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魔法使いの妻  作者: M38
第1章
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第4話

「おーい! シェリー! ここだよー!」

「アレックスったら……あんな大声で……」


 昼になり、レイラにせがまれ一緒に食堂へきていた。奥のテーブルにアレックスが座っていて、一生けんめいこちらに手を振っている。食堂中の視線がわたしとレイラに注がれていた。


「シェリー! ここに座って。ぼくの隣りに!」

「アレックス……」


 アレックスのそばに近づいていくと、彼は立ち上がって椅子を引き、わたしを自分の隣りの窓際の席に座らせた。


「はじめまして。わたしはレイラ! シェリーの親友よ。以後、よろしくね」

「レイラ……みんなが見てるわ」

「いいじゃないの。見せておきなさいよ。人の噂も七十五日って言うじゃない。そのうちみんな、アレックス・カーライルとの結婚の夢見るのをやめて引っ込むわよ。ライバルが減って大助かりだわ」

「レイラってば……」


 こんな状態があと七十五日も続くだなんて耐えられそうにないわ。


 アレックスのとなりに見知らぬ男子学生が座っていた。その学生はアレックスと同じぐらい背が高く、黒髪黒眼のイケメンだった。労働者風のがっしりとした体つきをしていたが、着ている服や身のこなしは洗練されていて、教養あふれる明るい眼差しをしていた。彼がレイラに話しかけた。


「君はこっちに。ぼくの隣りでいいよね?」

「まあ、ご親切にどうもありがとう。ところで、あなたはどなた? わたしはレイラ・アルデラ、物理化学専攻よ」

「ぼくはルイ・クレマー、アレックスと同じ魔法学部だ。こんな美人とお近づきになれて光栄です。それにしても……自分なんかが、有名人たちと一緒のテーブルに着いても大丈夫なのかな?」

「おい、ルイ! そう思うなら、物理化学部の女性と一緒に隣のテーブルに移れよ。ぼくとシェリーの貴重な時間をこれ以上、邪魔すんな」

「アレックス! おともだちなんでしょう? 失礼だわ。それに……食堂もだいぶ混雑してきたわ。相席したほうがいいわ」

「そうだぞ、アレックス。今のは単なる社交辞令だぞ。真に受けんなよ」

「ルイ……一緒に食べるにしても、ぼくの昼飯は分けてやらないぞ。シェリーの手作りなんだ。彼女のお手製弁当を口にするのは、生まれて初めてなんだぞ!」

「アレックス……恥ずかしいからやめてよ。そんな、黒パンと野菜クズで作ったサンドイッチ……。ニンジンの皮やキャベツの芯の千切りしか入ってないわ。学食でランチをいただきなさいよ? 王家の人は、タダでなんでも食べられるんでしょう?」

「シェリー……まだわかってないのかい? ぼくにとっては、今朝、君と2人でたべた昨日の残り物のスープに入れられたライ麦は、感謝祭のケーキに値するぐらい貴重な食べ物なんだ。問題は食材じゃない。作る人に価値があるかどうかだ!」


――ガサガサッ……。


 アレックスはカバンからサンドイッチの包みを出し、食べはじめてしまった。いまは何を言っても無駄らしい。


「あの……レイラ……わたしもお弁当を食べるので……」

「そうね……わたしたちは何か注文してくるわ。先に食べてて! ルイ! 行きましょう」

「そうだね。シェリーメイだね。改めてよろしく。ルイ・クレマーです。あなたのおウワサは入学前から……」


 ルイが右手を差し出した。あいさつに応えようとわたしも右手を差し出した。


「ストーップ!」

「アレックス?」


 アレックスが突然、2人の手の間にサンドイッチを差し出してきた。


「アレックス……なんだよ?」

「ぼくの前でシェリーの手を握ろうだなんて、ルイ! おまえはそうとうに図々しい男だな?」

「握る? 握手もいけないのか?」

「そうだ。そうに決まってだろ。その女を美人だって褒めてみたり。まったく……節操のない男だな!」

「アレックス、やめてよ。彼が困ってるわ。ルイってわたしも呼んでいいかしら? あらためてシェリーメイです。よろしくね。ところでわたしのウワサってなに? この珍妙な格好かしら?」

