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魔法使いの妻  作者: M38
第1章
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第3話

――シャッシャッシャッシャッ……!


「シェリー……君をどんなに探したことか! ギリギリまで町中をかけずり回っていたから、入学式に遅刻しちゃったよ。もっと早く大学へ行っていれば、入学式の前に君といっぱい話せたのに!」


――シャッシャッシャッシャッ……!


「まさか君と同級になれるだなんて……ぼくはなんてラッキーな男なんだ!」


――シャッシャッシャッシャッ……!


「だけど、君がぼくに投げつけていったカバンに、君の住所が書かれた書類が入っていたから本当に助かったよ。決して君のカバンの中身を見たわけじゃないよ。偶然、蓋が開いて書類がこぼれ落ちただけだ。蓋のチョウツガイが緩んでいたから、ぼくが魔法で直しておいたよ」


――シャッシャッシャッシャッ……!



 


 あのとき、アレックスに突然キスされた入学式の帰り。


「きゃああーっ!」


――ドンッ!


「あっ! シェリー!」


――ダダダダーッ!


 全校生徒の前でアレックスにキスをされたわたしは、彼を思い切り突き飛ばしダッシュでこの下宿まで帰ってきた。カバンを忘れて。





――ダンッ!


 床を磨いていたデッキブラシの動きを一時中断すると、階段に座り楽しそうにおしゃべりしているアレックスに向きなおった。


「だからって……アレックス! 何もわたしの働いている下宿に住む必要はないでしょ? しかも、わたしの住んでいる屋根裏部屋の真下の階を借りるだなんて!」

「シェリー……やっと話してくれたね? そうだよ。シェリーを守るため、ぼくは君の部屋の真下に住むことにした。大学の寮なんかより、何百倍も素晴らしい場所だよ、ここは!」

「たしかに……ここはもともと、アレックス、あなたのお屋敷だったわ。あなたにとっては思い出深い場所でしょうけども……」

「ここの屋根裏部屋の眺めは最高だろ? ぼくも子供の頃は、上がって町中を一望したものだよ。久々に見せてもらってもいいかな? シェリーと一緒に屋根裏部屋から夜空を見上げるのが、小さい頃からの夢だったんだ」

「……懐かしさからくる単なる好奇心なら屋根裏部屋を見学されても一向に構いませんが、それ以上を望まれるのなら断固、拒否いたします!」

「シェリー……なんで急に他人行儀になるのさ? ぼくたち、将来を誓い合った仲だろ?」

「アレックス、それはこどものときの口約束でしょ。あなたは今も昔もカーライル家のお坊ちゃんで、わたしは、今も昔も孤児の貧乏人よ。ましてこんな容姿じゃ……。わたしとあなたは、どこをとっても釣り合う点がまったくないわ」

「シェリー……もしかして、彼氏がいるの? まさか……婚約までしていないよね? 君は年上だから、離れているあいだ気が気じゃなかったよ……」

「わたしのこのなりを見て、そんなこと言うの? こんな様子の女に、相手なんがいるわけないでしょ? 過酷な労働と死ぬ気の勉強で、そんな暇まったくなかったわ。そしてそれは……アレックス、今後も続くわよ!」

「シェリーまさか……誰かにずっと片思いしてるの? カールは? 君と仲がよかったじゃないか」

「カールですって? あのいたずらっこは、もう結婚して赤ちゃんがいるわよ。孤児院のみんなは本当の兄弟に等しいわ。そんな対象にはならない」

「ぼくはひとりっこだったから、君たちの共同生活がとても羨ましかった……。ぼくの一族は国を追われ、帝都の親戚を頼り身を寄せた。レイク国のことはまったくわからなくて不安だったよ。手紙や荷物も届かず、君との連絡も取りようがなかった。ぼくの家族や親戚、友人たちは皆、帝都にいる。でも、ぼくはどうしても君に会いたくて、レイク国の王立魔法大学校に入学したんだ。今年から王族の生徒も受け入れるようになったからね。レイク国について真っ先に君を探した。シェリー……クーデター後は、たいへんな苦労だったろう。よく生きていてくれた。これからは、ぼくが君を一生をかけて守る!」

