プロローグ 出会い
「龍神様の怒りだ……。」
「何としても鎮めねばなるまい……。」
「― あれを生贄として捧げてはどうだ?」
―― 一瞬の間
「まさか、『忌み子』をか!?」
「更なる怒りを買うのでは……。」
「いや、何も言わなければ、『忌み子』であるということもわからんだろう。
それに、一度で終わりとも限らん。」
「……ひとまずは、それしか無いか。皆、良いか?」
――
1年前、その地に突如、天を揺るがすほどの咆哮が響き渡った。
その日以来、山から動物という動物は姿を消し、嵐は吹き荒れ作物は実らず。
限界だった。
税により備蓄もろくにできていない村で、一年もの間よく持ちこたえたほうだろう。
その龍がいつからいたかは定かではない。
というのも、一年前の咆哮で初めて存在が知られたためである。
巨大な咆哮と天変地異、そのようなことができるのは龍だろうとされただけで、姿すら見たものは居ない。
生贄を捧げる以外の選択肢は、彼らには考えつかなかった。
――
ガタゴトと揺れる台車を、村の貴重な農耕牛に引かせ、山を登る。
姿を見たものは居ないが、龍がいるとすればその山唯一の洞窟だろう。
鉱石なども特に無く、無駄に広いだけの洞窟がある。
ガタン
洞窟の入り口で牛車は止まる。御者の中年の男は、牛と台車を離す作業を始める。
村に2頭しか居ない牛だ。連れ帰らなければならない。
そして、台車に乗る人物に声をかける。
「降りなさい。台車は置いていく。捧げ物もあるからな。」
フードを深く被った人物がゆっくりと台車を降りる。
「この洞窟を進むのだ。お前は生贄に捧げられたのだ、村に戻ることは許されないぞ。」
フードの人物は両手を組み、ぐっと握りしめて洞窟へ向けて歩き出した。
「ではな。立派に勤めを果たせよ。」
御者の男は一言そう告げると、牛を引いて来た道を戻っていった。
――
洞窟の中を進む。
目が慣れても、入り口から離れると光源も無く、真っ暗な世界が続いていた。
ゆっくりと、一歩。また一歩と、亀のような足取り。
しかし、生贄に捧げられるというのに、龍に相対するというのに、その足は震えていなかった。
(初めて役に立てる……。)
その思いだけが足を進ませていた。
――
そこに足を踏み入れた瞬間、光に包まれた。
光、とは言っても周りを軽く照らす程度。その空間は、壁や天井が淡く光っていた。
空間の中心には、巨大な岩が2つ。片方は、もう片方の何倍もある。
その岩に近づいていく。
(……違う。これが……!)
岩は1つ。小さい方。
もう1つこそが、紛うことなき、龍だった。
(龍神…様…!)
それに気づいた直後、龍の眼が光る。
眼を開けた。ただそれだけだ。
「……っ!はぁっ……!」
呼吸すら制限されたかと思うほどの緊張が走る。
しかし、自分には役目がある。
伝えなければならない。
「龍神様っ……!どうかお怒りを鎮め、空と大地にお恵みを戻してください!私はその生贄として参りました!どうか…!どうか…!」
膝を付き、フードを外し、その人物は……真っ白な髪の少女は龍へと訴えかけた。
そして龍は……
(いやー、俺人間は食えないわ。元人間として。)
ん?