一章 二話
俺がノウスとして拾われてから早5年が経とうとしていた。
この五年間日々鍛錬を怠ることなく過ごしてきた。
とは言っても特殊なことをするのではなく、
俺の他にも剣術や体術などの戦うすべをこの
冒険者ギルドに教わりに来ている子供たちに
混ざって行う程度のものだ。
子供たちに戦いを教えているのは、引退した
元冒険者たちだ。魔物の集団が押し寄せてきた
事件で、冒険者ではない多くのものが亡くなった。
普段戦いをすることがない人が魔物に襲われても、
対抗するすべを知らず冒険者が来る前にやられてしまう
というものが多かったそうだ。
そこでギルドは希望者をつのり戦うすべを少しだけでも
覚えてもらい生き残る確率を上げて貰おうとしたのが
この訓練教室だ。
そして今は模擬戦の時間。場所はギルドの訓練場。
内容は年が近いもの同士でタッグを作り模擬戦を行う時間だ。
「さあノウス今日も勝たせてもらうわよ。」
「へ、僕の方こそ今日は調子がいいんです。
今日は勝たせてもらいますよ。」
俺の対戦相手は俺と身長が同じくらいで
少し赤が混じった茶色の髪を
普段は降ろしているのだが今は戦闘の邪魔にならない
ように後ろで髪をまとめていて、その大きく
見開かれた目には闘争心が宿っている。
この如何にも活発そうな子が俺の一つ年上の姉さんミーナである。
「ふん。そんな減らず口がいつまで続くか見ものだわ。」
「減らず口かどうかはやってみないと分かりませんよ。」
お互いがそう言い合っている内に周りの準備もできたみたいだ。
「それではこれから模擬戦を開始する。始め!!!」
開始の合図と共に俺と姉さんは同時に地面を蹴った。
間合いに入った瞬間お互いに模擬刀を降り落した。
何度か剣と剣を打ち合いながら相手の出方を伺っていて
つばぜり合いに持っていくと姉さんから話しかけてきた。
「なるほど。調子がいいって言ってたのも伊達じゃないようね。」
「当たり前です。今日こそ姉さんに勝つ気でいるんですから。」
「ふーん。じゃあもうちょっと本気を出しますか!」
そう言うと姉さんは僕の剣を思いっきりはじき飛ばした。
幸い剣は落とさなかったけど大きく後ろにのけぞり
またとない隙を作ってしまった。
姉さんがその隙を付かないわけもなく、すぐさま俺の
懐に入り胴をきめてた。
俺は三メートルは吹っ飛んだ。
構えなおそうと向き直った瞬間首筋に剣があてがわれていた。
「.....まいりました。」
「ふっふーん。今日も私の勝ちー♪」
「今日こそは勝てると思ったのですが。」
「まだまだ詰めが甘いのよ。
話しかけられて気を緩めるなんて、
いくら私が可愛いからって油断はダメよ。」
確かに家の姉さんは可愛い6歳の段階で将来美人に
なることが分かり切っているようなそんな感じだ。
確かに至近距離で話しかけられようものならドキッとも
するだろう本当の5歳であれば、しかし俺は今年で
精神年齢773歳であるこんなお子様にドキッと
するはずがない。
俺は今リミッターを使い常人レベルでしか力を発揮できないけど、
751年の経験があるいくら剣を使い始めたのが最近とはいえ
こんな風に負けるなんて正直俺がなまっているだけでは説明付かない。
だけどそれもそのはず、だってこのお方剣聖のスキルを持っていらっしゃるんですもん。
剣聖とは剣を使えば使うほど上達していき、その成長速度の
とんでもないものである。
しかも剣を装備している時だと自分の身体能力を上げるおまけつき。
こんなのに長期戦になったら姉さんの方が有利になるのは火を見るより明らかである。
だから開幕に突っ込んでさっさと勝負を決めてしまいたかったのだが、全て対応された
簡単にとは言えなくともそれでも余裕を持って。
つばぜり合いが時に力が増したのに驚き気づいたか胴に
入れられていて吹っ飛ばされあっけなく負けた。
これで11勝29敗さらに10連敗である。
最初こそ経験の差で勝っていたが最近はもう全然である。
ちなみにスキルの事を知っているのは家族だけだが知っている。
他者にばれて面倒ごとを避けるためである。
「さあ、模擬戦も終わったことだしおうちに帰ろ。」
ミーナはそう言うと今だ尻もちをついている俺に対して
手を差し出してきた。
「すみません姉さん。僕はこの後用事があるので
先に帰っててもらえませんか。」
「ええそれって私とじゃダメなの?」
「すみません。ギルドによる依頼なので。」
「うう、それじゃあ仕方ないね。
でもあまり遅くならないようにするんだよ。」
「はい! それではいってまいります。」
「うん行ってらっしゃい。」
俺はそういい訓練場を後にした。
俺はまだギルドに所属していない。
だが母さんがギルマスなので誰もやらないような
簡単な採取クエストを時々特例でやっている。
しかし主な目的はクエストを行うことで貰える
小遣いではなく。周辺にいる魔物の調査をしながら
時々いる危険種の討伐。盗賊が住み着いてないかの
調査である。
魔物は基本見かけたら狩るようにしている。
当然レベルアップの意味もあるが他にも
魔物が増えすぎたり何か異常がないかを調査して
魔物の大群が押し寄せるような危険を
未然に防ごうとした活動の一環である。
「ふう。今日はこれくらいにして帰るか。」
まだ辺りはそんなに暗くはないけどここは森だ。
夜になると辺りが見えなくなるほど暗くなる、
そんな場所で暗視などのスキルがない俺が
行動できるはずもないので早めに帰路につく。
「しかし家の姉さんは本当にでたらめだよなー。
剣聖のスキルがあるからって我流であそこまで
強いのは反則だよなー。」
そう今日の負けに関して一人ぐちぐち
言っている時だった。
ふと妙な気配がした。
生き物のものでは無いが瘴気のようなものだ。
俺がその方に行くと、何とも毒々しい沼の
ような所にでた。
「なんだこれひどい毒気だな。
こんな物があったら周りの木にも
悪影響がでるぞ。」
俺は沼の方に向かいその水面に触れると
治癒魔法の一つで状態異常を治すものを使った。
「穢れを落としたまえ クーリア。」
しかし自分が触れている所は浄化できたが
その他の所がダメですぐに浄化した場所まで
汚染されてしまう。
「ダメか、ならリミッター解除。
そんでもって
穢れを払いその者をあるべき姿に戻したまえ
クーリバーナ!!」
先ほど唱えた魔法の上位互換を本来の力で
使うと浄化の光は沼を覆っていき浄化を始めた。
十分ほどで浄化は完了し、とても綺麗な湖が現れた。
「よしこんなもんでいいだろ。」
俺は踵を返し帰路に戻ろうとすると
湖の方で何かが光ったかと思えば
キラキラしたものが俺に向かってきた。
最初は警戒したが何となく悪いようなものではない
ように感じたそのまま佇んでいると光が俺を包み
そして消える寸前
”ありがとう”
と声が聞こえたかと思うと完全に光は消え、
後には俺と綺麗な湖だけが残った。
「どういたしまして。」
俺は一人そういうと今度こそ帰路についた。