「アレックス……あの……」


 アレックスはその美しいブルーの瞳でわたしをまっすぐに見つめている。彼は子どものころ、父親に連れられ孤児院の慰問に訪れた。そこでわたしにひとめぼれしたそうだ。彼はことあるごとにわたしの元へ訪れ、積極的にアプローチしてきた。そして、遂にわたしたちはヤドリギの下でキスをして永遠の愛を誓い合った。

 普通は、大人になった2人は自分たちが結婚できない間柄だとわかり、自然消滅する。それに、大きくなるにつれて人間の容姿は変わる。こんなわたしを見ていまだに結婚の話をしてくるアレックスは、すごく目が悪いか、頭がおかしいかのどちらかだろう。


「結婚は……当人同士では決められない問題よ。ましてあなたは王族。ご両親やご親戚の方々は、なんておっしゃってるの? 猛反対されてまでするもんじゃ……」

「両親や親戚には、君にプロポーズする前に確認済みだよ。みんな大賛成してくれている。これからの時代は血より才能だってね。君はこどもの頃から天才児だった。父上はぼくが君を好きだって知ってて、孤児院に何度も連れていってくれたんだ。ぼくらの1番の理解者は父上なんだ。もちろん、母上もね。それは今も変わらないよ」

「へっ……へー……そうなの……。こどもの分際で……親に結婚の許可を? でも、長い目で見たら……帝都のお姫さまやこの国の成金貴族の娘のほうが、あなたには利益があるってわかるはずよ。皆、容姿も美しいし……。そう! それに、マナーが行き届いているわ! 小さい頃から躾も厳しくされている。話し方や行儀作法も身に付いているし……そうそう! わたしの手を見てよ。労働ばかりでこんなに強ばって荒れているわ。こんな暮らし方をしてきた人間が王族の嫁になんて……」


――ガシッ!


 アレックスが階段の柵の間から手を伸ばし、わたしの両手を握りしめた。


「…………!」

「ぼくはシェリーの手も顔も足の裏までぜんぶ好きだ。苦労してきたシェリーのいままでの生活も含め、丸ごと君を愛してるんだ。シェリー……あらためてぼくと結婚して欲しい」

「アレックス……」


 小さかったアレックスの背は、いまやわたしより頭1つ分は大きくなり、労働者のようにゴツイわたしの手よりも、ひとまわり大きい手をしていた。

 男性とダンスの1つもしたことのないわたしは、大いに戸惑っていた。


――ドンッ!


「シェリー……?」


 わたしはアレックスを押しのけた。


「はあはあ……あっ……あの……! そうだ! 夕飯の用意をしなくちゃ! 失礼!」

「あっ! シェリー!」


――カラーンッ! ダダダダッ!


 アレックスになんと答えていいのかわからなかった。デッキブラシを放り投げ、その場から逃げだした。





――シュッシュッシュッシュッ……!


「ぼくはなんてしあわせモノなんだ! 国にもどったとたん、未来の妻の手料理がたべられるなんて!」


――シュッシュッシュッシュッ……!


「しかも、毎日だ! 食事のたびに、愛する女性から施してもらえるこのよろこび! いますぐ死んでもいい!」


――シュッシュッシュッシュッ……!


「おおっ! シェリー! シェ……ぐっ!」

「スープの味はどう? しょっぱくないかしら?」


 アレックスの褒め言葉があまりにも恥ずかしくて、ジャガイモの皮を剝く手を休め、止まらない彼の口にスープをすくった大きなスプーンを突っ込んでやった。


「ごっくん! 上出来だ! こんなにおいしいスープは飲んだことがないよ!」

「どうもありがとう……アレックス、そろそろ席に着いてちょうだい。みんなが見てるわ」

「下宿人たちもシェリーの手料理を食べるのか? 本来なら、ぼくがぜんぶ食べたいぐらいだ」

「無理言わないで。こんなに大量の料理、あなたひとりじゃ無理よ」


 カウンターの前に並ぶ下宿人たちの列に目をやった。ここは比較的高級な下宿屋だ。国で働く公務員が多い。就職に有利になると思い、この下宿屋を選んだ。もちろん、アレックスの屋敷だったということも承知の上でだ。


