「わ、私は今ノウスが思っていることを言ってほしい。」


「それがどんなに残酷なものであってもですか?」 


「う、うん。」



姉さんがこの部屋に入ってくる際に見せた

顔の正体はこれだったんだな。

この話をして俺との関係が最悪になってしまい

軽蔑の目を向け続けられる事を受け入れる

覚悟をしてきたんだな。


俺の言葉を待って震えている姉さんを見て

俺は自分が思っていることを言ってやった。



「確かに赦せる話ではないね。

 自分の家族を傷付けられて尚自分の

 事しか考えない。そんな考えを持った

 人を軽蔑しない訳がない。そんな人

 軽蔑もするし絶縁もします。」


「や、やっぱり...そう...だよね...。

赦される訳...ないよね。」



姉さんは俯いて扉の方へ歩いていく。



「ごめんね...こんな自分の事しか

 考えられないお姉さんで....。

 それじゃあ―――」


「でも!!」



俺は少し大きめな声を出して姉さんの

悲痛な言葉を遮った。



「それはそれが元々赤の他人だった場合や

 他の人の場合です!!」



今まさに扉から出ようとしている姉さんの

所まで行き出て行かせないように

しっかり腕をつかんだ。



「僕らは姉弟で家族です。赤の他人だった人が

 赦せないことでも姉さんがその考えが汚い物

 と感じて反省しているのなら赦しますし

 受け入れます! だって僕たちは家族ですよ?

 他の人が赦さなくても僕は赦します。」



俺は姉さんの体を自分の方に向けさせて

それから顔を上げさせた。



「だからそんな悲しそうな顔をしないでください。

 それに姉さんの自分勝手な事は僕が一番よくわかっています。

 だから今更そんな風に言われた程度で何ともないですよ。」



俺がそういって微笑み姉さんの頭をなでると

姉さんの中で何かが崩れたのか俺の胸に

抱きついて思いっきり泣きだした。



「ごめんねノウス! 本当にごめんねっ。」



俺は姉さんが泣きやむまでずっと姉さんの頭をなでた。



姉さんが泣き止んでから落ち着くまで

客間のソファーに改めて座らせた。



「姉さんもう大丈夫ですか?」



姉さんは目にまだ涙をためながら答えた。



「うん。ノウス本当にありがとう。

 こんなダメダメなお姉ちゃんを

 赦してくれて。」


「さっきも言いましたが当たり前ですよ。

 僕らは家族なんですから。

 それにダメなんかじゃありません。

 自分が好きな人の事を第一に考えてしまうのは

 しょうがないことです。」


「そうなのかな? でも私やっと踏ん切りが

 ついたよ。」


「? なんの踏ん切りですか?」



俺がきょとんとしているのなんてお構いなしに

姉さんは話をどんどん進めてきた。



「ノウスお姉ちゃんお願いがあるの。」


「あの話の後のお願いですか。

 全く予想できませんがなんですか?」



俺が不思議そうにそう聞くと

姉さんは悪戯っ子のような笑みを

浮かべていった。



「ノウス、アルゴースなんて人を物の

 ように見ている奴をぶっ飛ばして!!」


「!? 姉さんそれは本気で言ってますか?」


「本気も本気よ! ノウスならできるでしょ?」


「最善を尽くしますがいきなりなんで?」


「そこはできるって言いなさいよね。

 それになんでも何も今更ながら気づいたの

 アルゴースは私を剣聖のスキルを持った

 道具としか見てないわ。それは、私が

 攻撃した際になんの躊躇もなく腕の骨を

 折ったのを見て明らかよ。」


「確かにそうですね。

 あの人はどこかおかしい。」


「そうよおかしいのよ! 私みたいな

 可憐な女の子になんの躊躇も無く

 手を上げられるなんておかしいのよ。

 だからそんなおかしいやつ本当は

 私がぶっ飛ばしてやりたいけど

 この腕じゃ無理なのだからノウス

 お願いあんな奴ぶっ飛ばして!」


「姉さんが可憐なのかは置いといて、

 って痛い痛い姉さん机の下で蹴らないで。」


「無駄話はいいからやってくれるの

 くれないの!」


「全く。乱暴なんですから。

 そんなの言われなくてもやってやりますよ。

 なんたって僕の大切な人達が傷付けられたんですから。」


「ふ、ふん。最初っからそういえばいいのよ。

 ...じゃあ頼んだわよ私のぶんまでね!」


「任せてください。あの腐りきった性根を

 僕が叩き壊してやりますよ!」 



俺がそう言うと姉さんは満足したような顔をして

今度こそ扉に向かって歩いて行った。


それを今度は止めることなく見送る。



「じゃあこんな時間まで突き合わせてごめんね。

 明日頑張ってね!」


「もちろんです!」



そう言うと姉さんは医務室の自分のベットの帰っていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