「とんでもない! この王立魔法大学校はじまって以来の天才が入学するってね」

「おい、ルイ! シェリーを狙っているならおまえと友人になるのはやめる。あしたからぼくに話しかけるな!」

「アレックス……そんなんじゃないよ!」

「アレックスってば……」

「ちょっと、ルイ! 昼食が無くなるわよ! 先に行くわね!」

「あっ! レイラ! 待って!」


 レイラに呼ばれ、ルイは飛んでいった。


「ルイのやつ、あっちこっちの女に声をかけやがって! あの金髪女が本命か? それにしてもルイのやつ、もう尻に敷かれてるよ。相当にきつい女だな」

「レイラの見た目に関心を払わないのはアレックス、あなたぐらいよ。自分が美しい人って、審美眼が少しおかしいのかしら……?」

「シェリー……君ほどの美人はいないよ。世界でいちばん美しく魅力的なのは、シェリー、君だけだ……」

「少しどころじゃないわ……マックス振り切っちゃってるわ。アレックス、お水を持ってきてあげるわね」

「いいよ、シェリー。水汲み場はいっぱいだ。魔法を使おう」

「アレックス……!」


 アレックスが空のグラスの上でクルクルと人差し指を回すと、みるみるうちに2つのグラスは透明な水でいっぱいになった。


「これぐらいのズルは許されるだろう? シェリーをあの大勢の人間と一緒に並ばせたくないんだ。それでなくても、さっきから皆の視線が突き刺さるようだ。ぼくたちのことが相当うらやましいとみえる。大学に入り立てでまだ相手が見つからない連中ばかりだから、ぼくたちをやっかんでいるんだろう。なんともかわいそうに……」

「アレックス、あなたって……単に鈍感なだけなのね」


――ガサガサッ……。


 アレックスの説得はあきらめて、わたしもカバンからお弁当を取り出して頬張った。おかしな気分だ。公爵子息とテーブルに向かい合い、彼と同じサンドイッチを食べている。しかもサンドイッチの中身は余り物の貧しい食材だ。慈善事業にきた王族と貧しい使用人。傍から見たら、わたしとアレックスはそんな風にしか見えないだろう。それほどわたしとアレックスは釣り合っていなかった。





 その後、ランチを注文したレイラとルイも交え、たのしく昼食を共にした。アレックスがわたしと2人きりになれなかったと、しきりにルイたちに文句を言っていた。


 それにしても、仲間と平和に食卓を囲むのはいったい何年ぶりのことだろう。この数年間は時間ばかり気にしていて、勉強か労働のどちらかを常に選択しながら食べ物にかじりついていた。どんなにお腹が空いていても、食べた気がまったくしなかった。だからアレックスと向かい合わせで食べたサンドイッチの味は、彼が言うように感謝祭明けに初めて口にする食べ物みたいにひどくおいしく感じられた。


 それが決してアレックスと共に食したからではないと、今なら断言できる。でも、そのときのわたしは、辛い年月の間に心の底に追いやられていたアレックスに対する想いが、ほんのちょびっとだけ頭をもたげてきたことに戸惑いを感じていた。





「そういえばシェリー、魔法に興味があるって言ってたわね。来週から聴講するの? わたしも一緒に出ようかしら」


 食事が終わり、レイラがわたしに質問してきた。アレックスの前でその話はやめて欲しかった。さっそく、アレックスが食いついてきた。


「シェリー! 魔法の勉強なんてもっての他だ! あんな化け物魔女たちみたいにハデハデしく着飾るシェリーは見たくないよ。今日だって、女子学生どもがやたらとおかしな流し目を送ってきて、授業になかなか集中できなかったんだ。それに、シェリー! ひどいじゃないか! 魔法のことならぼくに聞けばいいのに!」