「シェリー、ぼくにも手伝わせてくれ。そして、一緒に食べよう」

「アレックス……」


 アレックスに給仕を手伝ってもらい、わたしも食事にありつくことにした。3食たべられるなんて、夢のようだ。仲間たちはどうしているだろう。幼いアリーは子守として遠い田舎の農家へ奉公に出された。ひもじい想いをしていなければよいのだが。


「シェリー……シェリー?」

「あら……? アレックス、どうして席に着かないの?」

「君のそばで食事がしたいからさ、シェリー!」

「だからといって……ジャガイモ袋の上に一緒に座るなんて……。それに、わたしの食事はまかないよ。あなたは下宿代を払っているんだから、ちゃんとした食事をしてちょうだい」

「いいんだよ。ぼくはこの、キャベツの芯やにんじんの根っこのスープで、十分おなかも心も満たされるから。いや、むしろ今のぼくは、なにも食べなくても生きていける!」

「アレックス……仙人だってそれは無理よ。おなかいっぱい食べてちょうだい」

「じゃあ! ぼくのパンを2人で分けよう! さあ!」

「アレックスってば……」


 アレックスがわたしに白パンを差し出した。白いパンを食べるのなんて、本当に久しぶりだ。少しちぎってスープに浸し、残りはアレックスの皿にもどした。


「どうもありがとう。アレックス、食事は大切よ。しっかり食べてね」

「シェリー……わかった。君が言うなら、ちゃんと食べるよ」

「では、いただきましょう」

「いただきます。あっ! そうだ! 君にもらった金の鍵、このとおり、肌身離さず持ち歩いているんだよ」

「金の……鍵?」

 

 アレックスがシャツから金のネックレスチェーンを取り出した。その先に、金色の小さな鍵がついていた。


「まあ……それって!」

「うん。君からもらった愛の証だ。一生、大切にするよ」

「アレックス……」


 金色の鍵が、アレックスの金髪のようにキラキラと光り輝いていた。その鍵は、孤児院の前に捨てられていたわたしのおくるみの中に入れられていたものだ。アレックスが別れ際に欲しがったので与えてしまった。その頃はもう、わたしを捨てた両親が、わたしを迎えにくることはないと悟っていたから。わたしにとっては悲しい思い出の品となっていた。

 




 翌日は朝からアレックスと一緒だった。彼に昼のお弁当が欲しいと言われ、サンドイッチをこしらえてやった。


「……いくら住んでいるところが同じだからって、登校まで一緒にしなくても……」

「シェリーが変な奴に声を掛けられないようにぼくがガードするんだ」

「悪口なら、昨日いっぱい掛けられたわよ。それ以前に、わたしを誘う人間なんていないわよ。そんなモノ好き、あなたぐらいだわ」

「そんなことないよ! さっきからみんな、陰からコソコソこっちを見ながら内緒話をしているじゃないか!」

「あれは、アレックスのことを噂してるのよ。アレックスはキレイでかっこいいわ。みんな、お近づきになりたいと思っているのよ。ましてこんな女と一緒に登校してきた。アレックス、あなた変な意味で有名人になってしまったわね。ねえ、もうわたしと歩くのはやめたほうがいいわ」

「なんでだ? レイク国の法律で、男女交際が禁止されているのか? ぼくはただ、婚約者と一緒に大学へ通っているだけだ!」

「婚約者……! ちょっとアレックス、そのこと絶対に大学の人には言わないでね。女子学生たちに、わたしが袋叩きになるわ!」

「なんてことだ……シェリー! じゃあ……ぼくらはまだ恋人のままなのかい?」

「アレックス……」

 

 真剣な目をするアレックスの表情を見つめながら、途方に暮れてしまった。わたしがいったい何をした。あのとき、ヤドリギの下でアレックスに魔法でもかけてしまったというのか。

