一章 五話
アルゴースの決闘から早10年、
俺は15歳、ミーナは16歳とこの世界の成人の
年齢に到達していた。
俺は身長も大きくなり170中盤くらいになった。
ミーナはその片鱗はあったものの女性らしい
体つきになりより一層綺麗になり美少女
という言葉がふさわしい女の子になっていた。
しかし、悲しきかな胸はあまり成長せず
ぺったんこいわゆるまな板だった。
本人いわく、
「剣を振るうのに邪魔になるから無くても
全然問題ないわ。」
と言っていたが、俺は見逃さなかったその
話をしている時に台所で家事をしている
母フィリアの事を正確には、体を揺らすたびに
揺れる二つの山をまるで親の仇であるかのように
見ていたことを。実際のおやなのにね。
そんなミーナと俺は冒険者登録をして
パーティーを組んで依頼をこなす日々を
送っていた。
「姉さんそっちに行きました。」
「OK。まかせて、
セアアアアアアア!!」
姉さんの気合いがこもった一撃は、
今回の討伐目標ビッグベアーをいとも
簡単に両断した。
「お疲れ様です。姉さん。」
「うん! お疲れ様ノウス!
それとビッグベアーの誘導ありがと♪」
「いえ僕にできることはこれぐらいなので。」
「そんなことないよ。できる事を油断せずに
しっかりできるって凄いと思うよ!」
「はは。ありがとうございます。」
「もうまたそんなに他人行儀で
私たちは姉弟なんだからもっと
気軽な話し方でいいのに。」
「いえ、この話し方に慣れてしまったので
どうかご容赦ください。」
「もうしょうがないなー。」
俺は女性に対して素っ気無い態度や
丁寧すぎる態度をとってしまう事が
普通になっている。
理由そんなの簡単だよ。前世の女運マイナスの
せいで女性関係で色々ひどい目や悲しい思いを
したからだよ。それでいくら家族といえど
女性をまえにするとどうしても口調は丁寧に
なり姿勢が低くなってしまうのだ。
はあ、なんとかしたいよこんな性格。
「よし剥ぎ取りはこれで終了。
まだ早いけど今日はもう帰ろっか。」
「はい、そうしましょう。」
「しっかし、こんな所にビッグベアー
が出るなんて最近なにかとぶっそうだよねー。」
そうこのビッグベアー本来こんなに簡単に
倒せるような魔物ではないのだ。
本来であるならベテランの冒険者がパーティーを
組んで倒すべき相手なのだが、経験豊富な俺が
魔物をうまく疲労&誘導し剣聖ことミーナが
とどめをさすという風にやっていれば、
よっぽどの量じゃ無い限り余裕だ。
そんなことを考えつつミーナと駄弁りながら
冒険者ギルドに着くとなにやら慌ただしかった。
「どうしたんだろう。この騒ぎ?」
ミーナと俺は状況を探ろうと辺りをきょろきょろ
していると、俺たちを見つけた職員の人が
慌てた様子で走ってきた。
「お二人とも急いで医務室に向かってください。
お母さまが大変なのです。」
「え、お母さんに何かあったの?」
「説明している時間もありません。
すぐに来てください。」
職員はそういうと医務室に走って行ってしまった。
俺とミーナは何の事かわからないまま、その後を追った。
医務室につき扉を開けるとそこには血まみれの母さんがいた。
「お母さん!!」
ミーナはその姿を見ると母さんに走りよった。
「大丈夫です。見た目こそひどいですが命に
かかわる物はありません。」
医者であろうその人の言葉を聞くとミーナは一気に脱力した。
「よかったー。」
僕はその場で唖然として突っ立ていたが、
正気に戻ると職員の人に事情を聞こうとしたが
説明をしようとした職員の言葉を遮るように
誰かが声を重ねてきた。
「簡単さ、私が彼女に決闘を申し込み彼女は負けた。
その傷はその時できたものだよ。」
そう言い扉から入ってきたのは現領主アルゴースだった。
「なぜあなたがこんなことを?」
「いいね、怒りに身を任せず冷静に物事を
図ろうとするそのさま。いいでしょうお答えしましょう。
それはね君たち家族を手に入れることですよ。」
「私たち家族?」
ミーナは母さんのそばにいながら俺たちの会話に混ざってきた。
「はい、その通りです。
フィリアさんはギルドと美貌を
ミーナさんは強さと可憐さを
ノウス君は知識とそれぞれ
他者より秀でたものがあります。
それを私のものにしたく決闘を行いました。」
「そんな理由でお母さんが戦うわけないじゃない!」
「その通りです。こんな個人的かつ身勝手な決闘
普通受けてくれるわけがありません。
そこで私はプレゼントを用意しました。
それはあなたの剣聖のスキルの情報です。」
「私のスキルの情報?