「アレックス……それはそうだけど……。でも、アレックス……あなた魔法の天才なんでしょ? どうしてそのことを教えてくれなかったの? 子どもの頃のあなたが魔法を使うところなんて、見たことなかったわ」

「幼い頃は、家庭教師以外の前で魔法を使うことは父上に禁止されていた。王族はみな小さい頃から魔法が使える。こどもたちはそれでイタズラをするから、厳しく規制されるんだ」

「そうだったの……」

「今年からこの大学が王族を受け入れるようになったのは、成金たちは魔法が使えないからだ。新しい皇帝がもうすぐ決まる。恐らく大魔法使いのエンデバーさまになるだろう。そうなれば当然、魔法使いが優遇される。それを見越してのことだろう」

「やっぱり、魔法使いは偉大だわ」


 そうなのだ。この世界で最強なのは魔法使いだ。わたしがどんなに勤勉で努力家でも、魔法の杖をひと振りされたら完敗だ。魔法を前にしたら、どんな天才も叶わない。

 なまじ自分がこどもの頃にそれが使えたもんだから、余計のことわたしは魔法にとてもコンプレックスを持っている。


 だから魔法使いの前でわたしは委縮してしまう。ましてアレックスは魔法界の天才らしい。さっきも指1本で水を出現させた。わたしが井戸からたいへんな思いをしながら汲み上げるあの清い水をだ。そういえば、わたしのカバンのチョウツガイも魔法で直したと言っていた。


 どうしてあのとき気づかなかったのだろう。アレックスの魔力が並じゃないってことを。そんな人と一緒に魔法の講義を受けたくない。いつになくわたしは逃げ腰だった。


「シェリー……来週から魔法の授業を受けるつもりかい?」

「アレックス……聴講だけよ。わたしはまったく魔法が使えないから、今後の参考にしたいだけ」

「参考にしたいなら、今日の夜に催される魔法学部の特別講義に参加しようよ。面白いモノが見られるよ」


 突然ルイが口をはさんできた。


「面白い……モノ?」

「化学のマッキントッシュ教授と魔法使いのバーナビー教授が共演するんだ。レイラも来ないか? 滅多に見られない魔法が見られるよ」


 ルイはレイラに気があるようだ。さっきからことあるごとにレイラを誘おうとしている。


「面白そうね。シェリー、行ってみない?」

「わたしは……」


 たしかにその講義には興味がある。今日の化学の授業でわたしは、マッキントッシュ教授に最初から最後まで指名され続けた。ずっと立ちっぱなしで答え、しまいに前に出て長々と黒板に化学式を書かされるはめになった。それはとても複雑な問題で、わたしがやっとの思いで計算式を書き終えた頃には、教室には誰もいなくなっていた。マッキントッシュ教授もだ。すでに2時限目がはじまっていたからだ。


「興味はあるけど……」

「シェリー、行きましょうよ!」

「シェリー、行ってくれよ。じゃないとレイラが来てくれない。たのむよ!」

「シェリーが行くならぼくも行くよ。ぼくはいつだって、シェリーと一緒だ」

「アレックス……いまは決められないわ。午後の一般教養の講義を受けてから決めさせてちょうだい」


 そう答えるしかなかった。





――カチャッ、カチャッ……。

――ガヤガヤ……。


 午後の一般教養の授業をアレックスたちと受けたあと、皆で大学の食堂で夕飯を食べていた。今日は金曜日だから、月曜の夜まで下宿の食事の用意はしなくていい。本来ならまっすぐに下宿にもどり、余り物を適当につまみながらひたすら勉強しているはずだった。


「シェリーはガリガリだな……。もっと食べて」

「ありがとうアレックス……もうお腹いっぱいよ。わたしが痩せの大食いだって知ってるわよね?」


 大学の食堂のメニューは安価で量が多いから助かる。なのにアレックスは自分の皿から食べ物をスプーンに乗せてはしきりにわたしに勧めてくる。最終的にスプーンで直接、口まで運んでくれた。これには辟易してしまった。食堂中の女性の視線がわたしの口に釘付けになっていた。