 わたしとアレックスを見る学生たちの目つきは尋常ではない。女子学生たちから発せされる視線には、殺意さえ感じられた。


 こんな風に、わたしの大学生活は初日から波乱の幕開けだった。本当に、このときわたしが、しっかりアレックスを突っぱねるべきだった。当時の彼の純粋な心に、ついついほだされてしまったのだ。


 わたしは本当に愚かな小娘だった。人間の心が環境によってコロコロ変わってしまうことは、辛い境遇に身を置いてきたわたしにとって衆知の事実だった。親が子を捨てるのだ。他人のアレックスいつかわたしを裏切ることぐらい、わかり切っていたはずなのに。





「名残惜しいよ、シェリー……」


 大学に着いた。わたしは経済学部、アレックスは魔法学部だ。一般教養の授業だけ一緒になる。


「アレックス……あなたのご両親が学費を出してくださっているのよ。わたしのことはキレイさっぱり忘れ去り、しっかりと勉強しなくちゃいけないわ」

「そうだね……。実はシェリー、ぼくは王族だから、授業料、生活費も含め、その他すべてが国から支給されているんだ。でも……シェリーとの将来のためにがんばって授業を受けるよ。それに、午後の授業は一緒に受けられるもんね! お昼も一緒に食べようよ。食堂にきてくれ!」

「そうだったの……アレックス、あなたは恵まれているのね。それじゃあ……わたしは行くわね」

「気をつけて! ぼくのシェリー! 愛してるよ!」


 わたしに手を振るアレックスのうしろで、美しく着飾った魔女たちがこちらをにらみつけている。男の魔法使いたちもだ。わたしの姿を上から下まで見下ろし嘲笑っている。アレックスといるわたしは、みすぼらしさが倍増するらしい。


「まあっ……仕方がないわ。2年の辛抱よ」


 魔法大学校は4年生だが、トップの成績を維持できれば2年で卒業できる。アレックスには悪いが、先に卒業してしまおう。2年もあれば彼の目も醒めるだろう。

 魔法使いは美形ぞろいだ。なかでもアレックスは抜きん出ている。わたしがいなくなれば、すぐに美人の彼女が見つかるだろう。わたしのような出自のわからない惨めな貧乏人ではなく、大金持ちの美しいお嬢さまが。


 そのときわたしは、そう思っていた。このときのまま当初の目標を失わず、自分で立てた人生計画を着実に実行していれば、のちのちアレックスの女性関係で悩むことはなかったはずだ。つくづく恋の二文字に踊らされた自分が憎らしい。理性を欠き恋愛に流され、アレックスに合わせた生き方を選んでしまったばっかりに、わたしの運命が狂ってしまったのだ。





――キイーッ。


「ここね……」

 

 暗くて狭い実験室に入っていった。1時限目は化学だ。わたしが唯一満点を取れなかった教科。それもそのはず、最後の1点は魔法ができないと解けない問題だった。


「あら? ねえ! あなた!」


 化学の教授はなかなかの曲者だ。真っ白なマスの中を透視せよという、天才児のわたしが唯一解けない魔法問題を用意してあった。何がなんでも、わたしに満点を取らせたくなかったとみえる。だけど、化学で満点を取れた人間がいたらしい。つまり、勉強でわたしの上を行った人間がいたというわけだ。いったい、どんな人物なのだろう。


「ねえ! ねえってばー!」


 いままで他人に関心がなかったけど、今回だけは興味がある。だって、魔法が使えるのに化学がメチャクチャできるだなんて、そんな人間めったにいない。男の魔法使いに決まってる。だとしたら、この時間はアレックスのように魔法学の授業を優先して出てるはず。残念だわ。化学の授業で会いたかった――。


「ねえってば! 無視しないでよ!」


――グイッ!


