秘薬
(完全に冷え切っている……まずい。)
真白の体を運び寄せ声をかけるが意識は無い。
魔力を集中させると、心臓の鼓動も感じ取れたが弱々しく感じる。
(回復魔法……。)
自らの鱗を再生させた魔力の感触を真白に向けて行う。
しかし、真白の体には何の変化も生じない。
(何故だ!?傷にしか効かぬのか、我自身だけか……ええい、後回しだ。)
寝床に利用していた干し草と布で真白の体を包むが、すぐに温まることは無い。
(温める方法……クソッ、体が、腕だけでも動けば手で包んでやれるものを……動け……!)
魔力だけでは濡れた服を脱がせることもままならない。
瞼と眼球以外はほぼ微動だにしない体があまりにももどかしい。
(今は酸素などと言っている場合では無い。それに、無理矢理外から空気を運び込めばよいのだ。火が熾せれば……。)
干し草の一部を火種にして魔力で火熾しを試みる。
しかし、火花すら発生しない。
(くっ、せめて火打ち石があれば……何だここの石は!脆すぎる!)
魔力で周辺の石同士をぶつけあうも、互いに崩れ去るだけ。
干し草を肌に擦りつけ、摩擦熱を与えようとするが、擦りつけたところがミミズ腫れのようになってしまう。
(これは……肌が弱すぎる。回復魔法……効かない!他人には使えぬのか、この出来損ないめ!)
普通なら、せめて自分が人ならば、他にも取れる手段はあったはず。
それなのに、龍だから。
圧倒的な力を持つであろう龍だからこそ、助けることができないのか。
(何故、我は……俺は龍なんかに……!……待てよ、龍といえば……。)
龍は体中あますところなく利用価値があるとされる話が多い。
牙、爪、皮、鱗、骨、肉、眼球、内蔵、そして、血液。
魔力を刃と化し、自身の指先を傷つける。
じわりと滲む血を魔力で包み、真白の口元へと運ぶ。
(毒であってくれるなよ!)
少しずつ、喉を通る龍の生き血。
ひとまず、苦しむ様子はない。心臓の鼓動も心なしか強さを取り戻している。
(よし、当たりか……?今は少しでも乾かさねば。)
布を服と体の間に差し込み、さらに干し草を詰め込む。
干し草の空気の層が高い断熱性と保温性を発揮してくれるはずだ。
服側の干し草は早いサイクルで取り換えていく。
30分ほど作業を繰り返していくうちに、体は乾き、容体は安定していた。
(血が効いたか、干し草が効いたか……まぁどっちでも良い。身を削ったのと干し草が同じレベルなのはなんとも言えんが、助かったのなら。)
――
真白が目を覚まして最初に感じたのは、炎の暖かさとちくちくとした痛みだった。
痛みといっても、くすぐられているようなものだが、何かと思い胸に手を当てようとすると、普段より高い位置で手が止まる。
「あれ?成長した?」
「何の話だ。」
「はっ、龍神様。おはようございます。あっ、ちくちくする。」
「干し草だな。寒くなければ出しておけ。」
「干し草?うわっ何これ?服の中にいっぱい……。なんだ、成長したんじゃないんだ……。」
立ち上がりばさばさと服をはたき、中の干し草を出していく真白。
問題なく回復したようだ。
「自分がどうなったか覚えているか?」
と、気を失う前の様子を尋ねる龍。
「えっと……すごく寒かったような。あと眠かったです。」
「……水温がどの程度か確かめなかった我の責任でもあるが、冷たい水だとわかっていたなら何故すぐにやめなかった、馬鹿者。」
「水浴びもいつもあれくらいだったので……。あれ、水浴びってどうしてたっけ?」
「……濡れた服は体温を奪う。次からは気をつけろ。」
「はい。龍神様。」
と、返事をしたと同時に真白の腹がきゅうと鳴った。
「お腹空きました……。えっと……。」
「魚は獲っておいた。木の枝に挿して焼くといい。」
「ありがとうございます。……えいっ。よいしょっと。」
豪快に魚の口から迷いなく木の枝を突き刺して焚き火に魚を当てる。
「おい、直接火に当てるな。少し離しておけ。」
「どうしてですか?」
「火に当たったところが焼け焦げても中まで火が通っていないことがある。寄生虫などもいるかもしれんからしっかりと焼け。」
「はー。なるほどー。きせーちゅーですか。」
よくわかっていない顔をする真白だが、素直に火から離して魚を焼き始めた。
――
「はぁ。美味しかったです。」
「食ったな。」
真白は10匹もの魚を腹におさめた。
そんなに食べると思っていなかった龍は、おかわりを要求され呆れながら魚を獲っていた。
「それほどに食うならば、できるだけ早く一匹だけでも取れるようになっておけよ。」
「はい。ではお昼ごはんの分獲ってきますね。」
「病み上がりだろう。今日は休め。あと外の時間は夜だ。」
「えっ、夜なんですか?うーん……でも全然眠く無いです……。お昼のつもりで食べて、お昼寝のつもりで寝ます!」
「休めと言ったことについては?」
「大丈夫です!今すごく元気なので!」
言うやいなや、真白は水場へと向かっていってしまった。
(やれやれ。今度は注意しておくか。火も時間さえあれば熾せたし、大丈夫だろう。)
ドン!
(何だ!?)
水場の方から大きな衝撃音が聞こえた。
(真白……!……いや、待て、何だ?この魔力は?)
初めて感じる、自分以外が発する魔力。
だが、その魔力は、あまりに自分の魔力に酷似していた。
「龍神様ー!いっぱい獲れましたー!」
その魔力は、真白から発せられていた。
ブックマークありがとうございます。
あらすじをちゃんと書こうと思います。
プロローグの大事なところを全部書くくらいの勢いかな。