 今夜は満月だ。賭けてもいい。寮にもどった女子学生たちは、月光の下で一斉にわたしを呪いはじめることだろう。


「ここの食事は、うちの下宿に比べたら味がひどすぎる。シェリー……君の料理に敵うメニューはどこにもないね」

「アレックス……あなた目だけじゃなくて、舌もおかしいのね」


 わたしたちはトマト風味のごった煮を食べていた。1番安いメニューなので具材は残り物かもしれないが、わたしにとっては何年かぶりで口にする鳥肉が入っていた。それだけでもクリスマスのごちそうに匹敵するぜいたくだった。


「ここの料理長は元王宮のコック長らしいぜ。アレックス、おまえのスープはいまに毒が盛られるぜ」

「ルイ! 君はシェリーの料理を食べたことがないからそんなことが言えるんだ。と言っても……ルイは一生、口にできない贅沢品だがね」


 アレックスがフフンとバカにした表情でルイを見た。


「なんだかアレックスって、見た目とぜんぜん違うのね。これじゃあ、うしろでわたしと同じメニューを食べて喜んでるストーカーたちのほうがまだましね。それにしてもシェリー……あなたの料理ってそんなにおいしいの?」

「やめてよ、レイラ! ただの田舎料理よ。アレックスは育ちが良いから、家庭的な味がもの珍しいだけよ」


――ガタンッ!


「そろそろ時間だ。レイラ、行こうよ」


 ルイが立ちあがった。


「シェリーも行きましょうよ。講義じゃなくて、ただのデモンストレーションだと思えば気がラクでしょ?」

「そうね……勉強とはちがうものね」

「シェリーが行くならぼくも、もちろん参加するよ」

「アレックス、あなた当初は行かないつもりだったの?」

「必要以上に魔法と関わりたくないからね。それに……シェリーと下宿で過ごすほうが何十倍も有意義な時間が過ごせる。シェリーがいるだけで、どこも天国になるんだ」

「……人が大勢いるところで過ごしましょうか」


 わたしたち4人は魔法の講義が行われる地下の集会室へ向かった。





――ザワザワ、ザワザワ……。


「すごい人ね……」


 集会場はすでに大勢の学生でごった返していた。教室の外まで人があふれている。


「これじゃ見えないわ! 座るところがないんじゃ、わたし帰るわ」


――レイラさまー! こちらに席を取っておきました!

――ご友人方もご一緒に!


 奥からレイラのとりまきの男子学生たちが声を上げた。こういうときにモテる友人がいると助かる。わたしたちはそそくさとレイラのあとから集会場の中へ入り、最前列に陣取ることができた。


 わたしは本当に魔法が苦手らしい。未知なるモノとの接近に、コトが始まる前からわたしは恐怖していた。


「シェリー……大丈夫かい? 何があっても、ぼくが守るからね」

「アレックス……どうもありがとう」


 さっそく、アレックスに頼ることになってしまった。わたしが震えていることがわかったらしい。アレックスはとなりの席で手を握ってくれた。


――キイーッ! ツカツカツカツカッ……。

――トンットンッ!


 奥の小さな扉から入ってきた小さな老人が、小さな杖で教壇を叩いた。老人は魔法使い特有のとんがり帽子と紫の長衣に身を包み、真っ白な長い顎鬚を生やしていた。


「みなさん、こんばんは。わしは魔法学部教授のバーナビーじゃよ。これから物理化学部のマッキントッシュ教授と合同で魔法学の講義を行う。助手が必要じゃな……おっ? アレックスがいるじゃないか。わしの手伝いをしてくれんか?」

「えっ? ぼくがですか? すみません、教授、今日は恋人と来ているので、助手はできません」

「アレックスったら! 断ったら失礼だわ」

「でも……魔法の講義に関わると、ロクなことがないんだよ」


――バタンッ!