「きゃあっ!」


 いきなり三つ網を引っ張られた。


「なになに? いったい……なにごと?」

「やっと、振り向いてくれたー!」

「えっ?」


 鈴を転がすような美声が聞こえた。声の主を探すと、目の前に妖精のようにかわいらしい女性が、なぜか仁王立ちしていた。キラキラと豊かな金髪を小柄な体の腰までたなびかせ、肌の色は真っ白で瞳の色は深いブルー。同じ碧眼でも、アレックスとはちがい勝気そうな光を放っていた。彼女が着ている水色のふんわりとしたドレスは、襟元と袖口の白いレースがとても上品で清潔そうだった。


「あっ……あの……なにか?」

「さっきから呼んでるのに応えてくれないから、てっきり嫌われているのかと思っちゃったわ」

「嫌う? 初対面の人間を? なんで?」

「だって、わたし……あなたの全教科最高得点を邪魔しちゃったから」

「ええーっ! あなたもしかして……男なの!」

「なっ、なっ……なんでそうなるのっ! わたしのどこが男なのよ!」


――そうだ、そうだ! レイラに謝れ!

――おまえなんか足元にも及ばない女性なんだからな!


「へっ?」


 化学室のドアの隙間から、男子学生たちが中を覗き見していた。どうやら彼女は、レイラという名前らしい。


「あの……レイラ? ごめんなさい。わたし、考え事を始めるとまわりの音が聞こえなくなっちゃうの。それでなんども、農場主から棒で打たれたわ。以後、気をつけます」

「まあっ! 棒で? こんなか弱い女性を?」


――ガシッ!


レイラはわたしの両手を握りしめると、心底心配そうに顔を覗き込んできた。


「あっ……あの……。細いけど、身体は丈夫よ。わたしがいけないの。労働の合間に勉強ばかりしていたから。今も、自分の世界に没頭してしまっていたみたい。あっ! あなたのこと、男って言っちゃったわね? 申し訳なかったわ……。化学のできる魔法使いは絶対に男だと決めつけてしまっていたの。先入観は人間の罪の1つだわ。本当にごめんなさい」


――そうだ、そうだ! 手をついて謝れ!

――レイラの手から、その枯れ木みたいな手を放せ!


「ちょっと! 外野がうるさいわね! 今日は初日でしょ? さっさと自分たちの教室に行きなさいよ!」


――ツカツカツカツカッ……ピシャンッ!


――わああーっ! レイラー!


 レイラは化学室のドアの隙間をピシャリと閉じてしまった。


「そんなに謝られると、こっちが恐縮しちゃうわ。シェリーメイよね? シェリーって呼んでいい? わたしはレイラ・アルデラ。よろしくね?」

「ええ、シェリーと呼んでちょうだい。レイラ、こちらこそよろしくね。ところで……レイラは魔法が使えるのに、どうして普通学部を選択したの?」

「フフフフ……珍しいでしょ? わたし、小さい頃から理数系の勉強が大好きなの。特に化学がね? 専攻は物理化学よ。シェリーこそ、どうして化学を? たしか経済学部だったはずよね」

「2年で卒業するために、最初の半年間はすべての教科が必須科目なの。魔法学以外のね。忙しいけど、なんとかやりくりしてがんばるわ」

「まあっ! ほんとに? シェリーは勤労学生なんでしょ? たいへんじゃない! それじゃあ……忙しくてわたしの呼び掛けにも答えないはずだわ」

「レイラ、どうしてわたしの専攻学部を知ってるの?」

「首席の天才児シェリーメイは、いまやこの魔法大学校いちばんの有名人よ。もう1人の有名人、アレックス・カーライルと仲が良いんでしょ? あんなイケメンと、どうやって知り合ったの?」

「もう、ウワサになってるの? アレックスとは……仲が良いというか……。こどもの頃にちょっとだけ会ったことがある程度なの。アレックスが、ひどく懐かしがって……」

「じゃあ、幼馴染なのね? うらやましーわ!」

「アレックスはどうして有名人なの? ハンサムだから?」

「ちがうわ。彼は魔法使いたちの中では名前が知られているのよ」

「えっ? どういうこと?」

「知らないの? ほんとに? 天才シェリーメイでも知らないことがあるのね? 公爵子息アレックス・カーライルは……」

「アレックスは……?」

「魔法界の天才児と呼ばれているのよ!」

「アレックスが……魔法の天才ですって!」


 頭の中でクリスマスのクラッカーが鳴り響いた。

 わたしの魔法大学校、授業初日はこんな風にはじまった。

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