表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

老体

 アーストは龍人が死んでいる事を確認してから、検分を始めた。深紅のローブの彼となんとなく話しづらかったのだ。年齢的には成人をしていてもおかしくはなく、ベルン第二騎士団にも、相応の年齢の者は大勢居る。ただ、彼の思案顔はどことなくあどけなさが残る、だが、なぜか他者を近寄らせぬ程のオーラを纏わせている。現に同じ年頃のものに話しかけさせようとしたが、皆その気風・オーラの前に尻込みしてしまっていた。


 その時、深紅のローブの彼が口を開いた。

「すみません。私はカズイと申します。ご挨拶が遅くなりました」


 アーストやその周りに居た者達は、一瞬何を言っているのかわからず、理解するのに苦労したが、彼の名前も素性もわかっていないことにようやく気がついた。アーストは、はにかむように笑うと和維に向き直る。


「こちらこそすまん。私はベルン第二騎士団で参謀をつとめるアーストだ。加勢ありがとう」

「いえ、結局、そこの人を討ったのはアースト様ですし。私は何もできませんでした」


 和維は龍人の死体を少し悲しそうなまなざしで見つめる。


「いや、君が来てくれなければ、隙を生む事も出来なかった。それにワイバーンを拘束し落下させることも我々には出来なかった。だから、この龍人を討った事は君のお陰でもある。ありがとう」


「そうですか……」


 和維は、「それはクロスがやりました」とは言えず、言っても信じられるはずもなく、その上、龍人を殺したのは結局自分の後押し、というところで、また心の中に消えかける。


「そういえば……」


 そこにアーストが言葉でこちらの世界に結びつけようと声をかける。


「うちの老体を見なかったかね。」

「老体ですか?」


 アーストは和維の顔に表情らしきものが戻って来たのを確認し安堵する。


「そう、うちの老体なんだが、最近言う事を聞いてくれなくてね。さっきも君たちと一緒にゴブリンどもを食い止めるって聞かなくてね」

「ローゼンマイヤー様ですか、しばしお待ち下さい」


 和維はそういうと谷の西側の出口を見やって、こめかみを触る。


 − 探索:ローゼンマイヤー –


 結果が左目網膜に投影される。が……。和維は何も言わない。いや、言えなかった。


「カズイ殿は探知を無詠唱しているのかな? すばらしいものだ大天使様の御使いというのは。で、ご老体は大丈夫かな。またぞろ老体にこたえて、いまご…ろ……」


アーストが後ろの気配に気がつくのが早いか、怒気を発するのが早いか。


「誰が老体じゃ! 老いたりとはいえ、老体などではないわ! かかってこい! 若造が!」


「老いてるのは、認めるんですね。いや、良かった。そろそろ隠居して頂かないとと思ってたところなんですよ」


「ほざけ若造! 隠居の前に貴様を神の御前に送ってくれるわ! そこに直れ!」


騎士たちが皆、ローゼンマイヤーを止めにかかる。「刃のさびにしてくれる」とか「武人の名折れ」とか言っているが、いつもの事なのだろう、手慣れた感じで騎士たちも五体を拘束して立ったままで動けなくしていた。ローゼンマイヤーも本気ではない感じもした。


「落ち着きましたか? そりゃあ死に目じゃなく生きて会えたんだ悪態つきたくなりますよ。副団長」

「まだ、ほざくか」

「そりゃあ、気が済むまで。まっ、いまは王女殿下も生きてお会いできた事だし、不問にしときますよ。今度は勝手にお連れにならないで下さいよ、こっちも大変だったんだ」


 周りの騎士たちがざわめく、王女は馬車のはずだ。誰も疑いはしていない。少ない手勢をつれていった副団長に向かって王女の無事とは何事かと。ローゼンマイヤーはバツが悪そうに力を緩めると「離さんか」と言って周りの騎士たちをひかせた。


「わたくしのわがままですので、それくらいにしてあげて下さい。アースト」


 先ほどの小柄な騎士が歩み出て、ローゼンマイヤーとアーストの前にたった。そして、兜を脱ぐと束ねられた銀髪が、頭を振ってほどかれ柔らかくふわりと音がしそうな髪が鎧の背に流れる。


 周りに居た騎士たちが膝を折って臣下の礼をとる。和維とミカはそれぞれ、何をすることもなく、それぞれ別の意味で立っているだけだった、ミカは主様(マスター)のみ。和維は何をして良いかわからずに、だったが、遅ればせながらという感じで、膝を折り始めた。


「カズイ様はそのようなことをすることはありません。こちらが助けて頂いたのです。どうぞ、お立ち下さい」


 カロリーナはそう言うと、和維に歩み寄って、手を持つと引き寄せるように立ち上がらせた。カロリーナは15歳くらいだろうか、目鼻立ちは整っていて、色も白く透き通ったような、フランス人形をずっと大人にしたような感じだ。かわいらしさの中にも綺麗さがある。和維は少し見とれてしまったが、ミカから「主様(マスター)」と小声で突かれ我に返る。


「す、すみません。王女様」

「いえ、こちらこそ助けて頂きありがとうございます。カズイ様、ミカ様」


 ローゼンマイヤーはその言葉で若干興奮したように、和維たちに言った。


「左様、ミカ殿の勇猛たるや、トロルの首を一刀のもとに切って落とし、そうかと思えば、ゴブリンどもをファイアウォールで焼き払い。オークなど剣気だけで逃げ出して行くという……」

「ご老体、カズイ殿がお困りです」


「老体ではないと! 何度言えばわかるか若造が!」


 ミカがやれやれというような感じで和維に言った。


「とりあえず、森からやってくる魔物どもは殲滅してございます。また、その龍人が死んでから森の中の魔物の反応も散っていきましたので、もう心配もないかと。主様(マスター)


 それを見ていた、アーストが声をあげた。ミカの発言ですでにローゼンマイヤーの怒りもおさまっているようだ。


「本日はここで野営にし明日以降の話しをしたいのですが、よろしいですか。カロリーナ様」


「わかりました。わたくしも少し休み、カズイ様と ミカ様とお話しがしたかったところです」


 そうして、アーストの号令の元、兵士、騎士たちは荷車からテントや幕舎などの設営を始めた。


いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

皆様の感想やご評価が、とても励みになっています。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