 さきほどバーナビー教授が現れた奥の扉から、今度はマッキントッシュ教授が現れた。すぐにわたしを見つけ、こちらに近寄ってきた。


「おやおやこれは……天才シェリーメイじゃないか! 化学だけじゃ物足りなくて、魔法の講義まで受けに来るとは……大した向学心だよ。よほどマイナス1点が気になるらしいな。秀才らしい向上心に恐れいるよ」


 さっそく嫌味を言われた。彼はなんだって、わたしのことを目の敵にするのだろう。


「マッキントッシュ教授! ぼくのフィアンセに何かご不満でも?」

「アレックス! いつわたしが婚約者に? やめてよ!」

「おや? シェリーは魔法の天才児と婚約中なのか? これはますます面白い。だったら、どうして魔法問題ができなかったんだ? わざと間違えたのか?」


 マッキントッシュ教授は白衣に包まれた大柄な体を揺さぶりながら、胸を反らして片眉を上げバカにしたような表情をした。経済専攻のわたしが化学も得意なことがよほど気に入らないらしい。


「なんだと! シェリーはわざと問題を間違えたりしない! 教授、魔法が使えるからなんだというんです? 努力する人間のほうがよほど立派です」

「努力と才能はちがう。ここはもともと魔法使いの王族のための大学だ。庶民が来るような場所じゃない!」


 そういうことか。マッキントッシュ教授は、貧乏人のわたしがこの大学に通うことが気に入らないのだ。彼は尊大な態度のまま、わたしを睨みつけている。


「マッキントッシュ教授! ぼくの婚約者に対する侮辱です。発言を撤回してください! 時代は変わりました。これからは個人の才能がものをいう時代です!」

「こりゃっ! アレックス! 口を慎みたまえ。いいから……おまえは黙っていなさい!」


 バーナビー教授が、アレックスとマッキントッシュ教授の間に割って入った。


――トンットンッ!


 再び杖で教壇が叩かれた。マッキントッシュ教授の登場で騒然としていた教室が再び静まり返った。皆がチラチラとわたしたちを見ているのがわかる。これ以上、目立ちたくない。


「アレックス、何か金で出来た物を持っていないか?」

「金……ですか? ネックレスチェーンが……あっ!」


――ビュンッ!


 アレックスの首に下がっていたチェーンがとつぜん浮き上がり、勝手に教壇まで飛んでいった。


――チャッ!


 バーナビー教授がそれを手でキャッチした。


「ちょっと借りるぞ。おや……? 金の鍵まで付いておるじゃないか? こりゃ、いいわい」

「教授! それは命より大切な鍵です! ぜったいに失くさないでくださいよ!」

「わかっておる。わしは別にカーライル家の財産を狙っているわけでもなんでもない。これはただの実験じゃ」

「バーナビー教授! おかしいわ!」

  

 レイラが美しい声で言葉を発した。彼女には物怖じするということがないらしい。


「お嬢ちゃん、なんじゃ?」

「金の鍵をどうするんですか? 普通の錬金術は、石を金に変えるはずよ」


――そうだ、そうだ!

――さすがレイラだ! 実に聡明な発言だ!


「ウォッホンッ! いい質問じゃ。今晩の特別講義で、皆に魔法の本質を暴露しようと思う。じゃから、化学のマッキントッシュ教授に来てもらったのじゃ。君たちは、魔法の正体を知っておるか? そうだな……では、アレックスのフィアンセ殿に聞こう。君は魔法がまったく使えないようだが、成績は優秀だ。つまり脳の努力だけでここまでのし上がってきた人間だ。君にとって魔法とは、なんだ? どういうものだと思うかね?」

「わたしにとって、魔法とは……」


 地下の集会室が静まり返った。部屋いっぱいの観客が、一斉にわたしの口元へそば耳を立てた。


 魔法、それはわたしがこの世でいちばん苦手とするもの。コンプレックスの源。わたしが絶対に勝利できない天敵。

 魔法とはいったい、わたしにとってどのようなモノなのだろう。

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