なんのことかしら?」
「とぼけても無駄です。すでに鑑定士が
あなたのスキルに剣聖があることはしっています。」
「!!」
「なるほど、スキルを今まで通り秘匿する代わりに
決闘を受けさせた訳ですか。」
「それって脅しじゃない!」
「いえいえ、それは決定打だとしても他にも
金貨100枚と土地の権利書だとか色々です。
ちなみに私はこれからあなたたちにも決闘を
申し込みます。」
「そんなの私たちが受けるとでも?
剣聖のスキルの事ばらまきたいのだったら
ご自由にどうぞ。少し面倒なことになるかも
しれませんけど、たいした問題じゃ無いので。」
ミーナがそうきっぱり言いながらも、
拳を体の横でにぎりしみていた。
恐らくそれは面倒事をこれから引き込んでしまう
罪悪感と、これからどんな事が起こるかの恐怖心から
来るものだろう。
しかし、アルゴースはその決意をあざ笑うかのように
下種な笑みを浮かべると
「残念ながらあなたたちに拒否権はございません。
あなたたちが拒否したらあなた方のお母上は
奴隷になり二度とあなたたちの前には現れる
ことはないでしょう。」
「それはどういう事?」
「私は先の決闘でフィリアさんに勝利した際に
あなたの持つ権利を貰いますといいました。」
「あなたがギルドの権利を手に入れる事と、
お母さんが奴隷になるのはどういう関係があるの!?」
俺はその時気が付いてしまった。
アルゴースの目的に。
「アルゴースさん。あなたまさかその権利とは
人権の事ですか。」
俺がそういうと整った顔が一気に破綻し
とてつもなく醜い笑みを浮かべた
「ええ、その通りですよ。
いやさすがはノウス君だの見込みが早い。
そう私がフィリアさんから頂いたのは
フィリアさんの人権です。
これで私がフィリアさんを使用人に
しようが奴隷にしようが誰にもなにも言われない
のですよ。」
ミーナは俺たちの話を聞いてようやくその事を
呑み込めたのか青い顔をしていた。
「つまりお母さんの権利を返してほしいのであれば、
決闘をして勝ってみせろという事ですか?」
「ええ勿論あなた方にも権利をかけてもらいますよ。」
「それはつまり、負けたらあなたに生涯服従という
ことですか?」
「その認識で間違っておりません。」
「ふざけるなーーーーーーー!」
俺とアルゴースの会話を聞いていた
ミーナはこらえられなくなったのか
叫びながらアルゴースにとびかかった。
「決闘前に相手に手を出そうとするとは
あまりにも失礼です、よ!」
アルゴースはミーナの直線的な攻撃を
いとも容易く回避し、カウンターで
蹴りを返していた。
ミーナは咄嗟に腕でガードしたが
腕から嫌な音がしてそのまま壁まで
ふきとばされた。息はしているようだけど
気を失っている。
「今の攻撃でミーナさんは明日の戦闘は不可
よって君に戦ってもらいますよノウス君。」
「最初からこれが狙いだったんですか?」
「なんのことかは知らないが君も、
戦いを生業に生きているならわかるだろう?
何かがかかっている時にわざわざリスクの
ある方を取る馬鹿はいないって。
それではこれで失礼するよ。
ノウス君明日を楽しみにしているよ。」
アルゴースはそういうと自分の屋敷に
帰っていった。
その晩二人が目を覚まして事の顛末を
伝えると二人は絶望に顔を染めていた。
「ノウスダメだ逃げなさい。
お前が戦うことは無い私
母さんの事は放っておいて逃げなさい。」
「そうよこっちの事は私に任せて
ノウスは逃げてお願い」
「何を言ってるんだい。
ミーナあんたも逃げるんだよ。
幸いまだ決闘は正式に受理されてないんだから
逃げるなら今しかないんだよ。」
「いやだよ! お母さんを奴隷になんてさせない!
大丈夫私が明日絶対に勝つから。」
「万全の状態で瞬殺されておきながら
何を言ってるんだい! 勝てる訳ないって
打ち込んだあんたが良く分かっているだろう。」
「でもー」
「いい加減にしてください!!」
俺が大きい声で怒鳴りつけると
二人は驚いたようにこっちを見ていた。
「お母さんと姉さんが言いたいことはわかります。
ですがそれは全部却下です。まず今更逃げようと
してもここはアルゴースの領地です。恐らくもう
逃げ出さないように兵士が設置されているでしょう。
それと姉さんが戦うという件ですがそれも却下です。
腕の骨を折られているけが人を戦わせる訳にはいきません。」
「じゃあどうするっていうんだい?」
「そんなの決まっています。
僕が戦います。」
「ダメだよそんなこと!」
「いえそれ以外選択肢がありません。
ここで何もせずに諦めてすべてを
失うくらいなら最後まであがいて
あがきぬいて見せます。
僕のこの意見は変わりません。」
「ノウス...。」
「それに僕は今.....。」
「今...何?」
「これまでにないほど怒っています。」
補足説明
この世界では 金貨一枚一万円相当
銀貨一枚千円相当
銅貨一枚百円相当になっています。